第37話

 最前線へのアタックに参加することを決めて数日後。


 私たちは、準備に邁進まいしんしていた。

 とはいえ、基本的にやることは配信。

 当日までのトレーニングと、宣伝を兼ねてといったところだ。



 そんな訳で、今日も今日とてダンジョン下層でミライとのコラボ配信。


「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」

「自称、レイナ様の一番弟子。ついにレベルが200を越えて絶好調のミライッス~!」


"こんレイナ~"

"人間卒業RTAはじまる"

"達成者もう出たぞ"


 最近は放課後、毎日のように配信していた。

 配信頻度を上げたことで、飽きられるかと思ったけれど現実は真逆。


 同接は、常に10万人前後をキープ。

 コメントの流れも、今までとは比べ物にならないほど早い。



 さらに今日は、いつもの配信ではない。

 とっておきのお知らせがあるのだ。それは――


「今日は、皆さんにお知らせがあります!」

「なんと、なんと――」

「「祝・ギルド結成(ッス)!」」


 ――パチパチパチ。

 探索者組合から、無事、ギルド結成の許可が下りたのである。



「ギルド名は、ダンジョンイーターズ――目標は世界中のダンジョンモンスターを食べ尽くすことです!」

「あたいも入ったッス! アットホームで良いギルドッスよ~!」


"ギルド結成おめでとう~!"

"ダンジョンくん「!?」"

"相変わらずモンスターを食材としか見てなくて草"

"アットホーム――うっ、頭が……"


"なになに? 何が起きてるの?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》レイナちゃん、ギルド結成。公約として世界中のダンジョンモンスターを食べ尽くすと宣言(英語)"

"そんな公約が認められる訳がないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"



 盛り上がっているコメント欄を見ながら、私はギルドの方針を説明していく。


「活動方針は、美味しいものをみんなで食べたいっていう――ほとんどは私の趣味ですね。

 人数もあまり集めるつもりもなくて、身内で細々とやっていければと考えています」


 メンバーを大々的に募集するつもりはない。

 そもそも私だってソロで潜る方が得意だし、いきなり人数が増えても千佳の負担が増えるだけだ。



「そんな私たちですが、イーグルスさんのアタックに参加予定です。どうか、カニ鍋――じゃなかった……、ギルドの挑戦をサポートするため。まだまだアタックのメンバーも募集中なので、ドシドシご応募下さい!」


"✕イーグルスさんの ○レイナちゃんの"

"ん? カニ鍋?"

"最前線のモンスター、カニだって噂が……"

"やっぱり捕食者じゃないか!(歓喜)"



 コメントとやり取りしながらも、私たちは探索を続けていく。

 探していたのは、モンスターハウスの罠だ。


「罠探知スキルが欲しいですね……」


"たぶん目的が逆w"

"踏み抜くために探知するのか・・・(困惑)"

"狩り場やぞ"


(あった!)


 私は、ドクロマークの描かれたスイッチを見つけだす。

 駆け寄り、そのままポチッと踏み抜いた。


 けたたましいアラートが鳴り響く。

 いつものように、すぐさまモンスターの群れが――


 沸かない。

 一匹たりとも、モンスターが現れないのである。


「あれ? 故障かな?」

「おばあちゃんが、だいたいの機械は叩けば直るって言ってたッス……」

「なるほど? えい、おりゃ、動けっ!」


 何度か、モンスターハウスの罠を叩いてみる。


(正常に稼働してるように見えるんだけどなあ――)


 アラート、ちゃんと鳴ってるし。



 ふと1体のモンスターが体を覗かせた。

 私たちの姿を見るなり、くるりと背を向け回れ右するモンスター。

 あろうことか、全速力で、逃走を始めたのである!


「「なんで!?」」


"モンスターたち、この音聞いたら逃げるように調教されてそうw"

"そりゃ連日、狩り続ければなw"

"モンスターって、知能あったんやな・・・"

"これが罠の攻略法かあ(思考停止)"


 そんな普段どおりの? 配信風景。



 一方、海外リスナーたちの様子は……、


"ん……、待って? 公約、世界中のモンスターて言った?(英語)"

"英検ニキの言葉を信じるなら……(英語)"

"レイナちゃん、海外進出するつもりなのかな?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》そこまでは分からん・・・(´;ω;`)(英語)"

"流れぶった切るみたいで申し訳ないけど、確認してくれると嬉しい(英語)"

"《英検1級はクソゲー》でもきみら、ワイの言葉信じてくれへんやん・・・(´;ω;`)(英語)"

"悪ノリごめんって(英語)"


"我が国は、確認されたモンスター数世界1です。どうぞ我が国に――(英語)"

"我が国は、モンスター食べ放題です。様々なグルメ家たちが日々食の研究を――(フランス語)"

"我が国は、様々な珍味モンスターを取り揃えております。どうぞ我が国に――(中国語)"

"我が国は、調理器具の開発に力を入れております。どうぞ我が国で――(韓国語)"


「ほわっ!? なんか知らない言葉がいっぱい!?」

「さすがレイナ様ッス! 国際デビューッス!」

「いったい何が!?」


 基本、この配信の視聴者さんは、日本語か英語で書き込んでいた。

 コミュニケーションがギリギリ取れるのがその2つで――英検さんには感謝である。


 こうして、様々な言語の書き込みで埋まる景色は珍しい。



「ハロー! アイム、レイナ・アヤネ! えー……、ヘルプ、英検さん!?」


"潔いw"

"秒で諦めたw"

"《英検1級はクソゲー》ワイを素直に頼ってくれるのはレイナちゃんだけや・・・(´;ω;`)"

"《英検1級はクソゲー》レイナちゃん、海外進出するつもりなの?(´;ω;`)"


「へ? なんで海外? 特にそのつもりは――」


"《英検1級はクソゲー》ちなみにアメリカは、世界1モンスターの取り揃えが良い国らしいです(´;ω;`)"


「行きます!」


"ふぁっ!?"

"即答w"

"モンスターの取り揃えって何w"

"このコメントたち、全部勧誘なのかww"

"レイナちゃん、行かないで!?"


「修学旅行の希望、アメリカで出します!」


"""ホッ……"""

"実際、レイナちゃんが日本に居続ける意味ってあまりないもんな・・・"

"世界に羽ばたくレイナちゃん"



 そんな混乱もありつつ。

 今日の配信は、お開きとなった。

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