6章
第56話
ある日のこと。
ギルドホーム、兼、千佳の研究室にて。
「食材のみなさん、こんレイナ~! 今日は、久々にレベルを測定してみたいと思います!」
私は配信を立ち上げ、そう宣言した。
レベル測定配信――それは読んで名前の通り、レベルを測定する配信のことだ。
特に強さを売りにしているダンチューバーの中では、ポピュラーな配信だったりする。
もっとも私のチャンネルは、あくまでダンジョン料理と癒やしをメインとしているのだけど……、
"待ってました!!"
"お、ついに!"
"ダンチューバー最強論争を終わらせた女"
食材さんから、やたらとレベルを測って欲しいとの熱いリクエストをもらっていたのだ。
リスナーさんからの要望には、できる限り応えていきたいところ。
それに私とて、一応はダンジョン探索者の端くれ。
やっぱり自身の強さを表す「レベル」というのは、気になりはするのだ。
「ナニスルノ?」
私の肩に乗っかったおもちくんが、興味深そうに顔を覗かせた。
"おもちくんだ~!"
"【朗報】おもちくん、生存確認"
"まだ食べられてなかった!!"
"気が付いたら食べられてそうな不安あるなww"
「おもちくんも、気になるって言ってたよね。今日は配信で、レベルを測ってみます!」
金ピカデュラハンから現れた不思議な生命体は、思いのほか食材さんからは大人気だった。
食材さんたちからの感想も美味しそうなんてものも多く、コメントを見て、おもちくんはぷるぷる震えていたっけ。
「それじゃあ、早速! 測っていきますね!」
そう言いながら私は、とある魔導具を取り出した。
測定水晶と呼ばれている、水晶のような形をした魔導具だ。
ダンジョン探索者組合によって作られ、鑑定魔法を再現した高価な代物である。
使い方はとても簡単。手をかざすだけで、あっという間に強さを数値化してくれるのだ。
探索者はその数値を元に、自身が潜れるダンジョンの階層を把握することができると言われている。
"……なにそれ?"
"いや、その測定マシン何?"
"なんかでかくて草"
私が取り出したのは、直径50センチほどはある大きな水晶玉である。
蒼く透き通っており、キラキラと淡い光を放っていた。
「あー。以前使ってたものは、なぜか触っただけで割れちゃうんですよね。
そしたら千佳が、新しいのを用意してくれたんです!」
"待って!? その話、詳しくww"
"触っただけで割れる???"
「そうなんですよ、3つぐらい続けて割れてしまって……。
不思議なこともありますよね」
触っただけで超高価なレンタル品が木っ端微塵に吹き飛んだのは、未だに軽いトラウマである。
"あ、そういえば最近借りたレンタル品に注意書き増えてたな・・・"
"↑↑あ、レベル2000超えてる探索者は使わないで下さいってやつ?"
"草、あれレイナちゃん用だったのかww"
"メーカーの注意書きを増やすことに定評のある女"
私は、驚く探索者たちを尻目に、そっと水晶に触れる。
万に一つも割らないように、慎重に、慎重に。
水晶が淡く輝き、やがて水晶に数字が映し出された。
「出ました! レベルは――3278、らしいです!」
"???"
"えぇ・・・(困惑)"
"前の雑談配信で聞いたときより、1000近く上がってない!?"
"雲の上の話すぎてピンと来ない。どれぐらいヤバイん?"
"↑↑まず攻略組のレベルが平均500ぐらい? 1000超えだって目撃例はなかったはず"
"そりゃあ、深層ボスもワンパンできるわ・・・"
ざわざわと困惑が広がるコメント欄。
(食材さんたちも、毎回、大げさだなあ)
ふと思い出したのは、アルテマ・メモリーズの長田さんの言葉だった。
――曰く、トップ探索者の人たちは、自らの情報はひた隠しにしているそうだ。
ダンジョン内では、時に、探索者同士で争うこともある。
そういった事態では、隠している手札の多さが勝敗に直結するそうだ。
(まあ、私には関係ないことだけどね)
他の探索者と戦うようなことになったら、私ならさっさと逃げ出すし。
"ど、どうやればそんなにレベルが上がるんですか……?"
おずおずと寄せられたのは、そんな質問。
「えっとレベルの上げ方ですか?」
"レイナちゃんに攻略情報求めるとか食材初心者か?"
"初見は帰れなのだ"
"レイナちゃん「深層のモンスターハウスがおすすめです!」"
"レイナちゃん「最近のマイブームは、デュラハン周回です!」"
"レイナちゃんは見て楽しむコンテンツだぞ"
「食材さん~!?」
ぷく~っと頬を膨らませる私。
ふと思い出されるのは、雑談配信中に寄せられるダンジョンについての質問たちだ。
私が真剣に答えても、独特すぎて何も参考にならないとのリアクションが多数。
やがては質問すら来なくなった悲しい思い出が蘇り……、
「ではですね! 最近、気が付いたとっておきの法則を発表します!」
私は胸を張り、
「実は強いモンスターを食べると、レベルが上がるみたいなんです!」
ジャーン、とドヤ顔で発表する。
"それ、ガセだぞ"
"悪徳商品売りつける詐欺師がよく言うやつ"
"↑↑下層のオークキングの粉末パウダーとか売られてたよな、許せねえ!!"
"いっぱい食べるレイナちゃん、可愛い!"
(あれえ……?)
懐疑的なコメントが多い。
ちゃんと、確かめた事実なのに!
「むむむ、信じてませんね? じゃあ、今から実演します!」
私はラクラク・ハコベールから、いくつかの食材を取り出す。
取り出したのは、生で舐めても美味しいマナ溜まりたちだ。
見た目通り、ほんのり甘くて美味しい。口の中でとろけていくような食感もグッド。
マナ酔いの耐性さえ身についてしまえば、おやつに最適だったのだ。
「これ、深層で取れるんですが、おやつにおすすめです! 見た通り、綿あめみたいに美味しくて――」
ぺろぺろ食べながら、そんな説明をする私に、
"おやつ感覚で、やべえもの食べないでwww"
"【朗報】レイナちゃん、さらっとマナ酔いを克服している模様"
"レイナちゃんが幸せそうで何よりです"
"ラクラク・ハコベールめっちゃ活用されてるwww"
(ダンジョン食材を気楽に持ち帰れるようになって嬉しい)
(本当に、ラクラク・ハコベール様々だよね!)
「えっと、枠名を――レベルが上がるまで食べ放題! に変えて――」
「レイナ、大丈夫? あんまり食べたら……、太るで?」
「だ、大丈夫! マナ溜まりはゼロカロリー食品だから!」
ひょこっと千佳が顔を覗かせ、おっそろしいことをボソッと呟く。
"食べ放題www"
"暴走レイナちゃん!"
"この子の胃袋、ブラックホール説"
そんなことを話していると、
「あっ、ちょうど上がりましたね! はい、レベル3279、です!」
"ま?"
"えぇ・・・(困惑)"
"うっそだろwww"
"ふぁっ!? これ、ガチなトップシークレットでは?"
ざわざわと、どよめきが広がっていくコメント欄。
……あ、言い忘れていたことがあった。
「あ、料理を食べてレベルを上げるのには、スキル【グルメブースター】が必要です。
たぶんダンジョンでモンスターを食べると開花するスキルだと思いますが……、条件はよく分かりません!」
ちなみにミライちゃんも、最近、開花した。
"前提難易度高すぎぃ!"
"レベルを上げるためのモンスターを食べるための毒耐性を得るためのブルーマスカット"
"諦めてフロアボス周回してきます・・・"
"諦めてモンスターハウス探してきます・・・"
"早まるなwww"
「レベル……、3000!?」
「あ、おもちくん! 一緒に、マナ溜まり食べる?」
「オ、オイシソウダネー。キョ、今日ハ、コレデ!」
私の誘いに、ぶるぶる震えながらラクラク・ハコベールの中に逃げ込んでいくおもちくん。
可愛い、そして美味しそう。
(う~ん。最初に会ったときを思えば、おもちくんも食べるのは好きだと思うんだけど……)
(なかなか一緒に食べてくれないんだよね――)
私は、こてりと首を傾げる。
「――それでは、次の食卓で、またお会いしましょう!」
目的どおり、レベル測定を終え。
今日の配信は、お開きになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます