第12話

「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」


"キター!"

"こんレイナー!"

"こんレイナ~!"

"今日も喰われてしまうのか……"


 配信を立ち上げると、一斉にコメントが流れてきた。

 ちなみに「食材」というのは、私のリスナーのファンネーム――視聴者さんの呼び名――のことだ。



 ファンネームは、実に軽いノリで決まっていった。

 配信で私が「ファンネームって何が良い?」と聞いたら、ノリの良いリスナーさんが一斉に「食材?」「食材やな」「食材!」なんて答えたのである。

 ちなみに他候補は「豚」「おじゃま虫」「ゴミムシ」と碌な物がなかった。候補の中では食材一択。とりあえず「食材さん」と呼んでいたところ、すっかり定着してしまったのだ。


(怒られない? 大丈夫……?)


 新人ダンチューバー、彩音レイナ。視聴者を食材呼ばわりしてしまう――とか晒されてたらどうしよう。

 そんな不安を持ちつつつぶやいたーを見ると、プロフィール欄で誇らしげに「食材」と名乗っているアカウントを多数見つけてしまい……、


(まあ、視聴者さんが喜んでるならそれで良いか!)


 私は、そこで思考停止。

 それから視聴者さんのことは「食材さん」と呼んでいる(豚より遥かにマシなのである)



 閑話休題。

 私は、雑談として、今日の出来事を軽く話していく。


「――って、ことがありまして。パンフレットが作られそうになってたので、世界平和のためにも粉々にしておきました!」


 "あぁぁぁぁぁ、なんて勿体ないぃぃぃぃぃ!"

 "その先生とは良い酒が飲めそうだ……"

 "( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

 "ガタッ そのパンフレットはどこで買えますか!?"

 "グッズ化されますか!?"


「されません!」


 ノリの良さを、そんなところで発揮しないで欲しい。



 それから私は、つぶやいたーに届いていた視聴者さんからの質問をいくつかピックアップする。

 他愛のない雑談と質問への返答で、私の雑談配信は成り立っているのだ。




『えーっと……、ダンジョン探索のコツを教えて下さい!』


「気合い! 自分が得意なことを信じると上手くいくと思う!」


"思いっきり精神論で草"

"でもパッションはたしかに大事!"

"もっと具体的なアドバイスが欲しいです!"

"お、レイナちゃんに真面目なアドバイスを求めるとか初見か?"


「むむ、みなさん馬鹿にしてますね――」


 せっかく来てくれた視聴者さんのため。

 取っておきのお役立ち情報を、ここで発表してみせる!


「では取っておきの雑学を1つ。衝撃波を飛ばすときはですね、ひと振りで同時に飛ばした方がエネルギー効率が良いんです!」


 最近見つけた渾身のテクニックだ。

 ドヤッとした笑みを浮かる私だったが、


"一般人には衝撃波飛ばせない定期"

"まず衝撃波の飛ばし方を講座してw"

"そこは気合いで乗り越えてもろて……"

"ドヤ顔レイナちゃんは可愛いなあ(現実逃避)"


 コメントで総スカンを喰らう。


 あれぇ――?

 とっておきだったんだけどなあ……。




『次の質問は――チームは組まないんですか?』


「組みません!」


"即答!"

"なんで? 組みたい人いっぱい居ると思う!"


「実習では、いつもテンポが合わなくて怒られてばっかりで……。ソロの方が気楽で良いなって」


"そりゃレイナちゃんに付いて行ける人いないか"

"極めればソロが最強だぞ"

"極める前に普通に死ぬゾ"


「あと、全部倒しちゃったら練習にならないって」


 あの時だけは、軍曹、ちょっぴり申し訳無さそうだったっけ。


"強すぎて怒られてるの草"

"だいたいアカデミーが悪い"

"まあ、しゃあない。底上げが学校の役割やしなあ"




『使ってる配信機材を教えて下さい!』


 これは話して大丈夫かな?

 千佳、将来的にはダンジョン工具の専門店に就職したいって言ってたし。


「えっとですね、機材はオーダーメイドです。リアルの知り合いが開発したものでして――」


"あれオーダーメイドなんだ!?"

"レイナちゃんにピッタリ追随するの凄いよな"

"フレームレートおかしいのよ"

"まず、あの戦いに巻き込まれて壊れないのがヤバイ"


 千佳の機材を褒め称える声が、コメント欄を流れていく。


「前、目覚まし切ろうとしただけで壊れましたけどね……」


"スマホ(解せぬ)"

"そういえば切り忘れたときも殴って黙らせてたしなw"

"レイナちゃん、そろそろスマホの使い方は覚えてもろて"

"そのスマホ何代目なんだ・・・"


 むむむ……、風向きが怪しい。

 まあ私が機械音痴なのは周知の事実なので、否定のしようもないのだけど。



「ちなみに製作者は、私のマネージャーでもあります!」


"さらっと明かされる驚愕の真実!"

"レイナちゃんの周り天才しかいないの!?"

"これは勧誘が捗るな――"


「配信機材ならこれがイチオシです! 概要欄にリンク貼っておきますね~。では、次の質問――」


 私は、ペタッと千佳のホームページを貼っておく。



 ――同接、数万人規模のダンチューバーが、イチオシ商品として推すこと。

 その意味は、レイナが想像していたより遥かに大きい。

 閑古鳥が鳴いていた千佳のサイトには、あっという間に、問い合わせが殺到する事態となった。千佳が立ち上げることになる機材ブランドは、やがては業界でも確固たる地位を築く巨大ブランドに成長していくことになるのだが――それはまた別の話。




『ゆきのんとコラボはしないんですか?』


 最後の質問は、あまりにも個数が多かったので取り上げることにしたものだ。


「私なんかが、おこがましいですって」


"数字はもうレイナちゃんの方が上なんだよな……"

"この子は絶対いつかやらかすと思ってたw"

"古参ニキだ~!"


 ベテランでありダンチューバー黎明期に伸ばしたゆきのんと、たまたまバズってヒットした私とでは、その数字の価値は全然違うと思う。



「食材のみなさんなら大丈夫だと思いますが、ゆきのんに変なコメントしないで――」


"《望月雪乃》レイナちゃん、コラボしたいです!!"

"普通に見てて草"

"もはやガチファンなのよw"


 まさかのタイミングでの登場に、コメント欄も盛り上がる。


"《望月雪乃》まだ助けてもらったお礼もできてなくて――"

「い、いえ。お礼なら、十分以上にいただきましたよ」


 たまたまゆきのんがあの場に居合わせなければ、私は今も同接一桁で沈んでいただろう。



"《望月雪乃》レイナちゃんなら、キッカケさえあればいつでもブレイクしてたよ"

"実際、アーカイブも中身はバケモノなのよな"

"逆タイトルサムネ詐欺さえなければ……"

"レジェンド視聴者ニキが羨ましいんじゃ~"


 レジェンド視聴者ニキ――それは、私がバズる前に配信を見ていた選ばれし視聴者である。

 こんなバズり方をして、きっと私以上に驚いていると思う。



"《望月雪乃》配信、いつも楽しみにしてます!"

"ゆきのんは良い子だなあ――"

"こんな暴走天使ちゃんを、これからもよろしくおねがいします……"


「私も! 昨日のクイズ大会も、みおちゃんとの激戦が最高で!」

"《望月雪乃》レイナちゃん、見てくれたの!?"

"こっちもファンだった~!?"

"ゆきのん、すごく嬉しそう!"


「勿論です! 邪道に走らないゆきのんチャンネルは、本当に憧れで――」

"《望月雪乃》あわわ、私もレイナちゃんのストロングスタイルが大好きです!"


"視聴者置いてけぼりで二人の世界に入るのやめてもろて……"

"てぇてぇ"

"てぇてぇ?"


 はっ、ついテンションが上がってしまった。

 今は配信中。冷静に、冷静に。



 そのまま配信を終えること五分後。

 私は、ゆきのんとつぶやいたーで相互フォローになっていた。

 そうして話は驚くほどにサクサクと進み(ゆきのんの事務所からは、コラボ一発オッケーだったと聞いた。大丈夫なんですかね!?)またたく間にコラボ配信が決まるのであった。

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