第55話 いじめの因果応報

「おら! おら! 」


 吉田は野山を自身の拳で痛めつける。場所はサッカー部の部室であり、部活開始前の時刻。

 

 野山の制服が所々破けており、口元から血が流れていた。


 そんな光景に部員達はニヤニヤ笑みを浮かべる。


 止めに入ろうとする者はいない。


――ドガッ!!


「ぐっ!? 吉田先輩……もう許してください……」


 野山は腹を抱えてその場に倒れ込む。その表情には苦悶の色が浮かんでいた。


 吉田はその様子に満足した顔を露見させる。


 そして振り返ると再び野山を痛めつけた。


「いやだね。いじめを傍観して楽しくて仕方のない奴にはもっと痛い目にあってもらわないとな~」


「……ッ!」


 その言葉に野山は悔しそうに歯噛みする。


「そうだそうだ! 」


「悪い奴はそれ相応の罰を受けるべきなんだ! 」


 この場にいる全員が知っていた。1年、2年、3年のこの場に身を置く10人ほどの部員すべてが。野山が晴斗のいじめられているところをただ黙って見ているだけでなく、ニヤニヤ笑みを浮かべ楽しんでいた事実を。


「おいおい、お前らも同罪だろう? 同じようにニヤニヤしてるじゃないか? 」


 野山の胸ぐらを掴み無理やり立たせ、吉田は周囲の部員達に問い掛ける。


「えーなんのことですか? 顔が引きつってるだけですよ?」


「俺もですよ。そもそもこいつが弱いのが悪いんじゃないですか? 弱肉強食ですよ。それに俺達がいじめを見て笑っていることは学校内に知られていませんもん。こいつがいじめを見て楽しんでいた事実は学校中に知れ渡っていますからね」


「あぁそうだな。それが1番の問題だよな。それが罰を受けてる理由だもんな。少なからずお前のせいでサッカー部のイメージは下がったからな」


 白々しく言葉を並べる部員達。その顔には悪びれた様子が一切見られない。


「くそっ……」


 せめてもの抵抗で野山は吉田を睨む。だが、それは逆効果であった。


「あ? なんでその舐めた面は」」


 ガッ。


 先ほどよりも更に強い力で吉田は野山の顔を正面から殴った。


「うっ……ぐぅ……」


 殴られた痛みを和らげるために、野山は地面で顔を押さえながら悶える。


「チッ。まだ生意気な態度を取るのかよ。おいお前ら! お前らもこの雑魚をボコボコにしていいぞ~」


 そう言って吉田は他の部員達に呼びかける。


「え、まじで。本当にいいのか? 」


「最高かよ吉田! 」


「了解っす」


「いや~楽しみっすね」


 吉田の言葉に従い、1人の部員(おそらく3年生)が野山の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせる。そしてそのまま待ってましたと言わんばかりに嬉々した表情で全員一斉に動き出す。


 1人が殴りかかると、それを合図に他の者も続くように野山に襲いかかる。


 こうして、サッカー部員による制裁という名のリンチが始まった。


「ちょ…。待ってください。いてぇ。いってぇ~~~」


――数分後。


 そこには全身ボロボロになりながらも立ち上がる気力すら失った野山の姿があった。


 制服は破れてボロボロ、衣服で隠れているが身体のあちこちは腫れ、痣も所々ある。


 そんな野山の姿を見ても、周りの部員達は笑い声を上げるだけで手を止めることはしない。


 むしろ、より一層激しく暴行を加える者もいた。

 

 その様子を見て満足げな表情を浮かべているのが吉田だ。


 彼は今、サッカーシューズを履いている。残りの部員達も吉田に倣ってサッカーシューズを履き始める。


「そろそろ部活の時間だからな~。前半はこの辺で済ませてやる。だが。部活終了後の後半もっとエスカレートするからな~。覚悟しとけよ」


 そう言い残し、吉田はその場から去って行った。


「おう。俺達は楽しくて仕方ないからな」


「精々死なないでくださいよ。イケメンの野山先輩! 」


「いや~。日頃のストレスが解消できたわ。吉田が良いサンドバック見つけてくれたおかげだわ」


「だよな! もっと俺を褒めてくれよ! 」

 

 残されたのは部員達の笑い声と、全身傷だらけで地面に倒れ込む野山だけであった。部員達の汚い笑い声が野山の過敏になった鼓膜を刺激する。


「く、くそ。なんで俺がこんな目に…不幸だ…」


 ガクッ。


 力なく野山は部室の床に突っ伏し気絶した。

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