第27話 兄妹の会話

 

 ——12月29日


 昼過ぎまで身が入らずにゴロゴロしていた俺を、妹が叩き起こした。


「明日から東京でしょ! 早く準備しなよ!」

「へいへい」

「コミケだよ! あの日の屈辱を忘れたの?」

「屈辱も何も、初参加でロクに知名度も無かったお前が調子に乗って100冊も刷ってボロ負けしたダサくて苦い記憶だろ?」

「い、今の私なら500冊だって売れるもん」

「鈴木がプッシュしてくれたおかげだろ? 鈴木の公認マーク無かったらお前の漫画誰も読まねーし」

「はぁ⁈ あの名作たちを愚弄するとかおにぃサイテー。あれは国立図書館にも寄贈できるし」

「できるわけねーだろ。腐ってるお前の本なんか置いたら国立図書館にキノコが生え出す」

「あーもう、私の作品はいいから準備しなさい!」


 妹に怒られやっと重い腰を上げ、押し入れから大きめのショルダーバッグを取り出して、東京への荷造りを進める。


「私の同人も写真集と一緒に置いてくれるみたいだから、お礼言っておいて」

「分かった」

「あと、本の相手役はいつもおにぃがモデルってトュイッターで公言してるから、おにぃと鈴木さんのカプ推しも来ちゃうかもしれないけどそこのところよろしく」

「分かっ……おい、ちょっと待て。なんで勝手に俺をネット界隈の玩具にしてやがる」

「いいじゃん。顔は似せてるけど、分かる人にしか分かんないし」

「本当だろうな?」

「……まぁ、ね」


 この反応を見る限り、まずいかもな。伊達メガネくらいはかけていくか。


「トラベル●ンは持った? あと胃腸薬も。それに」

「分かった分かったから。後は自分でやっておく」

「でも、でも……」

「今日はやけにお節介だし、様子が変だぞ」

「……だって」


 妹は珍しく俺の腕に抱きついてその腕に無理矢理顔を埋めた。


「2日間もおにぃがいないのは寂しい」

「……はぁ。ったく、趣味は変わっても甘えん坊なのは変わんねーよな」

「しょうがないじゃん!」


 妹はポカポカと俺の腹部を叩く。


「じゃあ俺は勝手に明日の支度すっから、お前はそこに居ろ」

「……うんっ」


 忙しく手を動かしながら、俺は妹と色んな話をした。

 中でも、あんなに趣味に時間使ってる妹だが、うちの高校の合格判定がBに上がったことを自慢気に話していた。

 なんだかんだ帳尻合わせるんだよな、こいつ。

 そういえば惨敗だったコミケ初参戦の時も、脱稿がスケジュールギリギリだったしな。


「そんなに寂しいならお前も来ればいいのに」

「もうあそこは怖くて行けないもん。私の本が売れないところを見るのは辛いし」

「知名度も上がってきてんだから売れるって」

「とにかくいいのっ。私は私でやることあるから」

「やること?」

「……勉強っ。流石にやらないと、年始の模試でA判定もらえないし」


 そっか、ただ帳尻を合わせてるんじゃない。

 こいつはこいつで必要最低限の努力を必死にこなすから結果が伴うのか。

 俺は、いつも鈴木にしてやるように妹の頭に手を置いて、優しく撫でた。


「コミケのお土産で欲しいもののリスト書いとけよ。買ってきてやるから」

「ほんと?」

「その代わり、絶対A判定取れよ。約束だ」

「うん! 約束っ」


 こうやって普通にしてればマジで理想的な妹なんだが……。


 その後渡されたBL本だらけのお土産リストを見て、唖然とするのだった。

 ……やっぱダメだこいつ。

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