第28話
「とりあえずはミライちゃんのレベルを上げるとして――」
私は、3人を連れて歩き始めた。
そのまま入り口に戻り、転移ポータルに手をかざす。
転移ポータルは、ダンジョン内にあるポータルへと瞬時に移動できる優れものだ。
「ど、どこに向かうつもりだ?」
「そうですね。ミライちゃんの安全を考えながらのトレーニングなので――」
ホッと胸を撫で下ろす剛腕さん。
「――とりあえず下層に行こうかなと」
「「!?」」
「はいッス!」
ギョッと目を見開く剛腕さんたち。
一方、ミライは気合いよく返事した。
"安全 #とは"
"レイナちゃんの傍ならどこいても安全やな・・・"
"なになに? なにが始まるんだい?(英語)"
"イーグルスのおふたりは下層潜れる人なのかな?"
「お、俺だって剛腕の
「声震えてるッスよ?」
武者震いする剛腕さんに、無邪気に突っ込むミライ。
「おまえは、なんでそんなに緊張感ないんだ?」
「だってレイナ様が一緒ッスから!」
「信頼が厚い!?」
キラキラした視線が飛んできて、私は苦笑いするのだった。
※※※
転移ポータルを出て、私たちはダンジョン下層に足を踏み入れる。
「着いたッス!」
「ほ、本当にこの人数で下層に潜るのか?」
"レイナちゃん配信に一般人が出てると安心するな・・・"
"そうだよなあ 下層って、散歩感覚で立ち入る場所じゃないよな?"
"¥3000:え? 下層って食材探すための食料庫ですよね?"
"レイナちゃんにとっては深層も食料庫だぞ"
「ご、ごめんなさい! 今日の料理はお休みです!」
あくまで今日は、ミライの手伝いが最優先だからね。
"レイナちゃんが食べ物を諦めた・・・だと!?"
"そんな馬鹿な・・・"
"なになに? レイナちゃん、なんて言ったの?(英語)"
"《英検1級はクソゲー》今日の料理はお休みだって(英語)"
"レイナちゃんが食べるのを諦めるはずがないだろ、いい加減にしろ!(英語)"
"《英検1級はクソゲー》ぶわっ・・・(´;ω;`)"
私は、あるものを探しながらダンジョン下層を彷徨い歩く。
ボコッ!
たまに出くわすモンスターは、拳で吹き飛ばして黙らせる。
時は金なり。今は、雑魚に構っている暇はないのだ。
"この貫禄はまごうことなきレイナちゃんですわあ"
"まとってるオーラが違う"
"ミライちゃん目をキラキラさせてて可愛い"
"無感動にモンスター撲殺していくレイナちゃんとの対比が最高なのよ・・・"
キョロキョロとあるものを探して歩く私と、戦々恐々と後を付いてくる剛腕さんたち。
(あ、あった!)
しばらく歩き、私は目的のブツを発見する。
それは足元に巧妙に設置されたボタンであった。
「おふたりは下層のモンスター相手なら、ミライちゃんを守りながら戦えますか?」
「へ? ……あ、ああ。もちろん! それぐらい、お安い御用――」
「分かりました! となれば、あれやりましょう!」
「「へ?」」
私は、足元のそれを踏み抜いた。
ダンジョン内に、警報音が鳴り響く。
モンスターを呼び寄せるアラートだ。
――モンスターハウス。
手っ取り早くモンスターを集められる罠である。
「「いやいやいやいや!?」」
「さすがレイナ様! その躊躇いのなさに痺れるッス!」
"ノータイムで草"
"たしかにレベリング効率は良さそうだけど"
"無茶に突き合わされてる剛腕さんたち可哀想"
"この状況に動じないミライちゃん大物すぎる・・・w"
手っ取り早くモンスターを集めるにはこれが一番。
やがてはモンスターの群れが、徒党を組んで現れた。
初めて見るモンスターを見て、ミライは目を輝かせていた。
なぜか剛腕さんたちは、真っ青な顔でぶるぶる震えていたけど――
「私が捕まえるから、ミライちゃんは私が抑えてるモンスターをぶん殴って」
「分かったッス!」
「剛腕さんたちは、ミライちゃんを攻撃しようとしてる奴の露払いをお願いします!」
「「!?!?」」
そう言って私は、モンスターの群れに突っ込んだ。
最初に、遠距離から攻撃を放ってくる危ないモンスターを処理するのだ。
前の配信でしたように、私は闘気を放ってモンスターを倒していく。
(ふぅ、こんなもんかな――)
私が、待たせていた3人の元に戻ると、
「うおおおぉぉぉ、こんなところで死んでたまるかぁぁぁぁ!?」
「おまえが、無駄に、強がるからぁぁぁああ!」
「俺だって、探索者としてのプライドってもんが、あったんだよぉぉお!?」
おっさん2人は、猛々しい咆哮を上げながら戦っていた。
ミライを守るため、気合い充分みたいだ。
「レイナ様、カッコ良すぎるッス!」
「ミライは、前出るな! 身を乗り出すな! そして目を輝かせるな!」
ミライは相変わらずだった。
3人の元に戻った私は――
ベキッ バコッ ドガッ!
3人の元に集まってしまったモンスターを殴り飛ばし、一瞬で葬り去る。
「返り血をぬぐうレイナ様、格好良い――」
「い、一瞬であの数を倒し切るとは…………」
「改めて実物はとんでもないな……」
危険なモンスターを処理し、ある程度は数も減らした。
ここからが本番だ。
私は、モンスターの群れを振り返る。
ターゲットは、岩石に手足と眼が生えた風貌の不可思議なモンスターだ。
ギョギョギョッ?
奇妙な鳴き声とともに襲いかかってきたそいつを、
「ふんっ! ――はい、ミライちゃん!」
「分かったッス!」
私は両手で鷲掴みにして、ミライに引き渡す。
「えいやっ!」
「おっけー。はいっ、次っ!」
意図を汲んだミライが、モンスターに一撃を入れる。
すぐさま私は拳を叩き込み、そのままモンスターを消し飛ばす。
――共闘相手との経験値共有。
今までソロだったから馴染みはなかったけれど、パーティーを組むメリットの1つだと聞いたことがある。
"流れ作業で草w"
"こ、これがチェンジか・・・(困惑)"
"ついに連携を学んだレイナちゃん!"
"連携 #とは"
何度かそんなことを繰り返していると……、
「……あれ?」
1体とのモンスターと目があった。
――そのモンスターはクルッと方向転換して、逃亡を始めた!
「待って!? ミライちゃんの経験値~!?」
"草"
"あーあ。狩られる側であること、分かっちゃったね"
"モンスターハウスの奴らって、逃げることあるのか・・・"
"初めて見たw"
"圧倒的強者がいれば、こんなパワーレベリングも可能なのか。勉強になります(英語)"
"なお参考には……(英語)"
結局、残るモンスターは取り逃してしまったが、
「ミライちゃん、どう? 強くなった感じする?」
「はいッス! 体がぽわぽわ暖かいッス!」
それはレベルが上がったときの症状の1つ。
(やっぱり、これは効率良さそう!)
「目指せ、1日でレベル50!」
「はいッス! ギルドでレベル測定するのが楽しみッス! …………あれ? なにか視界の端に、変な輝く文字が見えるッス――」
ええっと……。
首を傾げながら、ミライは何やら文字を読み上げていく。
『スキル開花――「ジャイアントキラー」……格上相手に効果を発揮するスキルが手に入ったみたいッス!』
「嘘っ、本当に!? ミライちゃん凄い……、おめでとう!!」
"¥3000: あっさりスキル開花させてて草"
"そりゃ、こんな荒療治に巻き込まれれば……"
"普通は死ぬぞ。絶対に真似するなよ?"
"押すなよ? 押すなよ?"
"¥5000: 《鈴木千佳》この子たちは特殊な訓練を受けています。絶対に真似しないで下さい"
"マネちゃんw"
ミライは、急激なレベルアップに「ふおぉぉぉお!」っと目を輝かせていた。
「目的は達したな。さてと、今日はここらで戻ることに――」
剛腕さんが何やら言いかけたが……、
「じゃあ……、早速! 次のモンスターハウスを探しにいきましょう!」
「はいッス!」
「「待て待て待て待て!?」」
意気投合するミライと私。
そんな私たちに「待った!」をかけるのは、げっそりやつれた剛腕さんたちであった。
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