第32話
「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」
「自称、レイナ様の一番弟子。今日も元気だけが取り柄の神田ミライッス~!」
「作戦会議室からマイクを持ってこんにちは! 望月雪乃です!」
今日は久々のコラボ配信だ。
ダンジョン中層に集まった私たちは、リスナーさんにそう元気に挨拶する。
ちなみに最近は、配信頻度を高めていた。
ミライの件もあり、毎日ダンジョンに潜っているからだ。
"レイナちゃんは今日も可愛いなあ"
"間違いなくミライちゃんは、レイナちゃんの弟子だよ・・・(遠い目)"
"ひとりの女の子が人間をやめるまでを観察できる配信はここだけ!"
"なになに? なにが始まるんだい?(英語)"
「えーっと、ミライちゃん……。宝箱を見つけたら、どう対処しますか?」
「はいッス! 全力で粉砕して中身を取り出すッス!」
ゆきのんの質問に、ミライが曇りなき
「気がついたらレイナちゃんみたいな子が増えていてびっくりしています。どうしましょう!?」
"コントかなw"
"頑張れ常識人枠・・・"
"常識人といえば剛腕ニキたちは?"
"剛腕ニキならリスナーとして元気にしてるよ"
"《不死殺し》こんなおっかねえコラボに参加させられてたまるか!"
"ちゃんと見守ってて草"
「レイナちゃん……」
もの言いたげな視線。
私は、そっと目を逸らす。
(いやあ。弟子は、背中を見て育つとは言うけれど……)
(そんなところ真似ないで良いんだよ!?)
今日の配信の目的は――
「「よろしくお願いします、先生!」」
「2人とも可愛い~~!! ……けど、まるで私に勤まる気がしない!」
ずばりミライに、ダンジョン探索の基礎を教えること。
その適任は私の知る限り、ゆきのんを置いて他にはいないと思ったのだ。
"ゆきのんまで人間卒業すると聞いて"
"珍しいメンバーだね。今日は何を食べるの?(英語)"
"《英検一級はクソゲー》ノー、今日の目的は料理ではありません。ダンジョン探索の基礎を学ぶことです"
"レイナちゃんが、そんなまどろっこしいことする訳ないだろ! いい加減にしろ!(英語)"
"《英検一級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"
"ノルマ達成w"
※※※
「私なんかに、2人に教えられることがあるとは思えないけど……」
ゆきのんは、そう自信なさげに呟く。
下層にソロで潜る探索者に、何を教えれば? とその顔に書いてあった。
「私たちの探索を見ていて、気になったところがあれば――」
遠慮なくビシバシ言って欲しい、と伝える私。
そうして私たちは、ダンジョン中層に潜るのだった。
潜り始めて僅か5分後のこと。
「そのお肉をレイナ様に献上するッスよ~!!」
モンスターを見つけたミライは……、
颯爽とパーティーを飛び出し、追い回し始めた!
やべえやつに出会ってしまった、とモンスターは逃げていく。
その光景は、もはや狩り。ダンジョンに住むモンスターにとっては、とんだ災難である。
「ミライちゃん、あまり離れすぎないでね!」
「はいッス! …………!?!?」
こちらを見て、ぶんぶん手を振るミライ。
しかし次の瞬間、ダンジョンの罠――落とし穴にはまって姿を消す。
"え? やばいって、やばいって!"
"あの落とし穴、運が悪いと棘地獄に突き刺されて一撃死もあるっていう……"
"中層での死亡率不動の1位だからなあれ・・・"
「ぎゃ~! なんかいっぱいトゲが生えてるッス~!!」
「待っててミライちゃん。今、引き上げるね」
"トゲ生えてるってマジで棘地獄やんけ!"
"すっごい元気そうw"
私は、ミライちゃんを卑劣な罠から救い出す。
上からロープを投げて、ミライちゃんを落とし穴から救い出すのだ。
「あのトゲ、ポキポキ折れるッスね」
「でもそれ、食べられないんだよね……」
「じゃあゴミっすね」
「うん」
そう頷き合う私たちを見て、
「う~ん、0点!」
ゆきのんが頭を抱えていた。
"罠が怖いです。どうすれば良いですか? A レベルを上げましょう"
"モンスターが強いです。どうすれば良いですか? A レベルを上げましょう"
"レベルを上げて物理で・・・"
"ミライちゃん今レベルいくつなんだろう?"
「ミライちゃん。とりあえずダンジョンの中は、おさない。かけない。しゃべらない」
「はいッス。おさない。かけない。しゃべらない……」
その後、ゆきのんからは真面目な顔でお説教された。
"おかし!"
"小学生かなw"
"あれってダンジョン探索の標語だったのか・・・(困惑)"
"しゃべらない配信者 #とは"
「レイナちゃんは、例外中の例外だよ。普通の人が真似たら死ぬからね」
「はいッス……」
「レイナちゃんもレイナちゃん! 弟子が無茶してたら、止めないと!」
「はい、ゆきのん師匠! ……でもあれぐらいなら、無茶ってほどでは――」
「良・い・で・す・ね!?」
"圧w"
"ゆきのん大変そう"
"ミライちゃんも、たいがい普通の人ではないw"
"実際、レイナちゃん真似する馬鹿が出ないように釘さすのは大事"
それからは、ゆきのんが先導してダンジョンを歩く形になった。
宝箱を見つけたときの対処法。
トラップがないか警戒しながら、ダンジョンを歩く方法論。
初見のモンスターと出会ったときの、観察方法まで。
「えへへ、あたいまた賢くなったッス!」
「60点! ぎりぎり合格!」
「やったッス~!」
「ゆきのん先生! 私は、私は?」
「0点! いや……、どんな敵でも何かさせる前に倒せるなら、先手必勝は100点?」
"ゆきのん~!? しっかりしてw"
"レイナちゃんの常識が、ゆきのんを侵食してるw"
"まあレイナちゃんのやり方も正解なんだよな。誰も真似できないってだけで・・・"
お、おかしい!
なぜだかミライの方が、ぐんぐん成長してる気がする。
このままでは、師匠としての威厳が――!
そんな謎の焦りを持つ私の前にトコトコ歩いてきて、ミライは一言。
「そういえばレイナ様。いつギルド、立ち上げるッスか?」
――無邪気な顔で、そんな爆弾を落とすのだった。
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