第23話 レトロゲーム
買い物が一通り終わって、出口付近にあったソファに座り鈴木と妹が戻ってくるのを待つ。
「あいつら遅いな」
「ね、待ってるのも暇だし2階のゲーセン行こー」
「えぇ……」
「いこーよ〜あまちん〜」
神乃さんが俺の手を引っ張る。
面倒だが、今日は神乃さんに買い物を付き合ってもらったわけで。
「仕方ない、あいつらが来るまでなら」
「うぇーい」
神乃さんはその茶髪をご機嫌に揺らしながら階段を駆け上がった。
田舎のスーパーにあるゲーセンは、殆どがレトロゲームの域に達した筐体ばかり。
なんか最近、さらにレトロな筐体が増えたようで、所狭しとゲームが並んでいた。その割に人は少ない。
「プリとか懐かしっ。あまちん一緒に撮ろ撮ろー」
「えぇ……俺作業用エプロン姿だし」
「いいからさー、ほら、もうお金入れちゃったしー」
カーテンを潜り、プリクラの中に入る。
狭っ苦しい空間に神乃さんと2人。
プリクラの設定を終えた神乃さんは、小さくアヒル口をしながら下唇にピースを当ててカメラの方に向ける。
「ほらあまちんもピースピースっ」
「はぁ……」
俺は陰キャらしく控えめなピースを作った。
カウントダウンと同時に神乃さんが距離を詰めてくる。
「ち、近っ」
「いーの。ほらカメラの方見てっ」
俺の右腕にアレを押し付けてくる神乃さん。
無意識なのか……わざと当ててんのか。
そしてシャッターが切られた。
その後も何回か付き合わされたが、プリクラより毎度当たるアレの感触で頭がいっぱいだった。
「プリクラすっげー久しぶりだった。ありがとあまちん」
「こちらこそ、ご馳走様でした」
「なんで?」
甘神とだったら間違いなくこの感触を味わえなかった。
頭の中のエア甘神が「何か言ったかしら?」とキレているが、放っておこう。
「んー。他のゲーム知らんのばっかだし、ここのゲーセン時止まってんじゃね?」
令和ギャルにとっては物珍しいゲームばかりらしい。
「なんこのゲーム、え、50円でできんの⁈ すごー」
神乃さんは何も見ずに50円を入れて始める。
「おいおい何のゲームか見てもいないのに安易に50円入れて良かったのか?」
「え? あー、確かに。でもどーせこの形をしてるやつってアクションとか対戦ゲームじゃねーの? スーパーなんたらとか」
「適当な知識だな」
「ほらほらあまちんも隣座ってー」
「はぁ」
俺は隣の筐体の椅子を持ってきて座った。
「なんこのゲーム全然見えないじゃん。ちょい叩いてみよ。ほれっ」
さっきから映像が荒くて何のゲームか分からなかったが、神乃さんが筐体の横をチョップした瞬間、映像が急に綺麗になった……のだが。
「あーこれ、クイック●だよ。簡単言えば陣取りゲームで、点を枠から枠へ操作して、自分の範囲を囲い込んで確保するゲームで、画面上を動き回る敵を囲んで倒したらクリアだと思う」
「あまちん詳しーね!」
レトロゲームはCSのプリンスが教えてくれたからな。
「ね、あまちん」
「どした?」
「自分のスペースになったところから、なんかアニメの絵の女の子が出てきたんだけど」
「え?」
画面の中では囲った自分の陣地の背景に2次元の美少女キャラが出てきた。
——は? 美少女キャラ?
「これ、クリアしたら2次元のキャラの1枚絵が見れる系のやつか?」
「なんか古臭いけど可愛いキャラじゃん。ギャルっぽいし」
神乃さんは集中力を高めて、上手い具合に敵を端へと誘い込む。
「神乃さんやけに上手いな」
「毎日写メの加工とかでもっと細かい調整やってっし、こんなの簡単じゃね」
そうか。日々ギャルとして小さなスマホを、ネイルが尖って不便ながらも指で写真加工している器用さがこんなところで才能を開花させるとは。
神乃さんは細かい枠取りで綺麗に陣地を広げていく。
初めて触る筐体への順応の速さも現代っ子ならではの理解力が生み出している。
これが、隠れチート能力ってやつかッ。
「やったよあまちん! 100%だってー」
「すげー」
「あ、なんか始まるってー」
案外ギャルにレトロゲームやらせるのはアリなのかもな。
「あ、あまちん! ちょ、これ」
「あーすまん。ボーッとしてた」
「そんなことより、こ、これっ」
ん?
先程背景絵になっていた美少女キャラがアニメーションとなって動きだし、そして何故か突拍子もなく衣服を脱ぎ出した。
お、おいまさかッ。
「これ、脱●クイック●じゃねーかッッ!!」
「あまちんは見ちゃダメー!」
神乃さんが咄嗟に俺の背後を取ると、後ろから両手で俺の目を覆う。
その瞬間、俺の肩に妙に柔らかく弾力のある感触が……って、そんなことより!
「神乃さん、その手を退けて!」
「ダメーッッ! お、おぱっが、見えちゃってるから!」
「頼む、頼むから見せてくれっ!」
「はぁ⁈ あまちんのえっち、ど変態っ!」
俺は必死に神乃さんの手を退けようとするが、神乃さんは謎の腕力で絶対に離さない。
そんなことしていたらサービスシーンは終わってしまい、次のステージに入ったらしく、俺はやっと視界を取り戻した。
「もー、なんで最初に言わなかったし」
「俺も知らなくて」
「急にこんなの来るからびっくりしたー」
「……なぁ神乃さん。1000円出すからこのゲーム全クリしてくれないか」
「この変態っ!」
俺はついに神乃さんからも罵倒してもらえるようになった。
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