第22話
私は、勢いよくポーチから次なる秘策を取り出した。
"爆発に巻き込まれても微塵も気にしてなくて草"
"爆炎耐性カンストさせてるらしいし多少はね"
"でもレンタル品壊したことはガチ凹みしてて可愛い・・・"
"まるで諦める気配なくて草"
高圧加熱機の尊い犠牲に報いるため。
私が次に取り出したのは、下層のなめくじモンスターが吐き出す酸を詰めた瓶だ。
特殊な瓶に入れておかねば、並大抵のものは溶かしてしまう危険物。
(溶かせば食べられるかも!)
ちょっと邪道な気もするけれど、背に腹は変えられない。
私は、デュラハンの隅に瓶の中身をかけてみた。
――気持ちデュラハンが光沢を増した気がする。
それだけである。
(ツヤツヤして美味し……、そうでもないなあ)
"もう風景が化学実験なのよw"
"レイナちゃん、思ってたよりちゃんと考えてて偉い!"
"ちゃんと考えたら、まず食べようと思わないんだよなあ…………"
「食べないなら何のためにモンスターを倒すんですか!?」
"これは素材の研磨かい?(英語)"
"たぶん……。モンスターの酸をかけて状態を良くするのは、良い工夫だね!(英語)"
"《英検一級はクソゲー》ノー、これは料理です(英語)"
"んなアホな。翻訳担当、適当すぎ(英語)"
"《英検一級はクソゲー》わい、嘘ついてないのに・・・(´;ω;`)"
"ちゃんと通訳してる英検ニキすごい"
"でも内容がぶっ飛びすぎてて、まるで信じてもらえてないっぽいの笑うw"
英語と日本語が入り乱れ、過去最高にコメントの流れが早い。
たぶん、私の調理を心待ちにしているのだろう。
「……よし、次!」
今日という日のため。
憎き鎧野郎を調理するため、私はいくつかのアプローチを考えてきていた。
加熱して柔らかくする――調理器具が爆発した。失敗。
溶かして柔らかくする――溶ける気配がない。こちらも失敗。
最後の案。それは、粉々にくだいて調味料にする――だ。
(メインディッシュとして、別のものを用意しないと……)
私はツヤツヤ輝く鎧に、爆裂ハーブを取り付ける。
ちょんと小突いて距離を取り、大爆発が巻き起こったのを見届け……、
「傷一つ付かないっ!?」
びっくりである。
"耐久度を測ってるのかな?(英語)"
"あの爆発で傷一つ付かないのは素晴らしいね!(英語)"
"いったい、買い取りはいくらになるんだろう?(英語)"
"《英検一級はクソゲー》ノー、これは料理です(英語)"
"料理に爆薬使うやつが居てたまるか! いい加減にしろ!(英語)"
"《英検一級はクソゲー》ぶわっ・・・(´;ω;`)"
(私に、深層はまだ早かったのかな――)
そもそもフロアボス1体に10分もかけていては、鮮度の面でも致命的なのだろう。
やっぱり、もう少し準備してから来るべきだったかもしれない。
私が、しょんぼりしていると、
"やっぱり無理なんじゃ?"
"デュラハン、どう見ても食用には見えないしなあ"
"レイナちゃんなら、いっそそのままいけそうw"
"さすがに無茶振りや。ただの鎧やぞあれ……"
「天才ですか!? その手がありましたね!」
天啓が降りた思いだった。
"!?"
"いきなりどうしたのw"
"ここのリスナーに天才が居るわけないだろ!"
「その通りです! 調理できないなら、そのまま食べれば良いんです!」
"??????"
"どゆこと?"
"待って!? なんかヤバいこと言い出したw"
"¥20000: これでお腹いっぱい焼肉食べて? とりあえず落ち着いて!?"
困惑する食材さんを置き去りに、私はデュラハンと向き直る。
「宿れ、パンドラ・ボックス!」
"ふぁっ!?"
"パンドラ・ボックス食べたことあるの!?"
"ワイらのトラウマがあぁぁぁ"
"見かけたらスルー安定だと思ってた……"
――あれは、恐ろしいモンスターだった。
宝箱に擬態したモンスターであり、岩や鋼までバクバク喰らい尽くす。
岩壁に隠れたら、岩をバクバク食べながら襲いかかってきたのは一生もののトラウマである。
(あいつ、たぶん金属も食べられるよね)
ちなみにパンドラボックスの可食部位は舌。
程よく筋肉がついた大きな舌は、焼くと普通に香ばしく仕上がり美味しい。
「いただきます!」
私は、手頃なパーツにかぶりついた。
オーラで強化された肉体は、見事に鎧を噛みちぎることを可能とする。
バリバリ、ムシャムシャ――ごくん。
(味としては、意外と悪くないかも?)
(ゴリゴリって特有の食感も、そういう食べ物だと思えば――さすがに硬すぎて美味しくはないなあ)
ちなみに、味は見た目に反してほんのり甘い。
渋さも感じるが、それでも調味料で整えてやれば美味しく食べられそうだ。
「う~ん、味は意外と悪くないですね。食感はやっぱり要工夫といったところでしょうか……」
"えぇ…………(困惑)"
"(;゚д゚)!?!?"
"【朗報】デュラハンさん、味だけは美味しい"
"よし、なら煮込んで出汁を取ろう!"
"↑↑たぶんただしい活用法"
"いや、料理に使ってる時点で正しくはないww"
それから私は、いくつかの食べ方を試していった。
といっても丸かじりしてる以上、食べ合わせを変えるぐらいが関の山だけど。
――たどり着いた一番美味しい食べ方は、
「スパイシーミントに小さな欠片を巻いて、齧るのが一番良いと思います。ちょっとだけチーズに近い味がします!」
"(;゚д゚)!?"
"本当にそのまま丸ごと喰い付くしたw"
"ワイらは何を見せられたんだ……?"
"食レポだよ!"
(まだまだ美味しさを引き出せてない気がする……)
(そのうちリベンジして来よう!)
私は、密かにそんな決意をするのだった。
食べ終わり、私の中にデュラハンが宿ったのを感じる。
デュラハンのことも、たしかにオーラとして纏えるようになったのを確認し、
「ごちそうさまでした」
私は、そう手を合わせるのだった。
"さすがにこれは……、やっぱり動画じゃないの?(英語)"
"《英検一級はクソゲー》ノー、これは配信です(英語)"
"そんなバカな――(英語)"
"動画にしては精巧すぎない?(英語)"
"すぐに本部の人間に伝えてこないと……(英語)"
"そんなことより、この子可愛すぎるよ!(英語)"
"最高だね、彼女は
"新たなる日本のスターに乾杯!(英語)"
コメント欄は、最後まで大盛りあがりだった。
※※※
――その衝撃的な記念配信。
いつものように切り抜きが大量に作られ、国内に留まらず海外でも爆発的に拡散されていくことになった。
人気のシーンは、デュラハンとの1vs1の決戦だろうか。
小さな少女が部屋を縦横無尽に駆け巡り、デュラハンという難敵を一方的に仕留める映像。
日本のダンジョン探索者は遅れている――そんな共通認識を持っていた海外の探索者たちは、相当の衝撃を受けることになった。
だが一番反響があったのは、大きな鎧をムシャムシャと食べるレイナの姿だ。
下手なホラーよりも迫力があった、と語るのは配信をリアルタイムで視聴したダンチューバー。
理解が追いつかずに何度も動画を再生し、やがて取り憑かれたようにレイナのチャンネルを登録する者が多発したという。
――
グリーディー・プレデター。レイナの名は、そんな二つ名とともに海外にも羽ばたいていくことになったのである。
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