第42話 コスプレ開始ぃ!


 深夜2時、私はいつもこの時間に目が覚める。


 昔、3人が私を置いて消えた、この時間に……。


 隣で眠る天野くんは目を覚ます気配も無い。

 黙っててもこんなに可愛らしいなんて、ズルいわね。


 私はベッドの隣にあるテーブルライトを点けて、毎日つけている日記を開く。


『12月30日 ……天野くんが隣で寝ている。それだけで心から安堵を覚える。今日という1日がこの1ヶ月の集大成にも思える日になった。今度こそ天野くんは私だけを見ている。二度と、あんな思いをする必要は』


「……必要は……無い、よね。天野くん」


 私はシャーペンのヘッドにある消しゴムで書きかけた一行を消した。


『12月30日 ……天野くんが隣で寝ている。それだけで心から安堵を覚える。今日という1日がこの1ヶ月の集大成にも思える日になった。今度こそ天野くんは私だけを見ているのだから』


 天野くんは私の隣にいたいと言った。

 嬉しかったし、これ以上の言葉を言われたら私の方が壊れてしまうところだった。


 そっと胸を撫で下ろし、天野くんを見る。


 あなたはそのままでいてほしい。

 純粋で単純で、鈍感で少しおバカなままで……ね。

 私は、そんなあなたが好きだから。


 ✳︎✳︎


 目が覚めると知らない天井があった。

 辺りを見渡すと、どっかの高校の制服を着た青髪メガネ清楚系美少女が。


「い、異世界転移したのかッ⁈」

「なに馬鹿言ってるのかしら? 早く起きて準備しなさい」

「あぁ、なんだ甘神か……って、甘神⁈」


 漫画から飛び出したのか……ってくらい再現度たっか。

 新幹線の中で読んだ漫画に出てきたあの制服。

 紺色の地に、同じ色のボレロを羽織るという特徴的な制服で、膝に掛かるくらいのプリーツスカートまで再現度がかなり高いことに舌を巻く。


「再現度高いでしょ? さっき鈴木さんが来て、着るように言われたの」

「あぁ! すげーよ! さすが鈴木……だ……な」


 俺は自然とあそこに目がいく。

 不自然な膨らみがそこにあった。

 こ、これは……。


「あなた今、失礼なこと考えたでしょ?」

「……」

「何か言いなさい!」

「……」

「ちょっと!」


 甘神が顔を赤くして寝起きの俺の体を揺らす。


「天野くん起きたー?」


 鈴木が当たり前のように部屋に入ってくる。

 甘神と同じ制服を着ていて、鈴木のキャラに合わせてちゃんと袖が余っていたり、少しブカブカだったりと、ディテールまで拘っていた。

 普通に可愛いけど、鈴木にはアレが付いていることを忘れてはならない。


「おお、おはよう鈴木」

「おはよー。昨晩はお楽しみでしたねー」

「なんもしてねーよ」

「同じベッドで寝たのに?」

「なんで知ってんだ⁈ ……って」


 鈴木が急に顔を真っ赤に染めた。


「い、い、一緒に寝たの⁈ え⁈」


 こいつ適当言っただけだったのか……あー、やっちまった。


「……鈴木、違くてだな」

「一緒に寝たわよ」

「おい甘神!」

「きゃーっ。神乃ちゃーん!」

「言うな! ぜってー言うな!」


 俺は鈴木の口を両手で塞いだ。


「むーむー!」

「お前の方こそ、神乃さんに何もしてないよな?」

「しないよー。ボクが変なことすると思う?」

「……お前だって一応男だし」

「信用無いなぁ。ボクが天野くんでしか●けないって知ってるくせに〜」

「お、おい! 甘神の前でそういうこと言うなっ」

「別に構わないわ。猥談の一つや二つ」

「良くねーから。とにかく鈴木、いつもみたいに口を滑らせるなよ」

「はいはい。分かりましたー」


 こいつのことだからいずれバレるだろうが。


「甘神さんのコスプレ、凄い似合ってるよー」

「そう? ありがとう鈴木さん」

「……まぁ、そこまで忠実にしなくても良かったんだけどなぁ」


 鈴木の目線が明らかに……。

 甘神がキレそうなのを察した俺は、即座に別の話題を提供する。


「す、鈴木! お前はキャラと同じ髪の色にしないのか? ほら、ピンクの」

「後でウィッグするよー」

「そ、そうか。あれ、神乃さんは今着替えてんのか?」

「そうそう、神乃ちゃんが着替え中だからボクはこっちに来たのー。紳士でしょ?」

「当たり前だっての」


 神乃さんのコスプレ……。


「何もぞもぞしてるのかしら天野くん?」

「し、してねーよ」

「ふーん」


 甘神の蔑むような眼差し。

 朝からそんな目で見られたらある意味ご褒美になってしまうのだが……。


「どーせ、神乃さんの肌色の多いコスプレを早く見たいとか思ってるんでしょうね」

「天野くんのことだし、きっとそーだね」


 相変わらず俺の思考は筒抜け、今更隠しても無駄ってことね。(諦め)


「あ、そうだ!」

「どうした急に」

「天野くんに渡すものがあって」


 鈴木は手さげ袋から服を取り出す。

 まさかこいつ、俺にもコスプレを。


「はい、スタッフジャージ」

「……おう、ありがとな」


 そりゃそうだよな、なんで期待したんだか。


「あと、この伊達メガネ付けといてー」

「伊達メガネ?」


 鈴木はさらに伊達メガネを取り出して俺にかけた。


「そりゃそうだよ、天野くんのコスプレはボクとの同人誌の中の天野くんなんだし」

「……最悪だ」

「ボク達推しの人もいるからちゃんとしないとねっ」


 誰得なんだよ。

 はぁ……俺たちを推してるとか、どーせ数人だろうし、いいか。(フラグ)


「妹さんの同人誌とやらを私も読みたいのだけれど?」

「だーめーだ!」

「なんで私だけダメなのよ」

「あ、甘神には、見せたく無いんだよ」

「そーだね。甘神さん、実は妹ちゃんの同人誌ってボク達が性別の垣根を越えて純愛するのがテーマの本なんだ」

「……そう、なのね」

「天野くんは甘神さんにボクなんかと恋愛してる本見せたく無いんじゃないかな」


 鈴木が自虐気味にそう言って甘神を宥めた。


「そう、なの?」

「あ、あぁ」


 俺としては、自分の妹がどエロBL(時々N●R)本を書いてることが甘神にバレたく無いだけだったんだが。


「なんかごめんな鈴木。あと、ありがとう」


 俺は小声で鈴木に礼を言う。


「いいよ。誰だって好きな人にそんな本見られたくないもんねっ」

「い、今のところは、好きとかじゃねーからっ」

「はいはい、そーでしたねー」


 鈴木は偶にノンモラだけど、こう言うところはしっかりしてるからな。


「ごめんなさい天野くん」

「どした?」

「……なおさら見たくなったのだけど」

「は?」


 甘神知神の好奇心は誰にも止められないのだった。

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