第31話 いざ東京へ


「随分気に入っていたのに、買わなくてよかったのか?」

「今から旅行だというのに買えないでしょ? それに同じようなアイテムで、もっと安いのがあるかもしれないし」

「へー、結構節約家なんだな。てっきりお嬢様気質でなんでも買うのかと思ってた」

「あのね、前にも言ったけれど私は全てにおいて完璧なの。金に物を言わせて何でも手にしてしまうのは3流のやることよ」


 鈴木が聞いたらなんて言うことやら。


「他に寄りたいところが無いならそろそろ集合場所に行くか」

「待って。最後に寄りたいところがあるの。いいかしら?」

「お、おう。構わねーけど、どこに?」


 甘神が同じフロアにあったアニメグッズショップの方を指差す。


「何故にアヌメイト」

「買いたいものがあるの」


 甘神はスーツケースを引いて堂々とアニメオタクたちの聖域に足を踏み入れる。

 おいおい甘神、俺たちが入っていい場所では無い気がするが……。


「……これ、ね」


 甘神がコミックスコーナーの本棚から2冊単行本を取り出して颯爽とレジに通し、すぐにアヌメイトから出た。


「なぁ、これってまさか」

「そう、明日私たちがコスプレなるものをするからその原作を読んでおこうと思って」

「へ、へー」


 主人公に纏わりつく3人のヒロインが表紙に描かれた単行本をこちらに向ける。


「私はどんな文化にも理解がある人間なの」

「新幹線の中でそれ読むのか?」

「そうよ」

「……甘神って変に真面目なとこあるよな」


 さすが甘神知神、万人に愛されるだけあるな。

 その後俺たちは、集合場所である駅前の噴水広場に向かった。

 広場に着くと、噴水の前のベンチに神乃さんが座っていた。


「神乃さん、お待たせ」

「あまちんおはよー、あ、ちかみんも一緒だったんだー」

「おはようございます、神乃さん」


 今日の神乃さんは、前回の冬とは思えない薄着スタイルでは無く、モコモコの耳当てをしながらクリーム色のダッフルコートを着て、長めのタイトスカートの下には黒タイツ履き、デニール数も高めだった。

 こう見ると神乃さんって、必要な所に栄養が回っていて、締まるところはしっかり締まってるよな。足は細いのに、ちゃんと胸は……。


 変なことを勝手に妄想していたら甘神に超感覚で覗き見されたようで、腕を容赦なくツネられた。

 なんで俺が邪なことを、考えていると分かったんだ甘神……。


「お二人さんが一緒にご到着ってことはー、もしかして早めに待ち合わせして遊んでたとかー?」

「違うよ神乃さん。たまたま電車に乗り合わせだけで」

「いいえ、その通りよ。天野くんは私が来るのを駅で待っていたの」

「おい、堂々と捏造すんな」

「あまちん、アツアツですなー」

「違うから、むしろ待ってたのは甘神の方だろ」


 甘神はそっぽを向く。

 こいつ……。


「みんなお待たせー」


 鈴木が少し大きめなスーツケースを引き、手を振りながらこちらに歩み寄ってくる。


「おい鈴木、白昼堂々女装してきたのか」

「そりゃそうだよ。今日はボク、完全にオトコの娘だもーん」


 オトコの娘メイクと地雷系ファッションを見に纏った鈴木は、完全に女子にしか見えなかった。


「いつも以上に可愛いわよ、鈴木さん」

「ほんとー? ありがとう甘神さん!」


 甘神が褒めるとか……いや、こいつらはいつも俺の情報で変な癒着関係にあるからな。


「鈴木ちんマジやばいじゃん、ツーショットSNSにノッけていい?」

「いーよー」


 慣れた手つきでスマホの内カメラに二人が入り込む。


「後でボクにも送ってねー」

「おけおけー」


 ノリが軽すぎる。こいつらのノリについて行ける気がしない。


「さてと仕切り直して。今日はお集まりいただき、ありがとうございます」

「急に仕切り出したな」

「特に甘神さん、本当にわざわざ我々のような庶民のイベントにご参加いただき、誠に」

「甘神への忖度はいいから話進めろ」

「もー、天野くんはせっかちだなぁ」


 何故か文句を言われる俺。

 尤もな意見だと思ったのだが。


「細かいことは新幹線の中で話すから、早速行こっか」


 鈴木に先導され、一行は新幹線のホームへ向かった。

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