第15話 クリスマスへ向けて


 12月も中旬から下旬に差しかかる頃合い。

 登校最終日の今日、多くの生徒は2週間もないくらいの短い冬休みで年末年始をどう過ごすべきなのか想像を膨らませていると思う。

 3日後にはクリスマス、それが終わったら大晦日と1年を締めくくる重大イベントが連続しているのだ。


 今年の年末も例年通りこたつの中でぬくぬくと過ごすつもりだったのだが、あの鈴木トラブルメーカーの所為で30、31日は東京で過ごすことが決定した。


 もちろん家族にも許可を得て行くことにはなっているが、なぜかうちの家族は昔から俺と鈴木が付き合っていると勘違いしているので、鈴木とコミケに参加すると聞いた親から「同性と寄り添う〜初夜編〜」というタイトルの薄い本を、妹(腐女子)からは「●ーション」が早めのクリスマスプレゼントとして渡された。


 どう勘違いしたら鈴木と俺が付き合っていると思うのか。


 朝のHRが始まる前、いつも通り甘神が黒板の方を向きながら話しかけてくる。

 俺はいつもこの数分間は定時連絡のつもりで、耳をすませるのだ。


「天野くん、放課後いつものコンビニで」

「りょーかい」


 放課後、甘神に付き合うようになって早一ヶ月。

 甘神の存在がデカくなるにつれて、俺たちの行動範囲は狭まって行った。


 初日にファッションビルに行っていた頃が懐かしいまである。


 その後1限から6限まで、ほぼ自習みたいな時間が流れ、ついに下校時刻となる。


 やっと冬休みに入るということでクラスの空気はどこか浮かれていた。

 これもまた休み前の風物詩のようなものだが。


 帰りのHRが終わって、俺は甘神より先に高校から出ていつものコンビニに向かった。


 営業中とは思えないくらい静閑なコンビニの前にある手すりに寄りかかりながら、ただ自分の白い息が消えていくのを見つめた。


 そんな感じで待つこと10分、いつも通り甘神がやってきて、何も言わずに俺の隣の手すりの余ったスペースに寄りかかった。


「ちゃんと来てくれて安心したわ」

「俺が来ないと思ったのか?」

「えぇ。今日は登校最終日、そして3日後にはクリスマスなのだから、何処の馬の骨とも知れぬ女子からお誘いを受けているのではないかと思ったの」

「おいおい、俺がそんなモテ男に見えるのか?」

「……残念だけど、見えないわね」


 失礼なやつめ。


「でもね、天野くん」

「ん?」

「そんな余り物の天野くんを、私が貰ってあげる、と言ったら?」

「それって、どういう」


「……クリスマス、付き合ってくれるかしら」


 俺は突然の誘いに動揺を隠せない。

 く、クリスマスを、甘神と……⁈


「お、おお、おいおい甘神お前。クリスマスって大切な人と過ごす日だろ、そんな日に俺と……なんて」

「……嫌なら断ってくれて構わないのだけど?」

「い、嫌じゃない!」

「なら、決定ね」


 甘神は変わらず余裕な表情で俺を手球に取るようにして微笑む。


「でも、俺でいいのか?」

「……あなた以外に誘う相手がいると思って?」

「そ、そうか」


 この甘神の反応を見てもわかるが、甘神はきっと特別な日だけど、いつもの調子で楽しみたいだけなんだろうな。

 でも約束した以上、男としてしっかりしなければ。


「でも意外だったわ。鈴木さんや神乃さんには誘われなかったのね」

「あ、あぁ。登校中に神乃さんに声かけられた時、『あーし、クリスマス暇なんだよねー』とは言われたんだが誘われはしなかったし、鈴木も『誰か誘ってくれないかなぁ』とは言っていたが、誘われなかったな」

「…………」

「どした、甘神。急に黙りこくって」

「今だけはあなたのその鈍さに賞賛を送るわ」

「どうしてそうなる」


 その時、空から粉雪が舞い始めた。


「雪……ね。これだけ寒いから、もしやとは思ったけれど」

「さ、コーヒーでも買ってから帰るか」

「そうね」


 2人でコンビニに入っていつもの缶コーヒーを買う。

 今日はいつも以上に寒いけど、心は暖かかった。


 1ヶ月前までの俺に女子とクリスマスの約束をするだなんて想像はできなかった。


 それも相手はあの甘神知神。


 絶対に交わることのない平行線みたいな存在だと思っていたあの甘神知神が、今も隣で同じコーヒーを飲みながら俺の方をチラチラ見てくる。


 そんな日常が想像できるわけない。

 俺は充実した心持ちで冬休みを迎えた。


 ✳︎✳︎

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