第38話
そして、ついにその日がやってきた。
今日は複数ギルドが協力し、ダンジョン深層にアタックする日だ。
「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」
"こんレイナ~!"
"食卓(深層)"
"攻略メンバー豪華すぎるww"
"流れ作りだした本人、いつも通りでなんかワロタ"
配信場所は、深層入口の休憩スペース。
集合時間まで、まだ少し時間の余裕がある。
"¥10000:《望月雪乃》レイナちゃん、頑張って~! そして、何より、命を大事に!"
"¥10000:《望月雪乃》う~ん。見てるしかないのが、もどかしい!"
「あ、ゆきのん先輩!? スーパーチャット、ありがとうございます!」
ダンジョン探索の基礎を学ぶため。
ゆきのんには、随分とお世話になった。
「美味しいカニ鍋――じゃなかった……、未知のエリアを踏破するため。頑張ります!」
"《望月雪乃》・・・レイナちゃんはずっとそのままでいて"
"平常運転すぎるw"
"レイナちゃんにとっては、所詮はいつもの配信の延長上なので・・・"
"でも無茶はしないで欲しいな、ほんとに……"
新宿ダンジョン最前線へのアタック。
それは突発的な計画であり、十分な準備が整えられているとはお世辞にも言えない代物であった。
できる限り有力なメンバーを集めたい。
今回のアタックで起死回生を測るダンジョンイーグルスは、そう願っていたはずだ。
無様な失敗は、絶対に許されないからだ。
とはいえ現実問題、無茶なアタックだろう、というのが大半の探索者の見立てであった。
このままいけば、おそらくイーグルスは単独で挑むことになる。
そんな状況で、私が参加表明したわけだ。
その結果――、
「いや……、攻略メンバー。なんか凄いことになってるみたいですね!?」
"その立役者が何をw"
"ドリームパーティーすぎるw"
"攻略メンバー(レイナちゃん勧誘部隊)"
"そりゃあ、レイナちゃんとダンジョン潜れるまたとないチャンスだから・・・"
あの日以降、参加を希望するギルドが後を絶たず。
結局、今回のアタックは、10ギルド合同で行われることになった。
各ギルドの精鋭が数名ずつ。中心となるイーグルスからは10名ほど加わり、計30名にも及ぶ大部隊。
ちなみに私たちのギルド「ダンジョンイーターズ」からは、私・ミライ・剛腕さんたちの計4人が参加する。
訓練の成果を発揮してみせる、と剛腕さんたちは随分と気合いが入ってたっけ。
昨日も死にたくねえ! と雄叫びを上げていたし。
そうして出来上がったのが、国内でも最高峰のギルドの集まりだ。
更には数人の外国人探索者も参加しているそうで、まさしく盤石の布陣と言えるものだった。
(私たちのギルド、どう考えても場違いだと思うけど……)
そうなってくると、むしろ問題となるのは私たちのギルドである。
なにせこちとら出来たてホヤホヤの新設ギルドだ。
とはいえ、千佳が言うには私が参加を決めたからこそ、アタックへの応募が殺到したなんて話で――
(もしかして――)
(私のギルド公約が共感を生んで……!)
「やっぱり皆、世界中のモンスターを食べたいんですね!」
"""違うと思うw"""
コメント欄から総ツッコミ。
解せぬ。
そんなことを話していたら、続々と攻略メンバーが集まってきた。
「レイナ様! 今日のアタック、楽しみにしてたッス~!」
ミライが、ちょこんと私の隣を陣取った。
「おはよう、ミライちゃん。そちらの方々が……」
ミライと一緒にやってきたのは、イーグルスの面々だ。
今日のアタックに、強制的に参加させられたメンバーである。
苦労人気質なのか、随分とくたびれた顔をしている。
それでも彼らの目は、絶対に未知の階層を攻略してやろう――そんな活力が見えた。
「今日は力を貸して頂くことになって、本当になんと感謝すれば良いのか……」
「正面切って喧嘩を売った我々のギルドに助けの手を差し伸べて下さるとは――まさしく天使だ」
「大袈裟ですって。私、ただカニ鍋に釣られただけですからね」
紛うことなき本音で答える私。
しかしイーグルスの面々は、感銘を受けたように黙りこむと、
「このご恩は必ず――」
そう深々と頭を下げるのだった。
探索開始時刻が近づき、続々と、様々なギルドのメンバーが集まってきた。
それらのメンバーは……、
なぜか、みんなして私に挨拶してきた!
「はじめまして、レイナ様。拙者、アルテマメモリーズ・ギルド長の
「は、はじめまして~」
最初に話しかけてきたのは、狐面を被った少女だ。
それだけでも目を引くが、更に腰から馬鹿でかい刀を下げている。
ぺこりと頭を下げる私。
「ガッハッハ! 会える日を待ち望んでいたぞ、サイレントエンジェ――」
「そ、その名前で呼ばないでいただけると!」
「失礼。グリーディー・プレデターの方がお好みでしたか」
「な、なんですかその恐ろしい二つ名は!?」
続いてガッハッハと、豪快に笑いながら私のもとに足を運ぶ探索者。
ただしイケメンは通さない、というギルドの副ギルド長らしい。
(なに? そのギルド名!?)
混乱を押し隠し、私はぺこりと頭を下げておく。
"ファッ!? 有名人のオンパレードやん!"
"レイナちゃん、めちゃくちゃ嫌そうw"
"ならお前も、人前で二つ名で呼ばれてみ?"
"↑↑そこ乗り切ってこそ一流探索者やぞ"
コメント欄が、随分と盛り上っている。
どうやら、随分と有名な探索者たちらしい。
そんな中、深層の休憩スペースに、1人の少女が入ってきた。
金髪のロングヘアを結わえた幼い少女だ。
恐らくは外国人だと思う。
(こ、こんなところで迷子かな?)
(外国人っぽいけど――)
少女は、キョロキョロと何かを探すように部屋の中を見渡していた。
やがて私の姿を見つけると、軽やかに駆け寄ってきて、
「ん」
「……へ?」
「サイン。欲しい!」
「へ? えーっと……!?」
突き出されるマーカーとサイン色紙。
「えーっと、これに書けば良いの?」
こくりと頷く少女。
(ふっふっふ)
(なんかよく分からないけど、ついに日々の練習の成果が――!)
"よく分からないけど、女の子逃げて!"
"レイナちゃんのサインが来るぞ、気をつけろ!"
"有効活用すればモンスターにも効くかも……"
「みなさん、私のサインを何だと思ってるんですかね!?」
私は、不適な笑みとともに筆を走らせる。
少女は、サインを受け取りしげしげと眺めると、
「ありがとうございます! 呪術の触媒にします!」
そんなことをにこやかに言ってのけ、とてとてと走り去っていたった。
残されるは、フリーズする私。
"草"
"なんだろあの子"
"迷子……?"
"ノー。ああ見えてアメリカのトップ5には入る実力派(英語)"
"《英検1級はクソゲー》あの子、ああ見えてアメリカのランカーらしい"
"あんな小さな女の子が探索者なわけないだろ、いい加減にしろ!"
"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"
あんな年で有名な探索者だとは。
すごいなあ。
"てか同接数やばない!?"
"もう50万人突破してて草"
………………へ?
いち、じゅう、ひゃく――ほんとだ50万!?
「あわわわ、本日もお日柄もよく――」
"レイナちゃんもいい加減慣れてw"
"ダンジョン少しでも興味あるなら、そりゃ見ないって選択肢ないと思うし・・・"
"深層攻略配信ってだけでもレアだしなあ"
"誰かイーグルス佐々木の配信も見てあげてw"
そんなことを話していると、ついに探索予定時刻となる。
「いよいよッスね!」
「うん。カニ鍋――じゃなくて、ダンジョン探索の歴史に新たなるページを刻むため!」
「特訓の成果を見せるッス!」
「「(なんで俺たちはここに居るんだ……?)」」
私たち4人は、そんなことを話しながら集合場所に向かう。
すでに深層・第7地区に向かうポータルの前には、人が集まっているようだ。
「ふむ。全員揃ったようだな――本日のアタックに参加する勇気ある探索者に敬意を」
集まった探索者たち。
その前で、ダンジョンイーグルスの佐々木が何やら演説を始めようとしていた。
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