第42話

(さすがは深層!)

(とっても美味しそ――じゃなくて強そう)


 じわじわと包囲網を狭めてくるモンスターたち。

 まるで自分たちが、喰う側であることを疑いもしない振る舞い。


 ダンジョンとは弱肉強食の世界。

 喰う覚悟があるということは、喰われる覚悟もあるということだ。



 私は改めて、深層のモンスターに向き直る。

 モンスターハウスの罠を踏んだだけあって、数が多い。


"《望月雪乃》あわわわわ"

"《望月雪乃》救援、救援を呼ぶべきでしょうか!?"

"モンスターの?"

"たしかに具材足りなそうだしな"

"慌てるゆきのん可愛い"

"《望月雪乃》だ、だって万が一ってことも・・・!"



 私はモンスターの包囲網に突っ込み、手近なモンスターに拳を浴びせる。

 ひとまず加減はなし。バウンティ・タイガーのオーラをまとい、全力でぶん殴る。


 結果、美味しそうなピーマンは

 ――壁まで吹き飛び、木端微塵になってしまった!



"《望月雪乃》・・・・・・救援、いらなそうですね"

"ふぁっ!?"

"草"

"お野菜さんたち逃げて!?"


「強すぎたかな……。これじゃあ食べられないよ――」


"レイナさんはご不満"

"うわぁぁぁぁ 地獄のベジタブル・トリオが喰われていく~~!?"

"深層の悪魔ワンパンは草"

"トラウマブレイカーすぎるw"


 盛り上がるコメント欄。

 とはいえさすがにモンスターに囲まれたまま、全てのコメントを追いかけるほどの余裕はない。


 右を見ればピーマン。

 前を見ればキノコ

 左を見ればナス。


(し、幸せ空間すぎる……!)



「あっはっはっはっは!」


"久々のマジキチスマイルキター!!!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"


 いけないいけない。

 あまりに美味しそうで、すっかりテンションが上がってしまった。


「あっ――。……こほん、美味しそうでございますわね?」


"本性隠せてないぞw"

"平常運転"

"《望月雪乃》レイナちゃんの笑顔、今日も最高でした!!"



 数度の戦いを経て、私はついに程よい力加減というものを学ぶことに成功しつつあった。

 コツとしては、オーラをまとったまま7割程度の力で弱点部位をぶん殴ることだ。

 そうすることで、あまり傷めずに具材を採取できるのである。


 巨大なお野菜モンスターたちは、倒すと手頃なサイズの瑞々しい野菜となり、手元に収まった。

 正直、持ち運ぶには厄介なサイズだったのでありがたい。



「も、もう少しだけ耐えろ!! すぐに彩音が道を切り開いてくれるはず……!」

「うぉぉぉおおおおお! 死にたくねえ!」

「へっ、深層のモンスターハウスから生還したら伝説だな――」


 最初は、そんな緊迫感に満ちた会話をしていた軍曹たちであったが、


「??????」

「あ、あの子は本当に人間なんですか!?」

「もうあいつだけで良いんじゃないかな……」


 最終的には、そんなことを哀愁とともに呟いていたとかいないとか。



 襲いかかってくるモンスターを蹴散らすこと数分。

 残っていたモンスターたちが一斉に逃亡をはじめ、辺りには静寂が戻ってきた。


「待って!? まだ採れてない子が!?」


"草"

"まじでほぼソロでモンスターハウス攻略しやがった・・・。ほぼソロでw"

"うぉおおおおお!! レイナちゃん最強! レイナちゃん最強! レイナちゃん最強!"

"捕食者だから喰える相手にはバフがかかるぞ"

"↑↑金属は食料に含まれますか??"


 大盛りあがりのコメント欄を見ながら、



「決めました! 私、深層に住みます!」


"?????"

"草"

"かつてないほどの満面の笑みで草"

"食べ放題やぞ"

"どうせ、すぐにアラーム聞いたら逃げるよう調教されるゾ"


「もう匂いは覚えました! 絶対に逃しません!!」


">>>匂・い・は・覚・え・た!<<<"

"お野菜さんたち超逃げてw"

"う~ん、これは捕食者の貫禄"


 立入禁止が解除されたら、ここは巡回コースに入れよう。

 私は、そんなことを考えながら軍曹の元に戻る。


「片付きました! さっさと進みましょう!」

「お、おう……。彩音、あれだけのモンスターと戦って……、大丈夫なのか?」

「何がですか?」


 私はきょとんと首を傾げると、



「それじゃあ、皆さん。メインディッシュを採りに行きましょう!!」

「「「うぉおおおおおお!!!」」」


 私たちは、深層を突き進み。

 ――ついにボス部屋の前にたどり着くのだった。




***


「お、俺たちはあんな怪物にケンカ売ろうとしてたのか……」


 攻略部隊の中に、真っ青で震え上がるオッサンが居た。

 名は、佐々木。すっかり評判を落としたダンジョン・イーグルスというギルドのリーダーである。


「鍋、鍋か――」


 幻視したのは、鍋の中に鷲が放り込まれ、グツグツと煮込まれる姿。

 あっはっはっはっは、っとあの笑顔に喰われる未来が見えた。


 ぶるりと震え上がっている佐々木を余所に、


「レイナちゃん、格好良かった!」

「まさか例の笑顔を間近で見れるなんて……!」

「わが人生に一片の悔いなし。もう死んでも良い!」


 チームメイトたちは大盛りあがり。

 感動の涙を流す者すら居た。


「……馬鹿言ってないで行くぞ」

「「「うっす――」」」

 

 ――正直もう帰りたい。けれどもモンスター蔓延る道を、帰れる気もしない。

 何より彩音レイナの傍が、一番安全そうという事実。


 先陣を切る探索者たちの後を、とぼとぼと付いていく佐々木チームであった。

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