第28話 戯れ合う、付き合う
さてと、明日の準備も終わったしさっさと寝て、備えるとするか……。
と思った矢先、充電していたスマホが着信音を奏でる。
「こ、これは」
甘神からの電話に設定しておいた着信音。
甘神は2コールまでにでないと機嫌を悪くするのでこの前設定しておいたのだ。
まだ間に合うっ!
俺はすぐにスマホの充電ケーブルを引っこ抜いて電話に出た。
「あ、甘神?」
『こんばんは、天野くん』
ま、間に合った……。
『ちゃんと2コールで出てくれたのね。偉いわ』
いつも通り、上から目線の甘神。
『社会人になったら当たり前の事なのだから今のうちから慣れておくべきだわ』
「はいはい。世話焼きの甘神さんにはいつもお世話になってますよー」
『そうね。天野くんは私がお世話してあげないとダメになっちゃうもの』
「飼い犬みたいな扱いすんな」
『この駄犬っ』
「……良いな。もう一回頼む」
『喜ぶと思って言ったのだけれど、これはこれで心底気持ち悪いわね』
あー、やっぱ甘神に罵られるのが一番しっくりくる。
「あれからどうしてた? お前のことだから容赦なく急に呼び出されると思って、準備してたんだが」
『あらそうだったの? それは申し訳なかったわ。なかなかこちらもやる事が多くて忙しかったの』
「そりゃ年末だもんな。いくら1人暮らしの甘神でも、やる事あるよな」
『そうね。そういえば天野くんも忙しかったのでしょ?』
「あ、あぁ。部屋の掃除とか断捨離とかやらないと親に怒られるから、30、31日居ない分一気にやって大変だった。昨日とかマジで疲れたし」
『へぇ……その割には随分と楽しそうだったじゃない』
「え?」
"楽しそうだった"……?
何かを知ってる口ぶりじゃないか。
「甘神……まさか」
『先日、鈴木さんや神乃さんと遊んだらしいわね』
なんでその事を甘神が知ってんだよ!
「誰に聞いたんだ? ……って、どーせ鈴木か」
『……神乃さんよ』
「なに?」
神乃さんが甘神に?
予想だにしない名前が出てきた事で俺は驚きを隠せなあ。
『あなたがエプロン姿で買い物してる写真を送ってきたの』
「な……なんてことを」
『ねぇ天野くん』
嫌な予感がする。
多分、いや、間違いなく怒ってらっしゃる甘神さんは、耳元で囁くように話し始める。
『この写真と一緒に送られてきた文がどのようなものだったか……あなたにはわかるかしら?』
「……わからないです、はい」
『正解は、「あまちんとお買い物〜」「2人で食材選びしてるよ〜新婚夫婦みたい♡」でした』
俺は、脂汗を拭いながら一呼吸入れる。
『天野くん、どう言うことかしら』
「こ、これには事情があってだな」
俺は必死に言葉を探して、昨日のことを弁明する。
『つまり、鈴木さんが勝手に現れて、勝手に神乃さんを呼んで、勝手に振り分けて、2人で買い物していただけ、だと』
「これは本当だ。鈴木にも聞いてみろ」
『それで彼女に脱●ゲームをやらせたと』
「おい! それは言ってないよな⁈ 誰から聞いたんだそれ。神乃さんか?」
『鈴木さんよ』
「鈴木ッ! 今度はあいつか!」
あいつぜってぇ、許さねぇ。
あの2人の口はホッチキスか何かで留めておかないとな。
あいつらのせいで俺が地雷を踏みかねない。
『天野くんはただのMだと思っていたのだけれど、結構やるのね』
「もう……好きに言ってくれ」
『あなたの諦め顔、目に浮かぶわ』
甘神が珍しくクスッと笑った。
「怒って、ないのか?」
『この私が神乃さんの安い挑発に乗ると思って?』
「だって……すぐ嫉妬するし」
『嫉妬? そんなのしてないわ』
「じゃあさっきまでの重苦しい空気はなんだよ。演技だったのか?」
『……さぁ、どうかしら』
甘神はそんな感じではぐらかした。
『それはそうと、許して欲しいのかしら?』
「だから俺は悪いことしてないのだが」
『3人で遊んでたというのに、私をハブったことは確かでしょ? あの2人はまだしも、あなたなら私を誘う事ができたはず』
「甘神の場合、わざわざ電車乗って来ないといけねーし、誘うのは迷惑だと思って」
『あなたってほんと優しすぎるのよ。迷惑とか……絶対に思わないから』
「ご、ごめん」
別にハブる気は全く無かったのだが。
でもまだ、気軽に誘える関係ではないと勝手に思っていた。
『悪いと思ってるなら1つ、私のお願いを聞いてもらえるかしら?」
「え?」
お願いって……まさか。
『明日、付き合って欲しいの』
久しぶりに聞いた彼女の"付き合って"に、心が跳ねた。
熱くなる顔に手を当てながら、俺は冷静に言葉を返す。
「……分かった。付き合ってやる」
多分、どこかで俺は求めていたのかもしれない。
甘神の"付き合って"という一言を。
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