第59話

(癒し系配信者の本分)

(それ、すなわち料理配信……!)


 ちょっぴり癒し系にあるまじき狩りの場面を見せてしまった気もするが……、ここからを上手くやれば何も問題は無いはずだ。

 私は気合いとともに、さっそく調理を開始する。


 私はおもちくんをヒョイとつまみ、そっとテーブル(ハコベールに入っていた簡易式のもの)の上に乗せた。

 栄えあるグルメ担当として、調理シーンがよく見えるように特等席である。

 しかし、おもちくんは喜ぶどころか、


「ヒ、ヒィィィィ!」


 ぷるんぷるんと震えていた!


「お、おもちくん? どうしたの?」


"そらそうよw"

"おもちくんは可愛いなぁ"

"あまりにも美味しそうなのが悪い"

"レイナちゃん「いただきます!」"


「食べませんって!」


 一度、おもちくんとは、じっくりじっくり話し合う必要がありそうだ。



 そんなことを考えながら、私は今日のメインディッシュに取り掛かる。

 その名も、ずばりえのきのこの毒泉揚げ!


「ジャーン! ここで使うのがエリクシアさんの新製品、深層でも多分壊れないフライパンです!」


 私が取り出したフライパンは、エリクシアの社長から是非是非使って欲しいと頼まれた代物だ。


"たぶん壊れないwww"

"自信のなさが垣間見えますねえ・・・"

"絶対壊れない圧力鍋、いっぱい爆破してきたから…"



 私はえのきのこを、ささっと毒泉で下処理していく。

 しばらく毒泉に漬けてから揚げると、味がギュッと濃縮されて美味しいんだよ━━とは、おもちくん談。



(う〜ん、美味しそうな匂い!)


 私は、良い感じに仕上がったところで取り出し、


「ハイ! そんなわけで、えのきのこの毒泉揚げです!!」


 完成品のどアップをスマホで映し、私はそう宣言。


"あ、あれ? 普通だ……"

"美味しそう、だと!?"

"↑↑騙されるな、猛毒やぞ!"

"ドヤ顔レイナちゃん可愛すぎる"

"《望月 雪乃》なるほど、レイナちゃんの好物は揚げ物っと・・・…φ(..)メモメモ"



 そんな私のもとに、ミライちゃんがひょこひょこと歩いてくる。

 ホカホカと湯気を立てる、えのきのこ揚げを見ながら、


「美味しそうッス! ここはあたいが、ちゃんと味見するッスよ〜!」

「ミライちゃん、毒耐性はちゃんと取った?」

「もちろんッス!」


 自信満々のミライ。


(なんかポコポコとレアスキルが開花してたし、これぐらいならたぶん大丈夫だよね)


「なら……、ヨシ!」

「えへへ、ようやく味見係の役目を果たせるッスね!」


 ……ちなみに非常に残念なことに、味見係とは料理担当NGの烙印である。

 いくつかの食材を木っ端微塵にした後、剛腕さんに「もう良いから、おまえは味見でもしててくれ!」と懇願されたとか。


 そんな栄えある味見係役のミライちゃんは、ヒョイっと毒泉揚げを口に運ぶと、


「これは……、死ぬほど美味しいッス〜〜!」


 うっとりと、そう声を漏らした。


(やった! これで、ついに私も立派な料理配信者!)

(……んん? なんか、ミライちゃんが幸せそうな笑みを浮かべたまま、安らかに目を閉じていく……!?)


"死ぬほど(物理)"

"毒消し毒消し〜〜!!"

"ミライちゃん、魂抜けるほど美味しかったのか…(棒)"

"【悲報】鮮血天使、弟子を毒殺する"


「あ〜〜!?!? ミライちゃん〜〜!?!?」


 私は、慌ててミライちゃんにエリクサーを飲ませる。


「ハッ、おじいちゃんとおばあちゃんが、川の向こうであたいを呼んでたッス」

「それ渡ったら駄目なやつ〜!?」


 どうやら相当に危なかった様子。

 慌てる私をよそに、ミライちゃんはこてりと首を傾げると、


「美味しかったッス!! おかわりッス!」


 とんでもない事を言い出した!


「昇天するから却下!」

「ちょっとだけッス。ちょっとだけッスから……!」


(気持ちは分かるけどね!)


 私は、ミライちゃんの毒耐性スキルを一緒に育てることを決意。

 今日のところは、別の料理で我慢してもらう事になるのであった。



「……あ、そうだ。おもちくんも食べる?」

「ケ、ケッコウデス……」


 ふるふる、と首を横に振るおもちくん。

 美味しくできたと思うんだけどなあ……。


「お腹痛いの? 胃薬飲む?」


(ぷるぷるぷるぷる!)


 滝のような汗をかきながら、必死に首を横に振るおもちくん!

 美味しそう━━じゃなくて、可愛い!


"おもちくんの苦難はまだまだ続く"

"毒物カウンター!"

"とりあえずその胃薬はマネちゃんに渡してあげてw"



 その後も、私はいくつかダンジョン料理を作っていく。


「次は混ぜご飯を作って行きます!」


 醤油をベースに、中層あたりで取れた山菜を添えて。

 ちなみに隠し味として、細かく磨り潰したデュラハンも混ぜこんである。

 キノコの揚げ物とは、よく合うと思う!



"あ、あのレイナちゃんが、ちゃんと料理配信をやってる……!?"

"明日は雪だ!?"

"スタンピードが起きるかも……"


「食材さん!?」


 ぷくーっと脹れ面になる私。

 ある意味、平常運転であった。



「ダンジョンで美味しいものが食べられるって素敵ッス!」


 ミライちゃんが、しみじみとそんなことを言い出す。

 ちなみに、ちゃっかり味見は継続中である。


"たしかになあ"

"ダンジョン料理が一般的になるまでは、まっずい乾パン齧ってたっけ…"

"毒食べたら普通は終わりや。今でもだいたいのギルドは変わってないよ"

"いやいや、現地調達はサバイバルの基本よ"


 私の配信は、ダンジョン探索者が見ていることが多い。

 食材さんたちは、思い思いにダンジョンでの食料事情を書き込んでいく。


(もし、毒耐性がなかったら……)

(いや、何か食べたら即死する可能性がある環境だったら━━ダンジョンって、地獄かも……)


 これだけ美味しいダンジョン食材に囲まれて。

 それなのに食べられないなんて、ダンジョン探索の十割は損してると思う。



「……あ、そうだ! もしかしてダンジョンでレストランを開けば!」


"草"

"そこに気がつくとは天才か?"

"《望月雪乃》レイナちゃん印のレストラン?"

"《望月雪乃》……行きます行きます行きます行きます!"

"ゆきのんwww"


 でも、やっぱり一番は、新鮮な素材をその場で美味しくいただくことで……、


「うん! ついでに毒耐性トレーニング道場を併設して━━」


"えぇ……(困惑)"

"( ˙꒳˙ )スンッ"

"レイナちゃんは可愛いなぁ"

"《鈴木 千佳》ふむふむ……"

"【朗報】マネちゃん、新しいおもちゃを見つける"



 そんな雑談をしながら、順調に料理配信は進んでいき、


「ついに完成です!」


 デーンと真ん中に鎮座するのは、ダンジョンの魅力をこれでもかというほど詰め込んだ混ぜご飯。

 サイドを彩るのは、深層で採れたお野菜さんたちのサラダと、食べる直前に揚げた方が良かったのではと気が付き作り直した、えのきのこの毒泉揚げ(最初に作ったものは、私が全部味見した!)

 〆は、もちろんブルーマスカット。



"美味しそう!"

"まさかレイナちゃん配信が、ちゃんとした料理配信になるなんて!?"

"足りないレイナちゃん成分はこちらで……→ URL 【レイナちゃんスマイル】オークキングのお肉を物理的に柔らかくするレイナちゃん!"

"《不死殺し》ふむ……。良い腕だ、60点はやれる"

"少しだけ辛口!"


「いっただっきま〜す!」


 私とミライちゃんは、パクパクと料理を口に運び、


「「ほっぺが落ちそうなぐらい美味しいです!(ッス!)」」


"食レポは駄目みたいですねえ……"

"そんなところまで似ないで良いのにw"

"美味しいことだけは伝わってくる良い食レポでした…(白目)"


 コメント欄のそんな反応を見ながら。

 今日のリスナーがとっても癒される配信は、お開きとなった。



 ━━なお、おもちくんは一口も食べてくれなかった。

 今度は胃薬、持ってこよう。

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