第29話
結局、剛腕さんたちに懇願されて、私はモンスターハウスを利用することは諦める。
(闇雲にダンジョンの中を探し回るより、効率良いと思うんだけどな……)
そう思ったけど、それが先輩探索者からのアドバイスなら従っておこう。
そんな訳で、私はミライの話を聞きながらダンジョンの中を歩いていた。
「嘘っ!? ミライちゃん、まだ中学生なの!?」
「はいッス! ぴちぴちの中学生ッスよ~!」
驚くことに、ミライは中学生──私より年下だった。
小学生はそもそも立ち入り禁止なので、ほぼ最年少レベルの探索者だと言える。
「ダンジョンイーグルスって人気ギルドなんだよね? ミライちゃん……、実は天才!?」
私がそう聞くと、
「それはギルマスが、ミライが持ってたユニークスキルに目をつけたからだな」
「ユニークスキル──努力家。経験値取得効率アップと、スキル開花率アップ……、磨けば磨くほど化けるスキルだ」
「えへへ、そんなに褒められると照れるッスよ!」
剛腕さんたちがそう言い、ミライがによによと笑う。
"そんな逸材を、鷲は使い潰そうとしてたのか……"
"ユニークスキル、全然活かせてないんだよなあ"
"一瞬で開花させたレイナちゃん凄すぎ!"
「偶然ですって!」
コメント欄、適当なこと言わない!
あとミライは、そんなにキラキラした目で私を見ないで!
そんなこんなで私たちは、下層をのんびり進んでいく。
"相変わらず進み方がダイナミックすぎて草"
"誰かこの子たちに常識教えてあげてw"
"引率してる剛腕ニキの胃はもうボロボロ"
あ、向こうにモンスターが居る……。
(えいっ!)
気配を察知し、私は壁に闘気を叩き込む。
壁に穴をあけ、ショートカットを開通させたのだ。
「さすがレイナ様! ダンジョンって、こうやって進むんッスね!」
「うん。ミライちゃんも、レベル500もあればぶち破れるようになると思う!」
「あたい、また賢くなったっス!」
"い・つ・も・の"
"なんでこんなに安心感あるんだ……"
"レイナちゃん、レベルいくつあるんだ……"
「レベルは、ちょっと前に測ったときは2000ぐらいでした!」
"???"
"今、国内で確認されてる最高レベルって800前後だったような?"
"さすがに冗談だよな……?"
困惑するコメント欄。
(え、最高レベルで800?)
(なにかの冗談だよね……?)
わたしはしがない癒し系ダンチューバー。
戦闘のことは、戦闘のプロに任せたいところだ。
「壁を壊すコツが知りたいッス!」
「うーんと、全部の壁を壊すのは効率が悪いから、最短距離の壁を壊すと良いと思う!」
「なるほどッス! レイナ様、天才ッス!」
どうしよう、この子供めちゃくちゃ可愛い。
目をキラキラさせてるミライを見ていると、私まで幸せになってくる。
"ツッコミ役不在の恐怖"
"ツッコミ役の剛腕ニキなら、画面端でしょんぼりしてるゾ"
"どったのw"
"思いっきりパンチしたのに傷ひとつ付けられなくて落ち込んでる"
"あー……、まあ比較対象が悪い"
そんなこんなで私たちは、和気あいあいとダンジョンを2地区ほど探索する。
(なるほど~!)
(パーティーを組んで探索っていうのも、楽しいかもしれない……!)
何よりミライの成長が、見ていてとても楽しい。
ミライのユニークスキルは、どうやら相当に優秀なようで、みるみるレベルが上がっているように思う。
最終的には私が渡した昏倒したモンスターを、数発で仕留められるまでになっていた。
"???"
""成長早すぎて草:
"レイナちゃんとミライちゃん、理想のコンビすぎるw"
"【悲報】ミライちゃん、大概のチート持ちだった"
"この子追い出そうとしてるギルドがあるってマジ?"
ちなみに剛腕さんたちにも、今日は効率が段違いだったとにこやかに礼を言われた。
無茶言って1日振り回してしまったので、そう言ってもらえると私としてもありがたい話である。
そうして今日、最後にやることと言えば……、
「「よし、ブルー・マスカットを食べにいきましょう!(ッス!)」」
"息ピッタリで草"
"この暴走師弟を止めてやってw"
"剛腕ニキ~! 一般人代表、頑張って!"
※※※
上層に戻ってきた私たちは、ブルーマスカットという果物と再び対面していた。
それは名前のとおり、つやつやと青く輝くマスカットである。
皮を剥く必要はなく、そのままかぶり付くのがグッド。
毒があるが、一度口にしてしまえば病み付きになる美味しさを誇っている。
「いただきます!」
「美味しそうッス~!」
"躊躇なく毒にかぶりつくの草"
"そうじゃないとレイナちゃんの弟子は務まらんよ"
"これがレイナちゃん式修行法!(英語)"
"クレイジーすぎる……(英語)"
"ここまでしたからこそ、レイナちゃんは若くして最強の探索者になったんたね!(英語)"
「お腹が~! 焼けるように痛いッス~~!」
「はい、ポーション。それと……」
「乙女の意地で、絶対にそれは使わないッスよ~! お腹が痛いッス~~!」
ミライ、エチケット袋は断固拒否。
……一応、配信には映らないように工夫しておく。
ちなみにブルー・マスカット、ほんとにヤバいときは全身が痺れて、すっと意識が消えていく(経験者は語る)
腹痛で済んでるのは、すでにミライが毒の効力を上回る体力を身に付けている、ということに他ならず……、
やがてミライは立ち上がり……、
ヒョイっと次のブルーマスカットを口に運んだ!
「こうなったら、毒耐性を身につけるまで帰れま10。やるッスよ!」
「ほえっ? なら、私は……。マナ溜まりを食べれるまで帰れま10を!」
「「地獄みたいな配信やめろ!?」」
叫ぶは剛腕さんたち。
……こほん、たしかに配信に載せられない絵面になりかねない。
反省、反省。
"耐久配信はじまる?"
"ヤバすぎて草"
"無謀すぎるように見えるけど、レイナちゃんたちなら! レイナちゃんたちなら!"
"¥5000: 《鈴木千佳》この子たちは特殊な訓練を受けています。絶対に真似しないで下さい"
「あっ! 毒耐性、ようやく身に付いたッス!」
「やった! おめでとう、ミライちゃん」
「やったッス! これで、これで──」
「「美味しいもの(毒)がいっぱい食べれるね!(ッス!)」」
無事目的を達成した私たち。
ハイタッチして、その喜びを分かち合う。
"えぇ……"
"まだ耐性カンストさせる作業が残ってる(白目)
"¥10000: おめでとう~!"
"てぇてぇ?"
"ふたりが"幸せそうなら万事オッケーです"
そんなちょっぴり引いた様子のコメント欄を尻目に。
本日の配信は、お開きになった。
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