第21話 お掃除の時間

 

 年末は何かと忙しくなる。


 俺は30、31日にコミケで家にいない分、大掃除と年末セールの買い出しを全て頼まれ、親に扱き使われている。


「おにぃ今から買い物行くのー?」

「行くけど……」


 掃除終わりでジャージの上にエプロンをかけている俺とは対照的に、他所行きの格好をしている妹。


「見てみてー、鈴木さんが選んでくれたニットセーターとフィッシュテールスカート」

「……街に行くわけじゃねーんだぞ」

「えー、おにぃデートしようよー」

「そういうのは彼氏作って勝手にやれ」

「やだー! おにぃと行きたいー」

「面倒臭いやつだな。どーせ俺に18禁コーナーのBL本買わせたいだけだろ。そもそも俺まだ16だから買えないし、体型で誤魔化せるとしても絶対やらないからな」

「おにぃがメイトの男性店員に捕まってそのままバックヤードで蹂躙されるの見たいー!」

「喧しいわ! はぁ……そんなに遊びたいなら鈴木に頼め」

「うんそうしよー」


 妹はとっとと食堂の方へと走って行った。


「ねぇ鈴木さん、一緒に買い物行こー?」

「うんいいよ」


 さてと、俺は買い物に——


「って、なんで鈴木がうちに居るんだよッ!」

「あ、天野くん。お邪魔してまーす」


 鈴木がテレビの前にあるソファで親父と母さんに挟まって談笑していた。


「ナチュラルに家族の輪に入ってんじゃねぇ!」

「いいじゃん、ボクが天野家に嫁ぐのも時間の問題だし。ね、妹ちゃん」

「はい! わ、私が、代理出産しますから……」


 うわ……この一家は完全に鈴木という強大なインフルエンサーの力で支配されてやがる。


「ボクと天野くんの子供だもん、きっと可愛いよね」

「喧しい! お前はなんでまたここに居るんだよ!」

「天野くんに話があってね。今から買い物?」

「そうだけど。話って?」

「まーそれは歩きながら話そうか。妹ちゃんも行こっ」

「はいっ!」


 その後俺は、鈴木と妹と一緒に近くの大型スーパーの年末セールに向かった。

 家を出る前に両親がニタニタしながら俺たち3人を見送っていたのが腹立つ。


「妹ちゃん、やっぱその服似合うねっ」

「鈴木さんが選んでくれたんですから似合うに決まってますっ」


 妹は昔から鈴木の良き理解者だった。

 それこそまだ小学生で、鈴木がよく家に遊びに来ていた頃は妹も入れてよく3人で遊んだっけな。


「鈴木さん、今度鈴木さんがモデルの本出すのでぜひ読んでください!」

「またボクが受けのやつ?」

「はい! 今度はNTRモノで、鈴木さんがおにぃとお家デートしてたらうちのお父さんが鈴木さんに欲情して」

「その先は言わなくていい。お前自分の父親を竿にするとか頭沸いてんのか!」

「ボクは可愛いなら何でもいいや。前回の天野くんとの純愛モノも良かったし。妹ちゃん、ボクをモデルにしてくれてありがとっ」

「え、えへへ」


 狂ってる。引くほど狂ってるだろこの空間。


「それで、鈴木の話ってのは?」

「クリスマス、楽しかったみたいだね」

「どーせお前のことだから大体どうなったのか知ってんだろ?」

「流石に全部は見てないよ。2人に悪いと思ったし。でも駅までは……ねっ」

「ねっ、じゃねーよ。当たり前のようにストーキングしてんじゃねー」

「でもさ隠れてたつもりが天野くんたちがバスに乗る前に、甘神さんだけずっとこっち見てたんだよ。それで、『コッチクルナキエロ』って口パクで言われて」


 上には上がいるってことか……。

 甘神知神の視野、恐るべし。


「身体が動かなくなっちゃって。その時の甘神さんの顔、あれはまさに鬼の形相だった」

「どーでもいいが、話したいのはそれだけか?」

「うん。ボクが言いたかったのは、あの日のことは2人だけの思い出だから安心して欲しいってこと」

「元よりそれが当たり前なのだが」

「あと買い物とか大変って妹ちゃんから聞いたから手伝いに来たんだ」

「それは普通に助かる。ありがとな」


 鈴木を頭を撫でてやると、鈴木より妹の方がニンマリしていたのが鼻につくが、そうこうしているうちにスーパーに着いた。


「ここでスペシャルゲストを呼んでまーす」

「なんだよ鈴木」

「スペシャルゲストっ、天野くんが喜ぶと思って呼んでおいたの。もうすぐ来ると思う」


 そ……それって、まさか。


「あまちん、おっすおっすー」


 真冬だというのにショートデニムに白のカットソーを着て、上にデニムジャケットを着崩して羽織っただけ、という防寒する気0の神乃さんが来た。


「神乃さん。久しぶり」


 ……あ、スペシャルゲストって、神乃さんか。


「あー! 今一瞬、ちかみんじゃねーのかよって顔した」

「してないから。おい鈴木、なんで俺の家の買い物に、神乃さんまで呼んだんだよ!」

「だって大勢の方が楽しいかなって」

「楽しいとか楽しくないとかじゃなくてだな」

「あーしは別にいいよー、どーせ家で暇してたしー。ってか、さっきからあまちんの後ろに隠れてるのってあまちんの妹?」

「あ、あぁ。おい妹、挨拶っ」


 妹は大の内弁慶なので、陽キャの前だと完全アウェーの緊張感で吐きそうになるのがお決まり。


「い、いつも兄がお世話になって、ます」

「へー、めちゃ可愛いじゃん。あまちんとは似てねー」

「なんでそこで俺を弄るんだ。神乃さんも神乃さんで、わざわざ買い物くらいで来なくても」

「神乃さんにはさっさと買い物終わらせて、一緒に天野くんの部屋物色しよって、limeしたから。買い物はついでだと思うよ」

「ちょ、鈴木ちんそれは内緒に」

「神乃さん……?」

「あ、あまちん! 別にあーしはあまちんの弱みを握りたいとか、あまちんの部屋見たいとかそういうアレじゃなくて」

「さ、買い物行こー! さっさと終わらせて天野くんの部屋のお掃除だー」


 掃除どころか絶対散らかすだろこいつら……。


 ほんと、冬休みくらいは俺を馬鹿騒ぎに巻き込まないでくれ。

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