第21話
デュラハン――その姿を一言で説明するなら、首のない鎧騎士といったところだろうか。
頑強な黒鎧は並大抵の攻撃では傷一つ付かず、手にした大剣はあらゆるものを一太刀で真っ二つにする危険な代物だ。
実際、拳で対抗しようとしたらスパッと斬られそうになって半泣きになったっけ(慌てて回避した)
図体こそ大柄の人間と同じぐらいだが、これまで相対したどのモンスターよりも手強い。
だからこそ、出し惜しみはなし。
"デュラハンて、打撃耐性は最強クラスだよね?"
"レイナちゃんどうするんだろう……"
心配そうなコメント欄を見ながら、私は戦闘を開始する。
「――獰猛なるブラッドラビットよ、宿れ!」
私は、拳にモンスターのオーラを纏わせる。
そのオーラはやがて私の全身を巡り、身体能力を大きく向上させた。
ちなみにブラッドラビットは、素早さに特化したうさぎ型のモンスターだ。
煮ても焼いても美味な素晴らしい相手であり、私は機動力を活かした戦い方をする場合に、このオーラを愛用していた。
(前回、攻略法は見つけたからね)
(デュラハン――所詮は硬いだけで絶好の
デュラハンが、機敏な動きで距離を詰めてきた。
それと同時に地を蹴り、私は部屋の片隅にバックステップ。
壁を蹴り、部屋の中を縦横無尽に駆け回る。
"消えた!?(英語)"
"教えてくれ、いったい何が起きてるんだ!?(英語)"
"知るか! ああ、自分の目が信じられないよ(英語)"
"海外ニキたち混乱してるw"
"ずっと見てきたはずなのにワイも何も分からん(´・ω・`)"
"¥5000: なんやこれ・・・(困惑)"
今回、配信内容としては天井付近に浮遊カメラを飛ばして戦闘の様子を映している。
いくら千佳の用意した配信機材でも、この速度で動く私を追尾することは不可能だったらしい。
手元のスマホを覗き込み、困惑するコメントを見た私は、
「はい、頑張って部屋の中を走り回ってます! デュラハンは、動きがトロいので、この戦法がオススメですよ!」
"喜べよ、解説だぞ"
"解説 #とは"
"音やばくて草"
"この子は、何て言ってるの?(英語)"
"《英検一級はクソゲー》部屋の中を走り回ってる。デュラハン相手のおすすめの戦法らしい(英語)"
"そんなアホな……、彼女は本当に人間なのかい?(英語)"
"英検1級ニキ、ちゃんと翻訳してて偉い!"
デュラハンは、すっかり私を見失ったようで辺りをキョロキョロ見渡していた。
私はその背後に回り込み――、
「今日こそは私の糧になってね!」
力を込めてぶん殴り、そのまま素早く距離を取る。
(わりと安全な割には、随分と殴り甲斐がある相手なんだよね)
(ストレス発散には、持って来い!)
私はヒット&アウェイで、拳を浴びせ続ける。
打撃だと相性が悪い?
効くまで殴れば良いだけのこと。
「――あっはっはっはっは!」
"あっはっはっはっは!"
"あっはっはっはっは!"
"( ゚∀゚)/Ahhhhh!"
"( ゚∀゚)/Ahhhhh!"
"$370: 素晴らしい、これが
"沈黙?(英語)"
"つURL(→モンスターハウスで、無言でモンスターを屠り続けるレイナさん)"
"最高に可愛いね!×D(英語)"
"海外ニキ大喜びでなんか嬉しい"
私は、ボコスカと10分ぐらい一方的にデュラハンをタコ殴りにし、
「こほん。そろそろ終わりにしますわ!」
"トリップしてたなw"
"唐突なお嬢様言葉笑っちゃうからヤメテw"
"何もできずに倒されるデュラハンくん可愛そう"
"深層配信なのに何でこんなに安心感あるんだ・・・"
動きが鈍ってきたデュラハンの胴体に、渾身の一撃を叩き込む。
デュラハンはガクリと倒れ、そのまま動かなくなった。
"¥50000: 無傷で深層のボスを倒し切るバケモンがいるらしい"
"¥50000: 思わず見入ってしまいました。凄すぎ!"
"どうやって食べるんだこれw"
"$370: 俺は夢でも見てたのか?(英語)"
"$370: ダンジョン後進国の日本で、まさかこんな怪物が育っていたなんて……(英語)"
「どうやって食べましょうね――」
やっぱり硬い。それはもう絶望的に。
とはいえ今日は、色々と秘策を用意してきた。
「という訳で、今から調理していきます!」
そう宣言し、私は料理に取り掛かるのだった。
※※※
"やあ、彼女はいったい何をしているんだい?(英語)"
"食べるらしいぞ(英語)"
"ほわっ!? 日本人の食へのこだわりヤバすぎない!?(英語)"
何やら英語のコメントが盛り上がっている。
楽しんでくれてると良いなあ。
「ハイ! アイム、レイナ・アヤネ! サンキュー!」
"$370: すごい戦いだった!(英語)"
"$80: これからの配信も楽しみにしてます!(英語)"
"一生懸命コミュニケーション取ろうとするレイナちゃん可愛い!"
"でもその心にはバーサーカーが宿ってるんだよなあ・・・"
改めて私は、デュラハンと向かい合う。
デュラハンという食材――それは純度100%の鎧。未知の金属である。
中には美味しいお肉があるなんてことも、残念ながらない。
さすがに以前は、喰べることを断念してすごすごと帰ってきたが……、
「こほん。今日はいくつか秘策を用意してきていましてね!」
私は、ポーチからレンタルしてきた機材を取り出した。
携帯型の高圧加熱機――千佳に取り寄せてもらった取っておきの逸品だ。
有名メーカーが技術を惜しみなく注いで作ったもので、ダンジョン素材を処理するための専用器具である。
少しは柔らかくなると良いのだけど……、
「おりゃ!」
私は、デュラハンの腕のパーツを加熱機にぶち込んだ。
スイッチを入れて、ワクワクと見守る。
"加熱機くん「やめて!?」"
"そ・れ・はw"
"そわそわしてるレイナちゃん可愛いなあ(遠い目)"
加熱機は、ガタガタ、ピーピーと異音を発していたが、
――バーン!
そう音を立てて爆発した。
「なんで!?」
"レイナちゃん大丈夫、怪我はない!?"
"そりゃ、そんなもの入れるの想定してないw"
"料理用て書いてあったでしょw"
「料理してるじゃないですか!」
この機材では、残念ながらデュラハンは調理できなそうか。
――千佳に何か良い感じのものを開発できないか、後で聞いてみようかな。
「……よし。次!」
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