第16話
「ボス戦は失敗しちゃったので、料理で魅せていきますっ!」
"失敗(ワンパン)"
"失敗(敵が消滅)"
"強くなりすぎたんや・・・"
今日のコラボ配信は、解説&料理配信だ。
つまりここからは、私の本領発揮なのである。
本領、発揮。
……あれ?
「メインディッシュが消滅してるぅぅぅぅ!?」
"そこに気がつくとは天才か?"
"レイナちゃん、いつも食べられるモンスターだけは丁寧に倒してたのに……"
"テンパるレイナちゃん可愛い"
大失態である。
まさか料理配信で、メインディッシュを消し飛ばしてしまうなんて……。
「レイナちゃん、道中のお肉拾ってくる?」
「いえ、それだと鮮度が……」
"お肉呼ばわり草"
"ゆきのんも順調に毒されてきてるなw"
私は、少し考え込んでいたが、
「10分下さい。ひとっ走り、狩ってきます!」
導き出した結論はそれ。
コラボ中に席を外すなど非常識。
コメント欄の反応次第では、すぐに取り下げようと思っていたけれど、
"レイナちゃんのスーパープレイを、ゆきのんが実況解説してくれると聞いて"
"ゆきのん解説があれば、俺たちでもマネできる?"
"人間卒業試験"
"無茶振りやめて差し上げて"
コメント欄は、意外とノリノリで。
メインディッシュを狩るため、急遽、私は先の地区に進むのだった。
※※※
「え~っと、今からレイナちゃんの探索を解説したいと思います~!」
私――望月雪乃は、送られてきたレイナちゃんの探索配信に視線を送る。
画面左下に、レイナちゃんから届いた画面を映す。
画面右端には、レイナちゃんのアイコン(狩りに行ってますのポップアップつき)を配置。
画面構図としては、ゲーム実況の配信と似たものにしてみた。
レイナちゃんは「すぐに戻ってきます!」って、すごい気合いを入れてたけど、
『あ~! もう、喰えない奴らに用はないって!』
『邪魔っ! ほんっっっとに、ワラワラ湧いてきて目障りなんだから!』
「バーサクレイナちゃん、格好いい~~!」
"解説してww"
"ただのオタク化してて草"
"レイナちゃん、だいぶハッスルしてるなw"
コメント欄も大盛り上がりだ。
「私みたいな一般人に、レイナちゃんの戦いを解説できると思いますか!?」
"開き直ったw"
"ありのまま今起きたことを話すぜ!"
"モンスターにとっては歩く災厄そのものなんよ"
見入っていると、ルインに着信があった。
送り主はレイナちゃん。えっと、なになに……?
「――えっと? そろそろフロアボスなので配信に載せて下さい?」
"あっ(察し)"
"あー・・・"
"レイナちゃんの本性が……"
"今日は随分豪快だと思ったら、配信載ってないと思ったのかw"
「レイナちゃんへ。もう、バッチリ映ってますよ?」
『へ? いやぁぁぁぁぁぁ!?』
響き渡る絶叫。
てっきり、そのつもりだと思ってた。
生配信の映像が送られてきたら、こっちの配信に載せないのは失礼というもの。
需要の塊だし、私だって見たいし。
"諦めろん"
"むしろそれを見に来た"
"実家のような安心感"
『おっほっほ。これから第三地区のフロアボスを狩ってきますわね!』
"挑むとかじゃなくて、狩りなの草"
"隠しきれない野生児オーラ"
"でも間違ってないんだよなぁ"
"フロアボスくん、美味しく生まれてきたばっかりに……"
「きゃ~! レイナちゃん、頑張って!!」
"こっちはこっちで、完全にただのオタクで草"
"ゆきのん、レイナちゃんのこと好き過ぎでは?"
"2人が可愛いから万事オッケです!"
そして数分後。
レイナちゃんは有言実行。
本当に10分きっかりで、第三地区のフロアボス(イノシシみたいな奴)を担いで帰って来たのであった。
※※※
「席を外してしまってすみません! 繋ぎ、ありがとうございます。食材、採ってきました!」
私――彩音レイナは、ゆきのんにぺこりと頭を下げた。
ゆきのんは興奮した様子で「最高でした!」と言っていた。
いったい、何のことだろう?
そんな訳で私は、狩ってきたグレートボアを調理場に配置。
「こんレイナ~! 今日も食卓のみなさんに、笑顔と元気をお届け!」
"中層攻略RTA決めてきたのに息一つ切らしてねえw"
"ついにわいらは喰われてまうんか?"
"さっきとの温度差がw"
私は、そのまま調理に入る。
グレートボアは、鉄板で焼いてそのまま丸かじりするのがオススメの食べ方だ。
慣れないうちはだいぶクセが強いが、そのクセこそが醍醐味だと私は思う。
まずは、調理セットから鉄板を取り出した。
愛用している学校支給の機材だ。
そのままグレートボアの下処理をしようとしたところで、
"大丈夫? レイナちゃんにしか食べられなくない?"
"毒殺未遂"
"ゆきのん、すごい嬉しそう!"
"でもたぶん毒だゾ……"
「さ、さすがに今回は毒抜きしますよちゃんと!」
"そんな器用なことできたの!?"
"レイナちゃんが、ちゃんと料理してる……"
「みんなして私を何だと思ってたんですか!?」
まあ毒はそのまま食べた方が美味しいと思う。
だとしても、さすがに毒をそのままお出しするような事はしない。
――毒耐性スキル、次に探索のコツを聞かれたらオススメしてみようかな?
ところで、グレートボアは主に腸あたりに毒を持つ。
その部位さえ除いてしまえば、残りは水で洗い流して火をしっかり通せば十分食べられる。
また、外部から刺激を与えて、肉を柔らかくするのも重要な行程だった。
「おりゃっ、おりゃっ! さっさと私の糧になれ!」
「えっと、私は――、私は――――」
"【悲報】レイナちゃんの清楚な仮面、食欲に負ける"
"お腹すいたからね、仕方ないね"
"手伝えなくてオロオロしてるゆきのん可愛い"
「向こうで作ってるスープの味を整えてるね!」
「ありがとうございます、ゆきのん先輩!」
"ゆきのんやっぱり天使・・・"
"レイナちゃんだって天使やぞ! その……、鮮血の――"
"返り血物ともせずに殴り続けてるの草"
"レイナちゃんは可愛いなあ(白目)"
暴れまわっていた姿が配信に載っていたことを知り、ちょっぴり開き直った私である。
そうしてついに、料理が完成した。
"レイナちゃん、丸焼きにするの早すぎひん? どないなっとるんや……"
"なんか殴りながらオーラを纏わすらしい?"
"前説明してたけどサッパリ分からん"
"本人感覚でやってそうw"
ざわざわ盛り上がるコメント欄を見ながら、私は料理を配信に映していく。
デーンと鎮座するは、ワイルドなグレートボアの丸焼き(作:私)
その箸休めには、ダンジョン素材をふんだんに使った贅沢なお吸い物。ホカホカと良い匂いとともに、湯気を立てている(作:ゆきのん)
さらに彩りを加えるかのように、グレートボアの周囲にはカラフルなフルーツが美しく並べられていた。センスが素晴らしく良い(作:ゆきのん)
(なっ……!?)
(これは……、圧倒的な女子力!)
「た、大したものは作れなかったけど――」
「ゆきのん先輩、女子力高すぎませんか!?」
"な、なんか安心感ある料理配信だった"
"そうだよね。料理配信って、こういうものだよね……"
"ときどきレイナちゃんの奇声が聞こえてこなければ完璧だったw"
おかしい。
料理は私の領域のはずだったのに、ゆきのんの溢れんばかりの女子力に負けている。
(え~い、こうなれば――!)
(食レポで対抗してみせるっ!)
「「いただきます!」」
私は、料理を口に運び、
「このデザート、ほんわかと甘くて――ほっぺたが落ちそうなぐらい美味しいです!」
「良かった。レイナちゃんの好みにあって良かった!」
ゆきのんは嬉しそうに微笑むと、
「レイナちゃんが料理してくれたグレートボアのお肉も、素晴らしい味わいです。肉の質感が、いつも食べてるお肉とは違って繊細で――それでいてジビエとは思えないぐらいに素直なクセのなさで。食感としては、口の中に入れるだけでとろけていく未知の感覚……、高級焼き肉店のお肉を、さらに豪華にした感じとでも言うんでしょうか。焼き加減も絶妙で、肉汁たっぷり――これは高級ダンジョン料理店でも、そうは味わえないものですよ!」
「!?!?」
(あなた、食レポのプロですか……?)
目を輝かせて早口で実況するゆきのん。
愕然とする私。
"食レポのレベルが違いすぎるw"
"これが格の差……"
"じゅるり……、グレートボア食べたくなってきた"
"でもレイナちゃんの幸せそうな笑顔はオンリーワン!"
コメント欄が爆笑していた。
「うわ~ん! 視聴者さんがいじめる~!」
半泣きでゆきのんの胸にダイブ。
「よしよし」
「うぅ……」
「でもレイナちゃん。少しは食レポ練習しよ?」
「うわ~ん! ゆきのん先輩まで~~!?」
"てぇてぇ"
"てぇてぇ?"
"次のコラボは食レポ育成講座かなw?"
"果てしなさそう"
その後も私たちは、リスナーさんとじゃれ合いながら食事を進めていき、
「――それでは、次の食卓でお会いしましょう!」
「次の攻略会議もよろしくお願いしますね」
大盛況のうちに、コラボ配信は終了するのだった。
――結果から言えば、コラボ配信は大成功。
リスナーさんたちの反応は良く、つぶやいたーでは「またやって欲しい!」なんて好意的な感想が多く見られた。
さらにコラボをきっかけに、互いのファンが相手チャンネルを登録するという相乗効果も発生。
気づけば彩音レイナの食卓チャンネルは、ついにチャンネル登録者数100万人という大台を突破したのであった。
※※※
そんなコラボ配信を見ながら、とある男がこう呟いた。
「彩音レイナ――やはり何としてでも、我がギルドに欲しいな」
その人物の名は、佐々木大五郎。
ダンジョンイーグルスというギルドのギルド長であり、優秀な人材を貪欲に探し求めるスカウターであった。
配信を見ていたところ、配信に載っていたものが本物ならば、探索者としての腕はトップクラス。
とは言っても非現実的すぎるものも混ざっており、恐らく動画も混ざっているだろう。
仮に実力がまやかしのものであっても、さしたる問題はない。
ダンチューバーなどという人種に求めるのは、所詮は宣伝。
最近、広まってしまった悪印象を払拭するために利用したいだけなのだから。
「ちっ、マネージャーに連絡を、か――」
できればチョロそうな彩音レイナの方を、さっさと勧誘してしまいたかったのだが……。
大五郎は、そんなことを考えながらマネージャー――千佳の連絡先を調べるのだった。
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