第58話
美味しいモンスターを探して、深層を徘徊する私とミライちゃん。
しばらく歩き、やがてのっそりのっそりと歩くイノシシ型モンスターを発見する━━名前は、クレイジービックボアと言ったはずだ。
「ちゃんと目と耳を塞いで下さいね!」
"ヒャッハー! 狩りの時間だァ!"
"なんで耳もw!?"
"お腹すいたからね。仕方ないね"
私が飛びかかろうとした時、ミライちゃんが、
「レイナ様! ここは私がやってみたいッス!」
そんなことを言いながら、身を乗り出した。
「ミライちゃん? ここ、深層だよ? 大丈夫……?」
「はいっス! 任せて欲しいッス!」
ミライちゃんは、自信満々にモンスターの前に飛び出すと、
「そのお肉! 大人しくレイナ様に献上するッス!」
そう声を張り上げた。
ブモゥゥゥ!
クレイジービッグボアは、怒り狂った様子でこちらを見ると、脇目も振らずにミライちゃんに飛びかかる。
ミライちゃんは、回避する素振りすら見せずにクレイジービッグボアを迎え撃ち、
━━そのまま凄い勢いで吹っ飛ばされた!
「ぇええええ!? ミライちゃん、大丈夫!?!?」
(いざとなったら割って入って仕留めつつ!)
(エリクサー、エリクサー……!)
慌てる私をよそに、ミライちゃんはムクリと起き上がり、
「痛いッス〜!? レイナ様、活きがいい獲物ッスよ!」
テンション高そうに、そんなことをのたまった。
驚くことにピンピンしている。
さらには次の攻撃は軽やかに回避。ポンと飛び上がり、モンスターが姿を見失ったところに、上からかかと落としを決めてみせる。
ブ、ブモゥゥゥ!
怒り狂ったクレイジービッグボアは、やがては動きに精彩さを欠いていく。
数分かかったものの、最終的に、ミライちゃんは危うげない勝利を収めてみせた。
「パチパチパチ! ミライちゃん、また強くなった!?」
「えへへ、でもレイナ様に比べたらまだまだッス!」
「最初に攻撃を受けたのは?」
「えへへ。なんか攻撃を喰らってみると、スキルが生えてくる可能性が高い気がしたっす! だからとりあえず、未知のモンスター見つけたら試してみてるッスよ!」
(な、なるほど……!)
先手必勝を常にしている私では、とても思いつかないトレーニング方法である。
「なるほど! ミライちゃん、天才! たしかに攻撃なんて、もらおうと思わないともらわないもんね!」
私はミライちゃんの頭を、撫でまわす。
"撫でられて気持ちよさそうなミライちゃん!"
"ドヤ顔かわいい!"
"攻撃なんてもらおうと思わないともらわないwww"
"【朗報】新たなトレーニング法、見つかる"
「でも、危なくない? 」
「へ?」
「だって、深層モンスターの攻撃をまともに喰らって無傷ですむわけが……。あれぇ」
「この程度なら余裕ッス!」
ドヤドヤドヤっと胸を張るミライちゃん。
「打撃耐性特大に、対獣相手の有利スキル。あと、初撃ブースター(hp満タン時に防御400パーセントアップ)で、あ、常時スーパーガード状態になる、亀神の心得も便利ッス!」
「……へ?」
やだ、どうしよう。
うちの弟子、強すぎ?
"なになに、どうしたの?(英語)"
"《英検一級はクソゲー》なんかレイナちゃんの弟子も人間やめてた。防御系の激レアスキルが大量に生えてる"
"そんなに人間卒業したやつが現れてたまるか! いい加減にしろ!!"
"《英検一級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"
「レイナ様、スキルって忘れられるッスかね? たとえば、これ━━肉厚脂肪ガードナーとか、持ってるだけで太りそうで嫌ッス!」
"悩みだけは乙女ッ!"
"若者の人間離れ"
"これにはレイナちゃんもニッコリ"
"ミライちゃん、ちゃんとダンジョンイーターズだったんやなって"
"↑↑ダンジョンイーターズを非常識集団みたいに呼ぶのやめれww"
「どうしましょう! なんか気が付いたら、ギルドメンバーが人間やめてたんですが!?」
"おまいう!"
"おまいう!"
"おまいう!"
……あれえ?
気を取り直して閑話休題。
ミライちゃんが人間をやめてたり、心躍る新種のモンスターを見つけたり、色々なことがあったけど……、
今日のメインは、癒やし配信なのである!!(強調)
「あ、そろそろ目を開けて下さい!」
"草"
"さっきまで会話しとったやろ!"
"今見たもんは忘れろって圧やぞ!"
私は、ラクラク・ハコベールに向かって呼びかける。
「おもちくん! 何食べましょう!?」
どうして忘れていたのだろう。
本来、真っ先に聞くべき相手なのに。
(栄えあるグルメ案内人!)
私の呼びかけに答えるように、おもちくんは、すごすごとラクラク・ハコベールから出てきた。
「そう言えば、えのきのこ採れました! 毒泉であげると美味しいんですよね、一緒に食べましょう!」
「エッ……? イヤ、チョット、オナカのチョウシが……」
ぷるぷる震えるおもちくん。
"滝汗w"
"毒殺(未遂)"
"痛烈なカウンター草"
"まずはブルーマスカットから始めよ?"
一方、ミライちゃんはマイペースに「本当に美味しそうッスねえ」などとヨダレを垂らす。
(本当に試したいのは、フェニックス使ったお料理だけど……、さすがにまだ無理!)
(もっと戦力拡大を測りたいところではあるけれど、今は目の前の料理配信を成功させないと!)
その後も私は、おもちくんに珍味を聞こうと試みる。
しかしおもちくんは、ぷるぷると震えるだけで、なかなか答えてくれる様子がない。
(そんなにお腹痛いのかな……?)
結局、私はあり合わせのもので済ませることにする。
(えのきのこの毒泉揚げは、試してみたかったのでやるとして……!)
「レッツ、クッキング!」
久々の料理配信!
"レイナちゃん、鍋爆破しちゃ駄目だからね?"
"レイナちゃん、奇声あげちゃ駄目だからね?"
"レイナちゃん、おもちくんうっかり食べたら駄目だからね?"
「…………レッツ、クッキング!!!」
悪ノリしたコメント欄に、ちょっぴり出鼻をくじかれつつ。
私は、意気揚々と料理配信に取りかかるのだった。
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