第40話 甘神の後風呂

 

 さっきまで甘神がここでシャワーを浴びていたのか……。

 甘神のシャンプー、トリートメントの残り香。

 俺はシャワールームで邪な妄想をしながら身体を洗い流す。


 鈴木から気持ちを再確認するよう念を押されたこともあるが、頭の中が甘神のことで一杯だ。


 俺、今までこんなに甘神の隣にいたのに、ここまで甘神を女性として意識した事は無かった。

 クリスマスの時だって、甘神を楽しませたいとは思っていたが、それが異性だから、とかそう言う感情はあまり無かったのに、今は甘神を完全に異性として意識してる。


 甘神は誰もを虜にする、それ故に多くの人を惹きつけてしまう。

 これまでの俺は人気者の彼女とは住んでいる場所が違う、と勝手に敬遠して、歯牙にも掛けなかったが、今は違う。


 甘神知神は間違いなく俺の隣にいて、俺のことを好きなのか揶揄ってるのか、どっちなのかは依然全く分からないものの、距離感は完全に彼氏彼女のソレになってきている。


 だからこそ、俺はハッキリさせないといけない。


 身体中を流るる温水を見つめながら、一人考えに耽った。

 バスタオルで身体を拭った後も、俺は鏡の前で歯磨きをしながら何を話すか考える。


 甘神と2人の時間は限られている。

 周りに誰もいない2人だけの空間は、これまで自習ルーム以外ほぼ無かった。


「……ちゃんと、伝えるんだ」


 俺はシャワールームから出て、ベッドに向かう。


「甘神、話があるん……だ、が……」


 部屋に戻ると甘神が俺のベッドに自分の枕を置き、勝手に俺のベッドに座りながら本を読んでいた。


「俺のベッドで何してんだ」

「本を読んでるのだけど」

「そこじゃねーよ。なんで俺のベッドを占領してんだって話だよ!」

「せっかく同じ部屋なのにこのまま『はいおやすみ』ってのも味気ないと思って」

「どこの誰に配慮して味気ないと思ってんだ? 『はいおやすみ』でいいだろ」

「つまらないじゃない。それに私、中学の修学旅行の3人部屋は孤立していたから……」

「急に悲しい過去持って来んな! こっちまで重くなる」

「いいから私の隣に座っておしゃべりに付き合ってくれるかしら?」


 甘神は隣に来るようポンポンとベッドを叩く。

 甘神の重めの話を聞いた俺は、否応無しに座らざるを得なかった。


「やけにお風呂が長かったわね。邪なことを考えていたのかしら?」

「考えてねーよ」

「いいえ、考えていたわ」

「どうして意地でも断定したがるんだ」

「天野くんが考えていなかったらそれはそれで悔しいのよ」

「そんなところで負けず嫌いを発動せんでいい」


 相変わらずの会話が続いているが、俺はここで本題に入っていくべきだと思った。


「あのさ、話しておきたいことがあるんだ」

「あら、もしかして告白かしら?」

「ち、ちげーし!」

「私は告白と言っただけで、愛の告白とは一言も言ってないのだけど。天野くんは何を想像したのかしら?」

「からかって話の腰を折るなっ」

「はぁ……ごめんなさい。やけに真剣なのがおかしくて」


 そう言って甘神はくすくすと笑いだす。

 こ、こいつ……。


「話しておきたいことって何かしら?」

「お、俺と、お前の……その」


 いざとなると恥ずかしくなるな。

 むず痒くなって言葉が出てこない。

 お、俺は。

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