第57話
【※戦いません】ダンジョン料理で幸せをお届けする癒やし配信
「……というわけで! 食材のみなさん、こんレイナ~!」
ある日のこと。
ダンジョン入口で、私はとある使命感とともに配信を開始した。
"こんレイナ~"
"こんレイナ~"
"お、今日はコラボ?"
"ミライちゃん久々!"
「はい! 今日は、助っ人としてミライちゃんに来てもらっています!」
「呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャジャーン。
お久しぶりッス! レイナ様の一番弟子、ミライッス~!」
そう、今日は久々のコラボ配信。
ミライちゃんはミライちゃんで、日々、ダンジョンに潜って修練を積んでいるという。
どれだけ強くなったのか私も楽しみだ。
"ところで枠名どったのww"
"今日もダンジョンから、元気と狂気をお届け!"
"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"
"タベナイデ!?"
「お、良くぞ気づいてくれました! 実はですね――」
私は久々に、"アレ"をやってしまったのである。
配信者にとっての禁忌――すなわち、エゴサーチ!
「いやあ、最近、私に対する根も葉もない噂が流れてるみたいでしてね。
巷では、やれ鮮血天使だの、やれ捕食者だの。
果てには、食物連鎖の頂点に立ちしもの、だなんて――失礼しちゃいますよね!」
"切り抜き動画見てw"
"鮮血の捕食者やぞ"
"今さら癒し系は無理がある"
"清楚という概念からもっとも遠い女"
「……あれえ?」
日々、黒歴史は拡大中。
開き直って、最近は、モンスターを撲殺する場面も配信に載せてしまっているからだ。
だけども誰が何と言おうと、私の本職は癒やしとダンジョン料理。
今日は、食材の皆さんに見事に癒しをお届けして、不名誉な二つ名を忘れさせるのだ!
「グリーディープレデターって二つ名、格好良いッス!
あたいも早く、二つ名が欲しいッス!」
一方、ミライちゃんは目をキラキラさせていた。
(そのピュアさ、一生失わないでね!)
そんな可愛い弟子を見ながら、私は本題に入っていく。
「癒やし配信で大事なもの。
ずばり、BGMだと思うんです!」
私は今日という日のために、癒やしという概念を勉強してきたのだ。
その中で、導き出した結論が1つ。
流れている音楽というのは、馬鹿にできないものなのだ。
勇ましい曲は気持ちを震え立たせ、ヒーリングミュージックは安らかな気持ちになれる。
すなわち癒やしをお届けするためには、まずは相応しい音楽を流しておく必要があると思うのだ。
はい、ポチッとな。
「はい、あなたはだんだん癒やされる~!
あなたはだんだん癒やされる~!
…………はい、とってもお腹が空いてくるBGMですね!」
"お腹が空いてくるBGM #とは"
"今日はこういう日なのねw"
"これもおすすめだよ つ【レイナちゃんのテーマソング】"
"っぱ、これよ! つ【レイナちゃんファンクラブのテーマソング】"
「いやぁぁぁぁぁあああ!?」
(そういえば完成したからアップロードしたって、千佳が言ってた!)
(勢いに押されて許可出したけど……! なんで、なんで、そんなにバズってるの!?)
食材さんのカウンターで、撃沈する私。
レイナちゃんファンクラブのテーマソング。
その無駄に力の入った曲は、最初は配信待機ソングとしてお披露目された。
翌日にはそのフルバージョンが、動画サイトで1位を取っていた。
……それ以来、恥ずかしすぎて二度と使っていない。
「あたいも大好きっす。鮮血幼女、レイナちゃん! カラオケでは必ず歌う十八番ッスね!」
「うそっ!? カラオケにも入ってるの!?」
「もちろん音源は、持ち込みッス!
……レイナ様から許可が出れば、すぐにでも配信されるッスね!」
「出さないからね!?」
私にとっては、黒歴史詰め合わせセットとも言える1曲である。
切り忘れ当日の笑顔に、オークキングボコボコ配信。デビルアイ君消滅事件、と歌詞になっている配信が、だいたい碌でもないせいだ。
カラオケでの楽曲配信なんてもってのほか。
速やかにネットの海に沈んで欲しいところだが、現実は無情。
日々、数多のMADが作られ、黒歴史の拡大に貢献しているとかいないとか。
「えー、そっちの世界線のことは忘れて下さい。
今日の私は、癒やし配信者にして、ただのダンジョン料理愛好家。
良・い・で・す・ね!」
"圧!"
"はい、レイナ様。この配信は癒やしです!"
"はい、レイナ様。この配信は癒やしです!"
"《望月 雪乃》癒やし配信、がんばって!"
"今北、なんでこんなレイナちゃんに合わないBGM流れてるん? 罰ゲーム?"
"↑↑おい馬鹿ヤメロ"
"罰ゲーム草"
「むむむ、みんなして馬鹿にしてますね!?
見てて下さい、完璧な癒やし配信をお届けしてギャフンと言わせてあげますから!」
私は、ぷく~っと膨れっ面になり、
「というわけで、とりあえずダンジョン潜っていきますね」
そう言いながら歩き出す。
"いやそれはおかしいww"
"1回、本物の癒やし系配信見てきてもろて"
"癒やしを名乗るなら、深層に潜らないで!?"
「だってダンジョン潜らないと、料理できないですし……」
そんな訳で私は、ミライちゃんとダンジョン深層に潜るのだった。
***
深層の浅い階層は、今や私にとって、庭と言っても過言ではない。
基本的にモンスターは、私と目が合うとなぜか逃げていくので交戦に至ることは一度もなく。
私は、ダンジョンに生えている木から果物を採取し、ラクラク・ハコベールに詰め込んでいく。
(モンスターとの戦闘もなく、食材が集まってきた!)
(私、今日はちゃんと癒やしやれてるよ!)
私が、そう感動に打ち震えていると、
「レイナ様、今日は何を作るッスか?」
「えっとですね、今日は美容にもバッチリ。
深層食材でサラダを作ってみたいと思います。
ドレッシングも手作りしてみますね!」
"おお! ここだけ聞くとちょっとだけ料理配信っぽい!"
"場所が深層じゃなければ・・・"
"油断するな・・・・ レイナちゃんだぞ?"
"レイナちゃん「それではモンスターハウスに飛び込みますね!」"
「飛び込みませんが!?」
食材さんが、私のことをどう思っているか分かる一幕である。
「レイナ様~! あたいは、肉。やっぱりお肉が食べたいッス!」
「うっ、お肉ね……」
ミライちゃんが、無邪気な顔でそんなことを言ってきた。
(私も、同感……!)
(やっぱりせっかくダンジョンに来たなら、量を気にせずモンスターにかぶりつきたい!)
「う~ん…………」
"あっ(察し)"
"弟子の願い、叶えるしかないよなあ!?"
"【悲報】ミライちゃん、モンスターをお肉呼ばわり!"
"ダンジョンイーターズでは日常や"
「やっぱり、我慢は良くないですよね!」
カタカタカタカタ。
【※戦い中は目と耳を塞いで下さい】ダンジョン料理で幸せをお届けする癒やし配信
「……ヨシ!」
枠名を変え、私は美味しいモンスターを探しに向かうのだった。
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煽り系ダンジョン配信者、視聴者を煽るたびに強くなるので、無理して煽り散らかしてみるも、配信を切り忘れたままひとり反省会をしてしまいバズってしまう
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