第43話 甘神さんのホンネ
隣の部屋から神乃さんが薄茶のトレンチコートを羽織ってやってきた。
髪がウィッグで完全に金髪になっており、いつもより少し厚手のメイクがギャルの印象をさらに強くしている。
「あ、あーしだけ制服が制服になっていないような」
相変わらず寄せなくても見えるくらいの谷間と、左肩がチラ見えするくらい着崩した制服。スカートの丈も彼女のものだけやけに短く繕われていた。
寒くてコートを羽織っているのではなく、色々と隠すために羽織っていることは一目瞭然だった。
「……ほうほう」
俺が目を細めていると、「その反応キモすぎるんだけど」と神乃さんが俺から距離を置く。
「神乃さん、ついでに舌打ちしてみて」
「キモっ。あまちんだけはこっち見んなし!」
「そーだよ天野くん。さっきから神乃ちゃんの胸元ばっか見てるしっ」
見てな……いや、見てるんだけれども。
ちなみに敢えて甘神の方に視線を向けないようにしている。どーせ後で怒られるだろうし。
「やっぱ金髪の方が似合うよ神乃さん」
「そ、そう?」
「それにもっと胸は強調してもいいかと」
「は?」
「個人的には後もう少しスカートが短かったら完璧だったんだが」
調子に乗りすぎた俺は、いつの間にか真隣に立っていた甘神に思いっきり足を踏まれた。
痛みでしゃがみ込む俺を無視して会話が進む。
「とても似合っているわ」
「あ、ありがとうちかみん」
「……」
「……ちょ、鈴木ちん! ちかみんまであーしの胸元見てくるー」
「仕方ないよ。甘神さんだって複雑な事情があるんだ」
「鈴木さんも踏まれたいのかしら?」
鈴木は口を両手で塞いで背中を向けた。
「気にすんなって甘神」
「あなたに言われたくはないのだけれど」
「人はバランスが必要なんだ。甘神にだって良いところはたくさんあるんだから」
「あ、天野くん……」
まぁ……顔も良くて胸もあってギャルの神乃さんがある意味スタイルに恵まれすぎてるだけであって。
「お前は飛び抜けた知能があるんだからこれ以上を望むな」
「私は望むのだけど」
「なんでだよ」
「あ、あなたが……っ。なんでもないわ」
「はぁ?」
相変わらず常に強欲な甘神は、全てが完璧じゃないと気が済まないらしい。
「さてと、そろそろウィッグ付けてくるねー。3人は行く準備よろしくー」
けろっとした顔で鈴木が逃げるように部屋から出て行った。
おいおいこの2人を残して行くなよ。
微妙な空気になる前に、俺もその場から退散することを考えた。
「……俺も寝癖直してくる」
「えぇ、構わないわ」
甘神の了承を得て、俺はシャワールームに入った。
✳︎✳︎
神乃さんと二人きりになったものの、天野くんがシャワーを浴びる音が薄ら聞こえるくらい会話が無くなっていた。
私は椅子に座り直して、口を開く。
「……神乃さんは部屋に戻らなくても大丈夫なのかしら?」
「う、うん。あーしは荷物持ってきたし」
「そう……」
「……」
神乃さんと二人きりになるのは久方ぶりだ。
思い返せばいつもあの2人のどちらかがいたから。
「……ちかみんさ」
神乃さんがベッドに座りながら話しかけてくる。
「最初からあまちんと同じ部屋になりたかったんじゃないの?」
突然の何を言い出すのかと思えば……。
「さぁ、何のことかしら」
神乃さんが顔を曇らせる。
そうね、そりゃそうよね。
普通なら誰だって私が天野くんをどう思ってるかなんて空気で察する。
たとえ本人が気づいていないとしても。
「これはあーしの独り言だから聞かなくてもいいけどさ」
「……」
「あまちんはさ、あんな感じだけど、いつもちかみんのこと大切に思ってるよ。だけどさ、あの性格だから自分じゃ気づけないと思う」
「……」
「でもね、ちかみん」
神乃さんが立ち上がり、真剣な顔でこちらを見つめている。
「あーしには、あまちんが鈍感でぜんぜん気づかないとか以上に、ちかみんが怖がってるように見える。自分からその、伝えることに……」
神乃さんに言われて、私は唇を噛み締めた。
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