第11話 コスプレ土下座
神乃さんとの噂も鈴木のおかげで解決しそうだし甘神も機嫌直してくれたし万事解決!
「……なわけあるか」
俺は全く眠れなくなっていた。
甘神と手を繋いで歩いた時、この時間が続けば、と思ってしまった。
あれだけ顔が熱くなったことは今までない。
そのせいで深夜になっても余韻に浸っている。
甘神が「手を繋ぎたい」なんて言うとは思わなかった。
「……明日どんな顔して会えばいいんだよ」
そんなことばかり考えていたら、神乃さんからlimeのチャット通知が入っていた。
『あまちん。明日の昼休みに自習ルームの8番に来て』
徐々に眠気が増してきていた俺は、よく考えずに「了解」とだけ返信して、眠りについた。
朝起きた時、なんで呼び出されたのか考えたら"あのこと"しかないのを思い出す。
「やべー、神乃さんの許可取らずに鈴木と約束してたんだった」
神乃さんにその約束のこと話すのを忘れていた。
きっと鈴木のやつが神乃さんに約束のことを言ったんだな。
……だが鈴木にこの件を頼むにはあの要求を受け入れるしかなかったわけで。
でも勝手に決めたのは不味いよなぁ。
俺は神乃さんがキレてるんじゃないかと思い、登校してからも気が気じゃなかった。
そしてついにその昼休みを迎えることになる。
図書室のエスカレーターで地下一階に降り、恐る恐る8番ルームのドアにノックした。
「天野です」
神乃さんの「入っていいよー」という返事を聞いて、俺はドアを開けた。
「やっときたね、天野くん」
ピンクインナー野郎がホワイトボードの前に立っていた。
やはり黒幕(鈴木)もいたか。
「神乃さん、昨日はlimeで教えてくれてありがと。おい鈴木、お前が主導なら普通お前がlimeするだろ」
「別にいーじゃん、それに天野くんのことだから神乃ちゃんに呼び出された方が嬉しいかなって」
こいつ、また適当なこと言いやがって。
「そういえば鈴木ちん、あーしらが呼び出された理由、聞いてなかったんだけど」
おいおい鈴木のやつ説明してなかったのかよ。
「こほんっ。じゃあボクがなんで君たちを呼び出したのか、順を追って説明するね。まずは君たちの噂について」
「そーいえば、あまちんが鈴木ちんに頼んでおいてくれたんだっけ」
「あ、あぁ一応」
「この件はボクの力で完全に誤解を解いておいたから安心してね」
俺と神乃さんは胸を撫で下ろした。
鈴木、流石の発信力だ。
「でもね、ボクはこの頼みを引き受ける代わりとしてあることを天野くんに頼んでおいたんだよねぇ」
「あ、あまちん、一体何を……」
「……」
俺は一旦床に正座する。
「神乃さんコスプレしてください! お願いします!」
「あまちん⁈」
人生初の土下座として地面に額を擦りつけながら頼み込む。
「ちょ、あまちん、分かったから土下座はもういいから」
「天野くん、こんなにも体張って、可愛そうっ」
「オメーが難題吹っかけてんだろーが!」
「ま、そうだけどね。神乃さん、ボク年末にコミケで写真集を売ることになってるんだけど、今売り子を探してて。コスプレしながらやってくれる子を探してたんだけど、神乃さん可愛いし、やってくんないかなぁって」
「鈴木ちんに可愛いとか、嫌味にしか聞こえないんだけど。ちなみにここであーしが断ったら?」
「そうだなぁ……君たちのは取り下げちゃったから、ボクと天野くんが付き合ってるって噂を流そうかな」
こいつ、ほんまもんの鬼だ。畜生がすぎる。
「あ、あまちんが……ホ●っちゃうなんて」
「噂が流れるだけだからな。俺はそっちの気ねーから」
「あまちんのためにも、あーしやる。そもそも全部あーしのせいだし、あーしがケジメつけないと」
「神乃さん、マジでありがとう」
俺の●モ疑惑が出なくて済んだ。マジで感謝。
「なーんだ面白く無いなぁ。でもま、神乃ちゃんよろしくっ」
まさか鈴木の本当の目的って、俺との偽情報を流すことだったんじゃないよな。
「鈴木ちんもコスプレするんでしょ?」
「うん! ちなみに今回のコスプレはこの作品のやつで」
鈴木は最近人気が出たラブコメ作品のキービジュアルをスマホで見せた。
そのキービジュアルに写っていたヒロインは3人。キャラの見た目はあざといロリと、巨乳ギャル、メガネをかけた清楚系の3種類。
「このロリっ子をボクがやるから、神乃ちゃんはこのギャルの子で」
「あれ、でもあと一人は?」
「あと一人はねー」
鈴木が含み笑いを浮かべながらこちらを見てくる。
「まさか……俺がこの清楚な女子をやるってのか」
「あまちん……ちょっとそれは」
「神乃さん? 引かないでくれ」
「違う違う。天野くんはボクの"剥がし"だから安心して」
「お前は自分の柔道の腕でいくらでも剥がせるだろ。アイドルぶってんじゃねぇ」
「なに? へー、剥がしが嫌ならしょうがない、じゃあこの子のコスプレは天野くんでー」
「すみませんでした。剥がしのお仕事、精一杯やらせてもらいます」
俺はまた、いつもみたいに鈴木の手のひらで踊らされるのか。
「この子のコスプレをやってくれる子はもうすぐ来るよー」
「え、ここに呼んでるってことはこの高校の?」
「うん!」
その時、タイミング良く誰かがドアをノックした。
「……天野くん、わざわざ手紙で呼び出すなんて何の…………」
甘神が俺といるときの調子で話しながらドアを開けたが、俺以外にも人がいることを察していつものクールな面持ちに戻る。
「おい鈴木、まさか」
「うん、甘神さんにお願いするつもり」
「は、はぁ⁈」
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