第27話
「我がギルドでの行事の1つに、"洗礼"と呼んでる行事があってな……」
ダンジョンイーグルスの1人――剛腕の
長いので、これからは剛腕さんと呼ぶことにする。
"えぇ・・・ガチの内部情報じゃん"
"自分たちでそう呼ぶの最高にダサいな"
"う~ん、隠しきれないブラック臭……"
洗礼――話を聞けば、それは実にろくでもない物だった。
ギルド幹部の反感を買った者に課される無茶な課題。
膨大なノルマの押し付け、フロアボス討伐の強要、危険な探索への駆り出し。
それが原因で大怪我をして、探索者を辞めていった者も少なくないという話である。
「ミライちゃんの態度が気に食わなかったギルマスが、洗礼をミライちゃんに課してな……」
「む~。あたい、何も悪いことしてないッスよ!」
「ああ、分かってる。ギルドへの帰属意識を高め、構成員の士気を高めるためなんて建前だが……、あんなのはただの私刑だよ」
剛腕さんが、不快そうにそう締めくくった。
"ヤバすぎて草"
"大炎上待ったなし"
"掲示板で流れてた噂、ほんとやったんか・・・"
"なになに、いったい何が起きてるんだい?(英語)"
"《英検1級はクソゲー》ーーー翻訳コメント(英語)"
"探索者を舐め腐ってるとしか思えないね(英語)"
"なんで日本は、そんなギルドが大手になれるんだい?(英語)"
「ミライちゃん、何したの?」
「あたいは、ロビーでレイナ様の魅力を語っただけッスよ。そしたらギルマスがいきなりブチギレて、新しいスキルを開花させるまで戻ってくるなって――」
納得いかなそうに呟くミライであったが、
「……いやいや、恥ずかしいから止めて!?」
(この子、何してるの!?)
私としては、突然背後から撃たれた気持ちである。
「むう……。でもダンジョンイーグルスには、レイナ様のファンもいっぱい居るッスよ」
「そんな馬鹿な……」
「本当ッスよ。聞いて下さいッス、イーグルスにはあのレイナちゃんファンクラブの副会長と飲み友達になってるメンバーまで居るッスよ!」
あのレイナちゃんファンクラブって何!?
――頭にツヤツヤした顔の軍曹が浮かび、私はぶんぶんと首を振る。
さ、さすがに関係ないよね?
ダンチューバーとして、最近人気が出てたとは思っている。
だけど、トップギルドの中にファンが居るなんて現実味が無さすぎて……。
私は、ちらりと剛腕さんに視線を向ける。
ミライちゃんが、大袈裟に話してるだけ。
……そうだよね?
しかし私の願いも虚しく、剛腕さんは「もちろん事実だ」と力強く肯定すると、
「佐々木は、その状況が面白くないみたいでな。最近では、レイナちゃんのことを目の敵にしてるんだ」
「どう考えても先走ったよなあ――深層立ち入り禁止なんて。タイミング悪すぎる」
「ほぼ独断なせいで協力してくれるギルドもないからな。封鎖するための人員、どうするつもりなんだか……」
剛腕さんと、もう1人のメンバーまで愚痴りだした。
随分と不満が溜まっているようだ。
(にわかには信じがたいけど……)
(私、本当にダンジョンイーグルスに目を付けられてるの?)
……ちょっとショックだけど、一旦は棚上げ。
(今、気にするべきはミライちゃんのことだよね)
「えっと、ミライちゃんはギルドからの課題で、スキルを開花させたいんだよね?」
「はいッス! ブルー・マスカットによるスキルの開花――どうせ、いつかは試したいと思ってたッスよ!」
「一週間以内に達成できなければ除名。そういう話だったな」
苦い顔になる剛腕さんだったが、ミライの顔に悲壮感はない。
ただ楽しそうに、明るい未来を疑いもせず。
――そのポジティブな精神は、見習いたいと素直に思った。
"そんな糞ギルド、除名された方が良いだろ"
"たしかに。ただでさえ大勢の探索者敵に回してるのに"
"上層部が暴走してるやつかあ・・・"
"ブラックギルド氏すべき慈悲はない(英語)"
"優秀な人材はいつでもウェルカムだよ!(英語)"
"鷲のおふたりは、なんで未だに残ってるの?"
「おふたりは、ダンジョンイーグルスのメンバーですよね? 良いんですか、こんなこと話して」
「俺たちは抜けることにした。違約金も、ライセンスも知らん」
「全くだ。あんな所にいつまでもいたら、こっちまで駄目になっちまう」
剛腕さんたちは、すでにダンジョンイーグルスを見限っているようだ。
実際、そのギルドが随分と評判が悪いのは事実のよう。
ライセンスや、違約金の問題があっても――
(……ん?)
「へ? ギルドって抜けるのに違約金必要なんですか!?」
"ブラックすぎて草"
"そうやって縛り付けてるんかあ"
"ライセンスって素材換金のやつ?"
"ウッソだろw それをたてに脅しかけてるの!?"
"法的に大丈夫なの、それ?"
"事実なら普通にアウトじゃないかな。証拠残ってれば普通に訴えられると思う"
"とんでもないのが出てきたな・・・"
ギルド怖っ。
と戦慄したが、どうやらダンジョンイーグルスが特殊だっただけらしい。
「おふたりは、ベテランで実力者ッスから。いろんなギルドからひっぱりダコ。あたいみたいな弱小探索者は、後ろ盾がなくなったらとても続けられないッスよ」
「だからっておまえは無鉄砲すぎるんだよ。それ食べてたら死んでたからな」
「や、やってみないと分からないッスよ!」
剛腕さんとミライが、そんな軽口を叩き始めた。
"なるほどなあ……"
"どう考えてもミライちゃんは鷲を抜けるべきだと思う"
"未来ある若者を食い物にするブラックギルド、滅ぶべし"
コメント欄が、随分と荒ぶっている。
今まではそれを止めてきた私だったけど……、
(これが事実だとしたら――)
私は、ダンチューバーが好きだ。
しかし中には、事務所とのトラブルで活動停止を余儀なくされた人も居る。
もちろん事務所が悪いとは限らない。それは分かってるけど、事務所のパワハラが問題になっていたケースというのもあって。
そういう輩と、ダンジョンイーグルスが同じだというのなら……、
「とても放っておけないですね」
"レイナちゃんがお怒り"
"これは擁護のしようもない"
"完全に年貢の納め時"
"鷲、食べちゃう?"
「食べませんって!?」
(そんな環境に居続けることは、ミライちゃんにとって絶対良くないと思う)
(でも、そのことで私にできることは……? このことは千佳に相談するとして――)
今、私にできることは、
「ミライちゃん、とりあえず一週間以内にスキルをいっぱい開花させてギャフンと言わせましょう!」
私は、ニッコリと微笑んだ。
"草"
"結局明後日の方向に走り出したw"
"ミライちゃん嬉しそう"
"やばそう"
"ミライちゃん逃げてw"
「はいッス!」
対するミライも気合十分で。
そうして私は、急遽、ダンジョンイーグルスの3人と探索を続けることにしたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます