第51話

 そうして私は、ラクラク・ハコベールから、今日の闇鍋で使う食材を取り出す。


 ゴールデンターキーの卵。

 なんちゃってツミレ。

 美味しそうなフグに、目がばってんになってるパンドラボックス。

 果てにはドラゴンゾンビや、ヘドロスライム、さっき狩った巨大クラゲと続く。


 こうして並んだ食材を改めて見てみると……、


「う〜ん、カオス!」


"草"

"途中まではワンチャン美味しそうだったのにw"

"信じられるか? このモンスターの山、全部この子が狩ったんやで……"



「剛腕さん、お願いします!」

「おおう……」


 ちなみにこの場には、大量の調理器具が並べられている。

 製造社は、もちろん安心安全のエリクシアさん。

 コンセプトは、ラクラク・ハコベールの導入により可能になった次世代のグルメ探索である。



 剛腕さんはしばらく頭を抱えていたが、


「ええい、ままよ……! 俺はダンジョンイーターズの栄えある料理担当、剛腕の不死殺しだ!!」


 そう威勢の良い咆哮とともに、ドラゴンゾンビの解体に向かっていった。



"それで良いのかw?"

"ダンジョンイーターズの中では名誉職やぞ"

"そろそろ調理系のスキル生えてきそう"

"↑↑もう生えてるらしいゾ"

"《望月 雪乃》私もレイナちゃんに、手料理振る舞いたい・・・"


「待ってます!!」


 そんなやり取りをしながら、剛腕さんを待ち……、


「ほれ、出来たぞ」

「待ってました〜〜!!」


 私は、ついにお鍋と対面するのであった。



"うっはwww"

"さすがの剛腕ニキを以てしても、あの具材は無理か……"

"なんか浮いてるwww"

"あの骨なんだ……(白目)"

"うーん、まあこれも闇鍋の醍醐味!"

"注)猛毒なのでレイナちゃんしか食べられません"


「剛腕さん!? ドラゴンゾンビの顔、なんでそのままぶち込んだんですか!?」


 鍋を覗き込んだ私を真っ先に出迎えたのは、ドラゴンゾンビのギョロリという感じの目玉である。

 目と目が合った。まるで嬉しくない。


「いや、その方が映えるかなと……」


"草"

"配信者としては満点"


「な、なるほどたしかに……!」

「それにな。そのドラゴンゾンビ! 下処理をちゃんとすれば意外と美味しい。騙されたと思って、一度食べて見てほしい━━エリクシア様、いつもありがとうございます」


(本当かなぁ……)


 とはいえデュラハン齧ったときより、はるかに美味しそうなのも事実。



「いただきます!!」


"躊躇わずにいった〜〜!?"

"普通に幸せそう"

"探索者にとってはこれぐらい朝飯前よ"

"食レポ、食レポ!!"



 私は、スープを口に運び、


「ドラゴンゾンビって美味しいんですね!!」


 そう目を輝かせる。


 不思議な食感だった。

 以前食べた時のような刺激的な腐臭は、すっかり鳴りを潜めている。

 投入された引き締まった身の部分は、思いのほかコッテリしたスープと合っていて美味しい。

 ぷりぷりとした独特の食感が、とても特徴的で……、


「なかなか無い感じの味です!」


"ざっくりw"

"だいたいのダンジョン料理に当てはまるぞw"

"普通に美味しそうなの、剛腕ニキの腕がえぐい"



 続いて口に運んだのは、ついさっき戦ったばかりのクラゲさん。

 生で食べて良し、お鍋に入れて良し。

 野菜であえても良し。

 新種の万能食材かもしれない。


「う〜ん、これも最高です!」


 なにより食感が良い。

 思いっきり殴ってもピクリともしなかったクラゲの頭部であるが、食感はふんわりコリコリとでも言うような不思議な食感。

 たっぷり出汁が染みていて、とても美味しい。


"あれ、この闇鍋普通に美味しそうだぞ!?"

"これにはレイナちゃんもニッコリ"

"やっぱり調理人の存在は大きいのよ"

"↑↑たしかにレイナちゃんだったら、何も考えずに全部鍋にぶち込みそう!"



 最後に食べることにしたのは、フグのお刺身だ。


「こ、これが伝説の……フグ刺し! 見てください、超高級料理ですよ、高級料理!」

「あ、あたいも味見したいっス!」

「レイナちゃん以外が食べると昇天するから却下!」


 ポン酢につけて、ぷりぷりの身を口に運ぶ。

 幸せな味が口の中に広がった。


"シャレならんw"

"【悲報】味見担当のミライちゃん、出番なし"

"ミライちゃんのレベルでも無理なん?"

"深層の毒ふぐ舐めたらあかん。普通なら全身秒で溶けて即死する"

"えぐ過ぎて草枯れたわ"


「剛腕さん、これ最高です! ほっぺたが落ちそうなぐらい美味しいです!!」

「お、おう……」

「ミライちゃんも毒耐性カンストしたら、また食べに来よう!」

「はいっス!」




 ひと通り食レポを終え、剛腕さんは鍋(※毒なしバージョン)を取り出し、3人で鍋をつつきながら、ゆったりと談笑する。

 そうして口にしたのは、ちょっとした思いつき。


「あ、そうだ! 最後にデザートを……! もう一度だけアンカを……!」


 思ったより簡単に食材が集まってしまったから、まだ時間が余っているのだ。

 私は、ほぼ勢いでそんな提案をして……、



「えいっ!」


"デュラハンたそ"

"デュラハン"

"綿あめ!(マナ溜まり)"

"深層第一地区のフロアボス"

"《彩音レイナ》はい!"

"デュラハン"

"デュラハンくん"

"ブルーマスカット!"

"マネちゃん!"

"っぱ〆はデュラハンよ"


 デザートとして選ばれてしまったのはデュラハン。


「いや、なんでですか!?」


(食材さん団結力ありすぎ〜!?)


 実にコメントの9割近くがデュラハンと書き込んでいた。


"そらそうよ"

"デザートにはちょいヘビーすぎるw"

"【朗報】デュラハンくん、デザートになる"



 そんなこんなで、サクサクッと第一地区まで移動。

 転移ポータルを使えば一瞬なのである。


 バキッ! ボコっ!

 まとうのは、デスクラブのオーラ。

 数発でデュラハンにトドメを刺し、私は、どうやれば美味しく食べられるかという難題を前に頭を抱える。


"なんか倒し方進化してて草"

"デスクラブくん、斬撃属性やからね"

"打撃以外は耐性ポンコツなんか。デュラハンくん、上方修正はよ"

"ダンジョンくん「その前にレイナちゃんナーフして!」"


 私は、じーっと剛腕さんを見る。


「剛腕さんなら、何か良い調理方法を……!」

「ぇぇっと━━気合い?」


 そっと目を逸らす剛腕さん。


「デスヨネ!」


 とはいえせっかくの食材さんからのリクエストだ。


(ん……? 待って?)

(たしか、エリクシアさんの新型圧力鍋なら!)


 そこでふと私は思いついてしまう。

 新たに出た調理器具は、どんな頑丈なモンスターでも柔らかくする━━みたいな触れ込みだった気がする。



「リベンジです。信じてます、エリクシアさん!」


"ファッ!?"

"おいバカやめろ!"

"草"


 私は、デュラハンの片腕を圧力鍋に設置。

 スイッチを入れ、


(ワクワク、ワクワク)


 

 ピーピー! ガーガー!


(…………あれぇ?)


 そこはかとなく感じる既視感。

 あえなく爆発する圧力鍋。



「なんで!?」


"だから料理以外には使えないって書いてあったでしょw"


「料理してるじゃないですか!?」


"草"

"なんかデジャブ!"

"《鈴木 千佳》デュラハンを調理できるお鍋……、ふむ………………"

"いやいやw"

"マネちゃんはマネちゃんで、真面目に考えないでw"



 そんなちょっぴり苦い失敗を経て。

 今日の配信はお開きとなった。

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