第33話 ほ、ホテルデート⁈

 

 駅から電車を乗り継ぎ、冬コミの会場から徒歩5分の場所にあるホテルに到着。

 こりゃまたでっかいホテルだな。


 エレベーターで予約している部屋の階まで行く。

 ガラス張りのエレベーターの中からは隣のお台場を見下ろすことができた。


「2人部屋を2つ取ってあるから。もちろんボクと天野くんは同じ部屋ねっ」


 鈴木が俺の右腕に抱きつく。

 他2人はなぜか冷たい目線でこちらを見ている。


「あ、あまちん、間違いだけは起こさないようにね」

「俺がこいつに欲情すると思うか?」

「……私は思うのだけれど」

「なんでだよ!」

「鈴木さん、ここは平等にジャンケンで決めましょう。負けた人が天野くんと同じ部屋で」

「負けた人って……。ちょっと罰ゲームっぽくするなよ」

「罰ゲームに決まってるじゃない。あら天野くん、もしかしてあなたと同じ部屋が、私たちにとってご褒美とでも思ったのかしら?」

「ぐっ……」


 んな理不尽な……。


「じゃあジャンケンで決めよっか。神乃ちゃんも参加する?」

「ば、罰ゲームってことなら? あーしも参加してもいーけど?」

「ちょっと待てって。男の鈴木ならまだしも他2人は色々とまずいって」

「あら、私たち2人だと間違いが起こると言いたいのかしら?」

「ちげーよ! 俺みたいな男と同じ部屋とか、2人は嫌だろ?」


 2人が顔を見合わせる。


「あ、あーしは構わないけど」

「私も構わないわ」

「おかしいだろ! 普通嫌だろーが」

「あまちんこそ、あーしらと一緒の部屋嫌なん?」

「い、嫌とかの問題じゃ」

「あー天野くんは面倒くさいなぁ。今日は修学旅行とか引率の先生がいる訳でもあるまいし」 

「あのな、この旅行の幹事であるお前がちゃんとしてれば」

「さぁじゃけん始めるよー」

「話を聞け!」


「じゃーんけーん」


 ✳︎✳︎


「なんでこんなことに……」


 ベッドに座って頭を抱える俺のテンションとは真逆で、同部屋になった彼女は機嫌良く部屋のカーテンを開けた。


「ほんと酷い罰ゲームね。あなたと同じ部屋だなんて〜」

「おい、鼻歌混じってんぞ」


 なんでそんなテンション高いんだよ。


「天野くんは私より鈴木さんの方が良かったのかしら」

「そりゃ、その……」

「それとも神乃さん?」

「……まぁ、神乃さんの方がポロリとかあった時嬉しいけど」

「相変わらずそういう事には正直なのね。心底気持ち悪いわ」


 一転して甘神は、俺に軽蔑の眼差しで見下した。


「あなたは私と同じ部屋であることをもっと喜びなさい! 神乃さんは結局胸だけだし(小声)」

「急に声を荒げるなよらしくない。てか最後になんか言ってなかったか」

「とにかく、喜びなさい」

「へいへい。あの甘神知神と同じ部屋だぜ、さいこー」

「この私と同じ部屋なのが嬉しいのは分かるけれど、夜這いなんてしてきたら声を上げるから」

「あのな、俺がそんなことすると思うか? あとあれが喜んでいるように見えるのか」

「まぁ? 多少の無礼なら、寛容な私が許してあげるのだけれど」

「だからしねーって」


 俺はツッコみつつ、自分の荷物を広げる。


「そのショルダーバッグ、やけにパンパンで何が入ってると思ったら枕だったのね?」

「自分の枕じゃねーと寝れないタイプの人間だからな」

「奇遇ね、私もそうなの」


 甘神がスーツケースからピンク色のカバーの枕を取り出した。


「……意外と女子っぽいの使ってんだな」

「悪いかしら」

「もっとシックなのをイメージしてたから」

「この枕の中は低反発なの。試しに交換してあげてもいいわよ」

「自分の枕じゃないと寝れないって言った矢先に交換とかするわけないだろ」

「……そう。残念ね」

「何がどう残念なのかさっぱりなんだが?」

「天野くん、枕の隣にあるそれは何?」

「あ、これか? これは保護ベストだ」


 枕の隣に置いていた黒の保護ベストを手に取って甘神に渡す。

 剥がしをやるとのことで、ネットショップにて購入していた。(5800円)


「鈴木のカプ拒否ファンに刺されても大丈夫なように」

「……事情はよくわからないのだけど、天野くんも苦労してるのね」


 まさか甘神に同情される日が来るとは。


「お二人さーん、もうおっぱじめてるー?」


 鈴木が意気揚々と部屋に突入してくる。


「なんもしてねーよ。なぁ鈴木、今からでも遅くねぇ、やっぱ部屋を……って、なんでお前、さっそくコスプレしてるんだ?」


 鈴木は白シャツに校章入りのスクールブレザーを着て下はスカートという、制服姿で現れた。


「コスプレじゃないよー!」

「……どこからどー見てもコスプレだろ」

「神乃ちゃんもだよっ」


 後から神乃さんも入ってきて、鈴木の隣に並ぶ。


「どっかな? 似合ってる?」


 神乃さんはシャツに緩めの茶色のニットカーディガンを着崩して羽織り、やけに丈の短いスカートなので細い足とうちの制服ではみれないほどの肌色が露わになっていた。


「……なんかエロいな」

「あまちんのバカっ!」


 神乃さんは近くにあった俺の愛用枕を容赦なく俺の方に投げた。


「これからボク達〇〇〇ニーで制服デートなんだっ」

「あら、〇〇〇ニーってことは、電車で行くのかしら?」

「鈴木ちん、〇〇〇ニーまでの無料シャトルバスあるんしょ?」

「うん。〇〇ニーまで直で行けるシャトルバスがこのホテルには来てて、あと10分で」


「お前ら〇〇〇ニー連呼やめろ! 色々と面倒だからっ」


「天野くんが何言ってるのかわからないけど、とりあえずボク達はこれから遊びに行くからお二人はごゆっくり〜」


 鈴木と神乃さんはチャラチャラしながら部屋を出て行った。


「あの二人大丈夫かしら」

「ま、いざとなったら鈴木が全員倒すだろうし大丈夫だろ」


 俺は先程投げ飛ばされた枕を自分のベッドの枕元に置く。


「さてと、俺たちはどうする? 電話の時、付き合う約束してたろ?」

「そ、そうね」

「近くにお台場あるし、そこら辺ブラブラするのも」

「……ホテルデート」

「は?」


「ホテルデートでも、良いのだけど」


 甘神が目を逸らしながらそう呟いた。


「ほ、ほて」


 …………そして俺の思考が停止する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る