第20話

 新宿ダンジョン深層――第1地区。

 そこは下層までの雰囲気とは、ガラッと異なっている。


 高純度のマナが漂っており、あたりには結晶化したマナが淡く発光していた。

 ごつごつした岩肌もマナを帯びて、七色に輝いている。

 ダンジョン内のマナの濃さは、そのままモンスターの凶悪度合いにも比例すると言われていた。

 その地区のモンスターが、いかに凶悪であるかを示すバロメータなのだ。


 きらきらとダンジョン内を照らすマナは、一見すれば美しく幻想的。

 しかしモンスターは互いに覇を争い、侵入者を喰らいつくそうと牙を剥く。

 1つのミスが死を招く――それが新宿ダンジョン深層という世界である。



 そんな選ばれた者しか入れない道を歩きながら、1人の少女が配信をしていた。

 10万人を超える人々に見守られながら、少女は――


「はぁ――あの辺の魔力溜まり、綿あめみたいで美味しそうですね」


 そう、うっとりした声を漏らした。



"えぇ……(困惑)"

"言われてみれば綿あめみたいに見えてきた・・・"

"でも絶対食べても美味しくないゾ"

"人間には濃すぎて毒みたいなもん"


 私――彩音レイナは、流れるコメントを見ながら、


「毒なら無力化できますよ?」


"違う、そうじゃない!"

"平常運転すぎるw"


 そんなことをリスナーさんと話していると、前方からモンスターが現れた。


 ずるずると地を這うジャイアントバジリスク3体。

 下層でフロアボスにもなっていたモンスターだ。

 ちなみに鱗を剥いで、丸焼きにすると美味しい。 


 オーラを拳に纏わせ、私は迷わずバジリスクの群れに突っ込んだ。

 相手が反応する隙を与えず、拳を叩き込み三連撃。

 モンスターの群れは、一瞬にして消滅した。


"ほわっ!?"

"正面突破wwww"

"うそやろ・・・こいつら、下層のフロアボスだったよね?"

"瞬間移動してない!?"

"(つд⊂)ゴシゴシ・・・・(;゚д゚)!?!?"

"¥10000: ぽかーん( ゜Д゜)"


(油断してると私が食べられかねないからね)

(本当は、本当は……、副菜として入手しておきたかったけど――!)


「食べれなくてごめんなさい!」


"まだ食べる気で草"

"レイナちゃんは、ご不満のようです"

"フードロスにも配慮できて偉い!"



 私は、そのまま最短ルートを駆け抜ける。


(深層、まだ知らないハーブがいっぱいあるな――)

(あ、あれなんか使えるかも!)


 私は、爆裂ハーブと名付けた野草をいくつか摘んでおく。

 誘爆しないように、柔らかなオーラを纏わせておく。


 この野草、衝撃を与えるとたちまち大爆発を引き起こすのだ。

 見慣れぬ弓使いゴブリンが、ぶんぶんと連射してきたときはさすがに恐怖しかなかった。

 あの破壊力、うまく使えば調理にも役立つはず。



 私は、いくつか材料を調達しつつ、順調に深層の攻略を進めていく。


"深層ソロ配信と聞いて飛んできました!"

"まさかそんなクレイジーなことする奴がいるはずが――本当じゃないですか!?"

"深層すらゴリ押しなのはさすがに草"

"むしろ下層のときよりペース上がってるんだが……(困惑)"


"同接20万人w"

"祭りになってる!"

"¥50000: レイナちゃん、無理はしないで本当に・・・"


「スーパーチャットありがとうございます! へ、20万!?」


 見れば同接が、すごい勢いで増えていた。

 どうやら食材さんたちが、つぶやいたーでいっぱい宣伝してくれたらしい。

 つぶやいたーで、またトレンドにも載っているなんてことをコメントで教わり、


(こ、これはますます気合いを入れて配信しないと!)


 私は、そう気合を入れ直す。

 入れ直した矢先に……、


"$120: おぉ……これは、アニメの女の子?(英語)"

"$80: かわいい!(英語)"

"$370: 深層にソロで潜ってるだって!? なんってクレイジーなんだ!(英語)"


"動画なのかな?(英語)"

"違う、ライブ配信だよ(英語)"

"そんなバカな――(英語)"


(え、英語だ~~!?)


 まさかの海外リスナーの登場にテンパる私。

 えっと、えっと、来てくれた以上は楽しんで欲しいし……、


「ハロー? アイ、イート、デュラハン!」


"英語力、壊滅的すぎるww"

"こんにちは! 私、デュラハン、食べます!"

"最高に意味分からない挨拶で草"


「し、仕方ないじゃないですか!? みなさんも、学生のときは英語なんて何に使うんだって思ってましたよね?」


"一理ある"

"まあ、しゃあないw"

"お客さんの中に、英語に自信ニキはいらっしゃいますか?"

"ほな、英検1級取り立てほやほやのわいが適当に翻訳しとくで"


"とりあえずレイナちゃんは探索に集中して!?"

"ほんとに緊張感なさすぎのよw"


 結局、英語力0点の私に代わり、英語に自信あるリスナーさんが良い感じに説明してくれることになった。

 視聴者さん様様なのである。



 その後も、私は順調に深層の攻略を進めていき、


「ついに、メインディッシュとご対面です!」


"言い方w"

"いや草"

"デュラハンくん逃げてw"


 私は、ついにボス部屋の前に到着するのだった。

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