第48話 過去の記憶
少年野球の夏合宿が終わり野球の方も長期休みに入り小学校の夏休みも重なったことで暇になった俺はじいちゃんの家に借り出された。
お駄賃が貰えるとのことで祖父の家に行くと毎日のように畑仕事を手伝わされて、嫌気がさしていた。
あと1週間もあるのか。
縁側で夜空をぼーっと眺めながら涼んでいると、背後から祖父がのそのそと歩いてきた。
「お駄賃ほしいか?」
「……欲しいと言われたら誰だって欲しいって言うよ」
「……じゃあ、これ」
じいちゃんは腹巻きの中から1000円札を差し出した。
「こんなにくれるの?」
「……運命の導き。ご先祖様からのお告げだ」
「は? 何言ってんのじいちゃん」
「ワシも長く無い。お前には天野の血を長く繋いで欲しいからな」
「意味わかんない」
じいちゃんは意味深なことをボソボソ呟きながら居間へ行ってしまった。
まだ6時半か。
駄菓子屋……いや、1000円あればコンビニもアリだな。
近くにあるコンビニは7時から11時までやってる。
晩飯はニュースが終わる7時半からだし、ちょっくらトレカでも買いに行くか。
草履を履いて建て付けの悪い引き戸を開ける。
田舎の真っ暗な道を月明かりだけを頼りに歩く。
コンビニまでの道を小石を蹴りながら歩いていると、うちの畑の前で誰かがしゃがみ込んでいるのを見かけた。
こんな時間に……まさか畑荒らし?
田植えしたばっかなのに荒らすってことは、同業者の嫌がらせか?
「……ん?」
よく目を凝らすと、俺と同じくらいの歳の女の子だった。
水色のワンピースを着たその少女は、長い髪を人差し指でクルクルと弄って暇を潰しているようだった。
何か訳有りなのかな。
足を止めて考えていると、その少女が俺に気づいたようでこちらに顔を向けてくる。
不覚にも一目で可愛いと思ってしまうくらい彼女の顔は整っていて、子どもらしくないシャープな顔つきとこちらを凝視する細い目つきは大人びていて、惹かれるものがあった。
「……誰?」
「それはこっちの台詞なんだけど。君こそこんな時間になんで田んぼなんかに」
「……あなたには関係ないわ」
「関係なくない。ここはうちの田んぼなんだし」
指を差しながらそう言うと彼女はため息を吐きながら立ち上がった。
「じゃあ別の田んぼに移動するから……っ!」
立ち上がった瞬間、その場にしゃがみ込んだ。
「どこか、痛めてるのか?」
「……」
駆け寄ってとりあえず足を見てみると、足首あたりが腫れていた。
「……捻挫、したのか?」
「関係ない」
「そりゃ関係ないけどさ、怪我してるやつを置いてトレカ買いにはいけねーよ」
「トレカ?」
「すぐそこのコンビニで冷やせるもの買ってくる。ハンカチはあるか?」
「あ、あるけど」
「そか。なら大人しくそこで待ってろよ」
俺は小走りでコンビニへと向かった。
買い物カゴにデカめの棒アイスを3つ入れて、天然水も一本入れ、レジ横のトレカを適当に入れるとレジを通した。
ホットコーナーもあるし、田舎のコンビニにしては意外と充実してるな。
俺はコンビニ袋を片手に外に出ると彼女の元へと走った。
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