第25話 甘神さんのマフラー
これは、2日前の、記憶——。
俺は何かを棚に広げて……置いていた、ような。
『別に変な意味はねーけど、しばらくあいつと会えねーし……。このマフラーはここに置いて』
そうだ……俺はあの時。
「……やばっ、マフラー」
俺は両手に茶飲みを持ち、階段を駆け上がる。
「おいお前ら!」
部屋に飛び込むと、中では鈴木がマフラーを両手に持って立ち尽くしていた。
「あ、あまちん、これはヤバいよ」
「あ、ああ、天野くん……いくらアレのネタが無いからって甘神さんのマフラーを盗むなんて……」
「おにぃが、そんなっ」
と、時すでに遅し。
「ボクが天野くんの性管理をできなかったばっかりに!」
「気持ち悪いことを言うなっ。あのな、これは俺が貰ったもので」
「甘神さん公認でこれを使って⁈」
「なんもしてねえって! これは……クリスマスに、その……プレゼントで貰ったんだよ」
「ちかみんがくれたの?」
「お、おう」
「ってか、あまちんとちかみんってクリスマス一緒だったの?」
「……まぁ、そうだが」
この事は口外したくなかったんだが。
「へぇ……クリスマスプレゼントに自分とお揃いのマフラーかぁ。天野くんやるねー」
先程の絶望感のある顔から、一気に揶揄い顔に変わる鈴木。
最悪な展開。
俺はとりあえず客人の2人にお茶を差し出し、床に座ると頭を下げた。
「鈴木、神乃さん、この事はどうか内密にっ」
「分かってるよー。ボクは天野くんの味方だからね」
「あ、あーしも揶揄うつもりとかねーからさ、そんな顔しなくてもいーし」
「あのー、ちょっといいですか」
妹が俺たちの会話に割って入ってくる。
「ずっと気になってたんですけど、おにぃがクリスマスに会ってた甘神さんってどんな人なんですか?」
「おい妹よ、今そんな事はどーでも」
「ほらこの人だよー」
鈴木が自分のスマホを妹に渡す。
「……は、はぁ⁈ おにぃが、こんな美人さんと⁈」
「悪いか」
「おにぃ……騙されてるよ、きっと」
「妹ちゃん、甘神さんはそんな人じゃないから大丈夫だよ」
鈴木がフォローするとか珍しいな。
「あの人はボクの上を行くほどの存在だから、あまり言わない方がいい」
「そ、そんなに凄い人なんですね」
なんだよ甘神が怖いだけか。
そういえばクリスマスの時も睨まれたとか言ってたし、鈴木に上下関係を意識させるとは……さすが甘神知神。
「おにぃって、高校でキャラ変とかしたんですか? この美人さんとか、神乃さんだってめっちゃ可愛いし、普通こんな綺麗な人たちと陰キャおにぃが仲良くなれないですって!」
散々な言われようだな。
「か、可愛いとか……そんなことねーし」
「可愛いですよ! 神乃さん、性別変えて私の同人誌に出てもらえないですか? 最愛の鈴木さんからギャル男がおにぃを寝取るっていうの書きたくて」
「妹ちんは一体何を言って」
「まともに聞かない方がいい。頭が腐る」
妹はこうやって今までも周りの人間をモデルに俺とのBLを作ってきた。
中学生にしてはズバ抜けた絵の才能を持っているのに、まさかのBL専門と言う……才能の無駄遣いだろ。
「さて、せっかく天野くんの家に来たんだから、神乃ちゃんにいいもの見せたげるー」
鈴木は俺の勉強机から分厚いアルバムを取り出して、床に広げた。
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