第15話
新宿ダンジョン中層、第2地区のフロアボス──デビルアイ。
全身毛むくじゃらの人型モンスターであり、その大きなひとつ目が特徴である。
ずんぐりした巨体から生み出される破壊力は相当のもので、中層に挑む探索者からは最初の番人と恐れられていた。
(毛皮が邪魔で、最初は打撃が通らず苦労したな……)
対応策は、相手の防御を上回るパワーで殴りつけること。
ちなみに食べるときは、毛皮を剥いで煮るのがグッド。
コリコリという目玉の独特な食感が妙に癖になり、たまに食べたくなる美味なモンスターでもあった。
「――って感じで挑もうと思うけど。……レイナちゃん、聞いてる?」
「はいっ! デビルアイの目玉が美味しいって話ですよね!」
「元気良い返事だけど、まったくもって違うからね!?」
"これは捕食者の貫禄w"
"デビルアイくん逃げてw"
"レイナちゃんの手綱を握るのは大変……"
いけないいけない。ボケてないで集中しないと!
私は、ゆきのんの話を慌てて思い出す。
「えっと、今日練習するのはチェンジ――前衛同士での入れ替わりですよね?」
「うん。いずれパーティを組むなら、やっぱり身に付けておいた方が良いと思うの」
ソロで活動していくにしても、臨時でパーティに入るときはあると思うから。
そう優しく諭され、私はこくりと頷いた。
チェンジ――それは対ボス相手のテクニックの1つだ。
強敵が相手のときは、前衛が足止めしている間に、後衛が高威力の魔法を叩き込むという攻略法に行きつくことが多い。
その戦い方の問題点として、ボスの苛烈な攻撃にさらされる前衛の疲弊が激しすぎるというものがあった。
そこで生み出されたのが、チェンジと呼ばれるテクニックだ。
敵の隙をつき、素早く前衛同士で入れ替わる戦術だ。
敵の攻撃パターンを見切って入れ替わるもよし、隙がなければ前衛同士で協力して無理やり隙を生み出すもよし。
「長期戦になりがちなボス戦では、基本テクニックだからね」
ゆきのんが、そう締めくくる。
「でも……、そのまま殴り倒しちゃった方が早いですよ?」
「う~ん。じゃあ、もしレイナちゃんだけで倒しきれない敵が現れたらどうする?」
「その時は……、倒せるまで鍛えます!」
「なんって曇りのない良い笑顔!」
レイナちゃんらしいけど……! とゆきのんは苦笑い。
「逃げられるなら、倒せるまで鍛えるというのもありだとして……。じゃあ、もし逃げられなかったら?」
「…………そのときは潔く喰われます」
「弱肉強食すぎるよ!?」
"ゆきのんの常識講座はじまった!"
"価値観が野生児すぎるw"
"生きてる世界が修羅すぎるんよ……"
「もしレイナちゃんに何かあったら、視聴者さんが悲しむと思う」
「それはそうですが……」
「それに、私も悲しいし……」
「――分かりました! チェンジ、練習しますっ!」
憧れの先輩からのアドバイスだ。
聞かないという選択肢はない。
"目をキラキラさせてるレイナちゃん可愛い!"
"アカデミーは今まで何をしてたの……"
"でもレイナちゃんには、ソロで潜ってスーパープレイ連打して欲しい気もするw"
"いやいや、命には変えられないからな?"
そんなやり取りを経て、ボス部屋に侵入。
(やるよ!)
私は気合い十分で、デビルアイと対面するのだった。
※※※
「レイナちゃん、来るっ!」
私たちが部屋に入るや否や、デビルアイが襲いかかってきた。
おぞましい咆哮をあげながら、巨木のような腕を振り下ろしてくるデビルアイであったが、
「ちょっと大人しくしててね」
私は、振り下ろされた二の腕をガシリと掴む。
"ふぁっ!?"
"そんなアホなw"
"こいつ普通にパワーだけはバカ高かったよな……"
デビルアイは慌てて腕を引き抜こうとジタバタする。
……が、残念ながらピクリとも動けない。
ガッツリ私が掴んでいるからである。
(チェンジのためには、入れ替わる隙をつくる必要がある)
(こういうことかな?)
「ゆきのん先輩! チェンジ、チェンジしましょう!」
「…………へ?」
ぶんぶんとデビルアイを振り回しながら、私はゆきのんを振り返る。
"なんやこれ、なんやこれ……"
"強すぎる・・・"
"振り回されてるデビルアイくん可愛そう"
"チェンジ #とは"
ゆきのんは、たっぷり10秒ほどフリーズしていたが、
「えっと……、チェンジするのは難しいんじゃないかな?」
おずおずと、困ったような顔でそんなことを言う。
「な、なんでですか! 隙、作りましたよ?」
「いや、そうじゃなくてね?」
私は、デビルアイに視線を戻した。
ぐるぐる目を回している。
目が合うと、ビクッと怯えられてしまった。
"デビルアイくん怯えてて草"
"もはや蛇に睨まれた蛙"
"レイナちゃんに睨まれたフロアボス?(難聴)"
"わいもレイナちゃんに蔑みの目で見られたい・・・"
「ゆきのん先輩、どうすればチェンジできますか?」
「デビルアイはパワータイプだから、ノックバックさせてから素早く入れ替わるのがセオリーなんだけど……」
言い淀むゆきのん。
"こんなシチュエーション想定してない定期"
"腕力だけでフロアボスをねじ伏せる幼女がいるらしい"
"ゆきのん、チェンジ頑張って!"
"無茶振りやめてあげてw"
(なるほど、ノックバック!)
(要は強く攻撃して、弾き飛ばせば良いんだよね!)
私は空いてる手に、オーラを込めていく。
デビルアイが、ぷるぷる涙目で逃げ出そうともがいたが、
「チェンジッ!」
私はデビルアイから手を離し、もう片方の拳を叩きつける。
そのままチェンジできるよう大きくバックステップ。
果たして、拳を受けたデビルアイは、
――そのまま跡形もなく消滅した。
「あっ……」
"知ってた!"
"これはテスト0点の貫禄"
"アカデミーも困ってそう"
"モンスター君が脆弱すぎるのが悪い"
"予測可能回避不可能w"
恐る恐るゆきのんを振り返り、
「う~ん、0点!」
ゆきのんが笑顔でそう宣言。
「ごめんなさいぃぃぃぃ!」
私は、思わず涙目になるのだった。
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