第53話

【レアデュラハン湧くまで帰れま10】


 雑談配信の翌日。

 私は、とある企画枠を用意していた。



「今日も食卓から癒しをお届け!

 食材のみなさん、こんにちは〜!」


 私は、スマホに向かって元気に呼びかける。


"癒し #とは"

"一段とぶっ飛んだ企画始まって草"

"素材集め配信とは珍しい!"


 場所は、深層第一地区。

 これからフロアボス━━つまりはデュラハンを、周回する予定だ。


 ちなみにフロアボスは、ボス部屋の中に誰も居なくなると自然に復活する。

 フロアボス周回は、モンスターハウスほどではないが、トレーニングにも向いていると思う。

 私も安全マージンが足りなかったときは、随分とお世話になったものだ。


 フロアボスの周回は、もちろんトレーニング効率がメリットとして大きい。

 けれども、それ以上に大きいのは――


(なにより美味しいしね、フロアボス!)

(そうだ、今度ダンジョンイーターズの皆も誘って、カニの食べ放題に……!)


 そう、ダンジョンでは、普段は食べられない高級食品を、これでもかというほど食べられるのである!



"てか深層ボス周回ま?"

"安全マージン考えるとボス回るなら一つ階層落とすよな、普通……"

"フロアボス、基本アホほど強いからな。一回、ギルメン誘って試したことあるけど二度とやりたくない"

"つまりレイナちゃんの適正階層って・・・(震え声)"

 

「えーっと、今日はデュラハンの周回を配信していきたいと思います! 申し訳ないですが、今日は料理は無しで……」


"大丈夫、この配信に料理期待してる人いないと思う!"

"↑↑おいバカやめろ!"

"料理なら剛腕ニキ見てみたい"

"いっぱい食べるレイナちゃん、好き!"

"僕はポンコツ食レポ!"


「食材さん!?」


 ぷく〜っとふくれっ面になる私。

 これでもチャンネル名は、食卓配信という料理が無ければ成り立たないような名前で━━あれ、食べるだけでも成り立つような……?


 こほん。

 私は、癒し系配信者!

 最近、捕食者だの、鮮血天使だの、えらい言われ方をしているが、私はしがないダンジョン料理愛好家なのである!



「行きますっ!」


 部屋に飛び込み、私はブラッドラビットのオーラを纏う。

 ちらりと現れたボスを確認。


「う〜ん、ハズレですね!」


"ハズレwww"

"いや草"

"まさか、ほんとにレア湧きするまでやるつもりか!?"


 私は、最速でデュラハンの懐に忍び込み、


「急所は……、そこですっ!」


 キラークラブのオーラを纏い、その胴体を手刀で撃ち抜く。


 何回か倒すうちに気がついたコツ。

 鎧には弱点となる魔力結晶があり、そこを撃ち抜くと今の私でもギリギリ一撃で倒し切れるようなのだ。


 どでっ、と倒れ伏すデュラハン。

 一応、ラクラク・ハコベールに収納し、


「よし……、次!」


 私は、いったんボス部屋から出るのであった。


"( ゚д゚)ポカーン"

"えぇ……(ドン引き)"

"深層ボスをワンパンする女の子がいるらしい"

"やっぱこの子、人間辞めてるわ…"

"既出やぞ"



 加速するコメント欄をよそに、私は配信用にとある画面を開く。

 雑談と、今日のような耐久配信は相性が良いのだ。


「えーっと、ま〇ゅまろを読んでいきますね!」


"ふぁっ!?"

"戦いに集中してww"

"リスナーにも配慮できて偉い!"


"まあレイナちゃんなら本当に余裕そうなのがなんとも"

"流石は食材求めて深層徘徊してた捕食者だ。面構えが違う"

"わいが食材や!"



「えーっと、質問読み上げていきますね!」


 その後、私はデュラハンを周回しながら、つぶやいたーに届いていた質問を読み上げていく。


「おすすめの武器を教えてください! ……鍛えれば、たぶん拳が最強です! ……ハズレですね、次!」


 ボス部屋に入り、いつものデュラハン君であることを確認。

 とりあえず手刀で打ち抜き、ラクラク・ハコベールに詰め込んでおく。


"【悲報】デュラハンくん、流れ作業のように狩られていく"

"音やべえwww"

"背景ヤバすぎて内容に集中できない!!!"

"たしかに耐久配信のメインコンテンツは雑談かもしれないけど、しれないけど~!?"



「どうすればレイナちゃんみたいに強くなれますか? 最近のおすすめは、深層7地区のモンスターハウスです!

 野菜も採れるので健康にも良いと思います――またハズレ。次っ!」


"モンスターハウス使ってレベリングするのやめれw"

"まず一般人は深層に入れないのよ・・・"

"栄養バランスにも気を使えるレイナちゃん!"

"だ、誰かポンポン狩られてくデュラハン君にも突っ込んであげて~"



「これまで食べた、もっとも美味しかったダンジョン食材を教えてください! こ、これは難問ですね!?」


"手! 手、動かして!"

"大丈夫だと分かってるのにハラハラするw"

"【朗報】デュラハン君、隙を見つけて嬉々として斬りかかってくる"


「ちょっと黙っててね。今、世紀の難問について考えてるから」


 反射的に殴り飛ばしてしまう私。

 デュラハンは勢いよく吹っ飛ばされ、そのまま壁に突き刺さる。


"【悲報】デュラハン君、捕食者の怒りに触れてワンパンされる"

"処されるデュラハン君可愛そう"

"てか今の、オーラ纏ってない拳やん!"

"草、ついに耐性ぶち抜けるようになったのかw"




 私はしばしの間、じっくり考え込み、


「どれも甲乙付け難いんですが……、下層のランダムツリーから取れたゴールデン・マスカット、ですかね?

 1回しか採れたことは無いんですが、ほっぺたが落ちそうなほど美味しくて――」


"何それ!?"

"そんなもの採れるのか!"

"いやそれ、天然の薬〜!? どんな傷でも治す伝説の妙薬〜〜〜!?"

"【悲報】レイナちゃん、時価総額1億のエリクサーをその場で食べる"


 そう結論を出した私。

 なぜか阿鼻叫喚に陥るコメント欄――そんな中、壁に突き刺さったデュラハンが、悲しそうにピクピク震えていたとかいないとか。



 私は、それから2時間ほどボス部屋を周回していた。

 退屈かもしれないと心配していたが、食材さんたちの反応は上々といったところで。


 ――そしてついに、その時が訪れる!

 私がボス部屋に入ると、


「ふわっ!? なんか金ピカに輝いてます!!」


"うわっ、なんか豪勢w"

"こいつのレア個体って、何するんだろう。目撃例ないよな"

"深層フロアボスのレア個体とか、即逃げ安定なのよ"


 ついに目的の相手を見つけ、思わず笑みがこぼれてくる私。


(っといけない。ダンジョンは弱肉強食)

(油断すると、食べられちゃう!)



 私は、距離をとって、金ピカデュラハンの行動を観察する。

 奴はいつものようにボス部屋中央に悠々と立ち、こちらを警戒するように睨みつけきた。


(見たところ、今までと行動は変わらないかな?)

(とりあえず最初と同じ方法で!)



 選ぶのは、安全を重視したヒット・アンド・アウェイ戦法。


 私は、壁を蹴り、部屋の中を縦横無尽に駆け回る。

 相手がこちらを見失ったところを、背面からぶん殴るのだ。


"相変わらず音やべえw"

"なんかスマホ、ピタッと追随できるようになっとるやん!"

"冷静に映像こんなに安定するの意味分からんw"

"マネちゃんも進化してるw"



(うん、これなら問題なくいけそう!)


 そう思っていたところに、


「イタイ! もうヤメテ!」

「…………!?」


 突如として、そんな声が聞こえてきた。

 甲高い合成音声のような声。

 ――声の主は、金ピカデュラハンだ。


「しょ、食材さん!? デュラハンって……、喋るものなんですか!?」


"【朗報】レイナちゃん、モンスターとのコミュニケーションに成功する"

"【悲報】レイナちゃん、またやらかす"

"な、何だこれ!?"

"《鈴木 千佳》レイナ、油断せんといて!"



 ――あ然とする私を置いてきぼりにするように、金ピカデュラハンがさらなる追撃を仕掛けてくる。

 ぽふん、と鎧から小さな"何か"が飛び出してきたのだ。


 見た目は、もっちりと膨らんだお餅のような見た目だろうか。

 つぶらな瞳をしていて、とても可愛らしい。

 もっちりふわふわ、とても美味しそうだ。



 そんなことを考えながら、デュラハンから出てきた不思議生物をじーっと眺めていると、


「タ、タベナイデ~!?」


 おもちくん(※命名、レイナ)は、ぶるぶる震えながら、そんなことを言ってきたのであった。

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