第13話 特別授業を受けたい

 

 俺は、図書室の前でスマホをいじりながら鈴木が出てくるのを待っていた。

 甘神と神乃さんにはそこら辺をぶらついてから帰ると言ったが、俺の目的は鈴木と2人で話すことだった。


「……あれ、天野くん」

「やっときたか」

「どーしたの?」

「……鈴木。さっきの写真のことも含めて話がある」

「もしかして、お説教?」

「あぁ説教だ。勝手に親友のプライベートを利用したこと、あと盗撮したこと。しっかり謝ってもらおうか」

「……ほんとに、ごめんね」

「中学の時、俺へのラブレターをお前が勝手に読んだ時も言ったが、俺にはお前にだって知られたくないことが沢山あるんだ。親友ってのはさ、互いのことを全部共有するんじゃなくて、知らないことがあっても分かり合ってるから親友なんだろ」

「……でも、天野くんに近づく女がヤバい女だったらどうしようって思って。ボクは天野くんが大切で」


 鈴木は必死に自分の思いを訴えかけてくる。

 昔からそうだった。鈴木は俺の周りの人間関係を完全に把握している。

 だから俺は鈴木に隠し事が全くできないでいたのだ。


「そうだとしても、それを逆手に取るのは違うだろ。甘神の交渉材料で俺を出しにしたのは親友として最低の行為だ」

「……うん」

「……だけどな、お前が俺のこと守ってくれてんのは分かってるから。だから、そんなに必死になるなって」

「天野くん」


 泣きそうになる鈴木の頭を撫でてやると、鈴木は笑顔を取り戻した。

 鈴木はこうやって頭を撫でられるのが好きだ。

 小学生の時も、こいつがいじめられて泣いてる時はいつもこうやって頭を撫でてやってたな。

 にしても、昔より髪サラサラだし、なんかめっちゃ良い匂いするし……こいつもいつの間にか完全に女子になっちまったってことか。


「それで……天野くんは甘神さんと付き合ってるの?」

「え? えーっと、な。付き合ってねぇ」

「嘘だよ! あんなに仲良いし、手も繋いでたし」

「鈴木、こればっかりは本当なんだよ。俺と甘神は普通に友達ってだけなんだ……」

「ふーん、変なの」


 変……だよな、周りからしたら。


「ボクは天野くんのことが好きだし、素直に応援できないけど……ほんのちょっぴりは応援してるよ」


 鈴木が応援してくれるとか、初めてだ。

 いつもなら「そんな女よりボクの方がいい」の一点張りなのに。

 だけどな鈴木、お前が思っているような関係じゃねーんだ。


「悪りぃけど、俺たちそういう関係にはなれない。多分、甘神は俺と話してるのが楽しいってだけで、お前が思うような関係には発展しないし、最近は結構いるだろ、男女の親友ってやつも」

「天野くん……え、馬鹿なの」

「はぁ? 偏差値30のお前にだけは言われたくねぇ」

「ボクは勉強ができないんじゃなくて、してないだけだから! 現にこの高校にも合格してるから、本来なら天野くんと同じ偏差値あるわけだしー」

「甘神といいお前といい、天才ってやつはいいよな」

「ボクは天才じゃないよっ。"超天才"だからっ」

「はいはい」


 ったく、本当、お調子者なところは相変わらずというか。


「とにかくさ、今回の罪滅ぼしとして、今後もし甘神さんと天野くんのことがバレそうになったらボクがその噂を揉み消してあげる。天野くんを守るのはボクの役目だから」

「ありがとな鈴木。めちゃくちゃ心強いよ」


 もしものことがあっても、情報を司る鈴木が助けてくれるのはありがたい。

 これで多少は俺の平穏な生活が守られそうだ。


「今回のコミケ、甘神さんも参加してくれるし、楽しみだねっ」

「そういや甘神のやつとどんな交渉したんだ?」

「うーん、秘密かな」

「教えてくれよ鈴木」

「だーめー」


 そんなに他人には言えないことなのか?

 甘神は嬉しさが顔に滲み出ていたが。


「さてと、ボク次の授業体育だから、お先に失礼するね」

「おう。長話して悪いな」


 鈴木との話も済んだし、俺も戻ることにしよう。

 クラスに戻ると、甘神の席で神乃さんと甘神が2人で楽しげに会話している。(甘神は真顔)

 クラスメイトはその光景を意外そうに見つめていた。

 どうやら、甘神に寄ろとした男子たちも神乃さんに追っ払われたみたいだ。


「あまちん、おかえりー」

「お、おう」


 俺は、自分の席に座って本を開く。

 神乃さんとは話せても、相変わらず甘神とは目を合わせて話すことはできない。


「ちかみん、こっち向いてあーしに話しかけるフリしながらならあまちんとも話せるよっ」


 神乃さんは俺と甘神のことを察してくれたのか、気を利かせてくれた。

 甘神は神乃さんに「ありがとう」と一言呟いて、神乃さんと話しているフリをしながら俺に話しかけてくる。


「鈴木さんと話していたのでしょう?」

「あぁ」

「どうしたのかしら、暗い顔をして」

「……甘神。鈴木のことなんだけど、色々とごめんな。あの写真といい、コミケのことといい。あいつの親友として謝っておく」

「別に気にしてないわ」

「神乃さんも、ごめん」

「あまちんそういうところしっかりしてるよねー」

「実際俺のせいでもあるし、しっかり謝っておこうと思って」

「……別に構わないわ。それより天野くん。この前の期末試験の結果が明日から返ってくるのだけど、数学は大丈夫だったのかしら?」

「へ?」

「もしも平均点を下回ったら特別授業を開講するから覚悟しておきなさい」


 …………終わった。


 自己採点したが、よほど周りも点数を落としていない限り、平均点には届かないっ。

 くそッ! 甘神に罵られたいという気持ちと罵られすぎてイカれちまうのを恐れる気持ちが対峙しているっ。


 次の日、俺は返されたテストの点数と平均点を見て特別授業を覚悟したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る