第44話
「うう…、なんでこんなことに……」
沈んでいったメインディッシュ(ハサミ)を前に、私は悲しみの涙を流していた。
せっかくのカニ鍋。まさか戦うのに夢中になって、こんな結果を招いてしまうなんて…。
「いや、まだ諦めるには早いかも!」
"もちつけw"
"レイナちゃんはご不満"
"まあ、カニ鍋楽しみにしてたからなぁ"
「取ってきます!」
私は、そう宣言。
"草"
"まてまて、早まるなw"
"誰か止めてさしあげて"
"なになに、なにが起きてるの?(英語)"
"《英検一級はクソゲー》レイナちゃん、ハサミが沼に沈んでショック。回収しようとしてる"
"犠牲者覚悟の戦いで、そんなこと気にする人間がいるわけないだろ! いい加減にしろ!(英語)"
"瘴気の湖に飛び込もうとする人間がいる訳ないだろ、いい加減にしろ!(英語)"
"《英検一級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"
「行ってきます!!」
美味しいカニ鍋のためなら、迷いはない。
助走をつけ、私は脇目も振らずに瘴気の湖に飛び込んだ。
"ふぁっ!?"
"迷いなさすぎて草"
"英検ニキの言葉は正しかったんやなって・・・(英語)"
戦いの記憶を元に、私は瘴気の湖の中を潜っていく。
毒々しい緑色の湖であり、視界は劣悪のひと言であった。ちなみに瘴気なんて所詮は毒の一種に過ぎないので、カンストした毒耐性スキルでゴリ押す事が可能である。
そんなこんなで私は、無事、デスクラブのハサミを回収することに成功。
ホクホクした顔で、地上に浮上すると、
「おまっ!? いきなり瘴気の湖に潜るやつが居るか!」
めちゃくちゃ心配そうな軍曹に迎えられた。
「だ、大丈夫です! 見てのとおりピンピンしてますから!」
「そんなアホな──本当のようだな。流石は彩音……、とりあえずこれを着て、一旦配信は止めて……、まったく。普通の探索者なら一瞬でお陀仏だぞ」
有無を言わさず、上着をかけられる私。
見れば集まった探索者たちも、心配そうな表情をしており、
"《鈴木 千佳》レイナ? 帰ったらお説教やな"
"《望月雪乃》これは、お説教ですね!"
"《英検一級はクソゲー》もうちょっと常識的な行動して(´;ω;`)"
コメント欄にも、そんな言葉が届いており。
「心配かけて、ごめんなさい!」
私は、ぺこりと頭を下げるのだった。
「常識を置き去りにするレイナ様、格好良い!」
一方、そんな光景を見ていたミライが、目を輝かせていたとかいないとか。
※※※
「さてさて、みなさん! カニ鍋の時間です!!」
「「「うぉぉぉおおおお!」」」
服が乾き(優しそうな魔術師のお姉さんに乾かして貰った。大人のお姉さん、格好良い)ついにお待ちかねのダンジョン料理の時間。
鍋を用意し、私がダンジョン内で取れた野菜を取り出したところで、
「野菜を刻むのは任せろ!」
「カニの下処理はお任せを!!」
剛腕さんたちが、そんなことを言いながら調理を買って出た。
「ほえっ!? 剛腕さんたち、料理出来たんですか!?」
「いや、まったく」
「なら……、なぜに?」
「ふっ。攻略班に選ばれてからは、こればっかりを練習していたからな……!」
剛腕さんたちは、無駄に良い笑顔でそう答える。
「剛腕さん……!」
「な~に、良いってことよ」
テキパキと鍋の準備を進めていく剛腕さんたち。
言葉の通り、その包丁捌きはなかなかのものだった。
グツグツと煮込まれ、やがて周囲には鍋特有の良い匂いが広がっていく。
"(注)探索者同士の会話です"
"か、完璧な役割分担や……"
"でも自信満々なだけあって、美味しそう"
"↑↑騙されるな、猛毒やぞ"
数十分後。
私たちは、巨大な鍋を囲んで談笑していた。
「流石はレイナ様ッス! 空中に向かってビューンて飛んでいって、ドカンドカン、バッキンて!」
「ミライちゃんもナイス打ち上げだったよ!」
「まさか俺たちが見てるだけになるとはな……。俺たちも、まだまだってことか──」
そういえば私が好き勝手に暴れ回ったせいで、参加者の出番を奪うことになってしまったのかもしれない。でも何人かの探索者からは、これで全員で生きて帰れるって泣いて感謝されたし、きっと大丈夫だろう。
(そんなことより……、カニ鍋!)
"話しながらソワソワ鍋見るレイナちゃん可愛い"
"剛腕さんたち、かつてないほど頼もしいなw"
"これほど和気藹々としていた最前線攻略班が、かつてあっただろうか……w"
"たしかに普通なら戦果の取り合いでギスギス始まりそう"
"レイナちゃん、ソロ討伐だからなぁ……"
「そろそろ食えるはずだ」
「わくわく、わくわく。……わあっ!」
剛腕さんが蓋を開け、ぐつぐつと湯気が立ち上る。
巨大なカニも良い色合いになっており、ぷりぷりしていて美味しそうだ。
今回の立役者だからと、私に渡された取り分はカニのハサミ丸ごとだ。
「ミライちゃん、カニ鍋美味しいね!」
「はい、すごく美味しいッス! また食べたいッス!」
「ダンジョン深層……、本当に最高ですね!」
野菜まで現地調達できる、というのが最高だ。
煮ても焼いても食えない憎き鎧野郎とは、大違いなのである。
"えぇ……(困惑)"
"みんな当たり前のような顔で毒鍋食べてて草"
"見た目だけは美味しそうなんだよなぁ"
"なんでこの人ら、平気なん?"
"まあ攻略班、基本人間辞めとるし……"
皆で鍋を囲み、場には笑顔が溢れている。
私が幸せな気持ちで、パクパクとカニ鍋を口に運んでいると、
(あれ、イーグルス佐々木さんは要らないのかな?)
隅っこの方で、できるだけ目立たないように、目立たないようにと縮こまっているおじさんの姿を発見する。
今回のアタックの言い出しっぺにして、問題も引き起こしていたダンジョンイーグルスのギルマスである。
(みんなで食べた方が美味しいよね!)
私は、笑みを浮かべながら、
「佐々木さん! 今回のアタックは成功です。こっちに来て、一緒に食べましょう!」
「ヒィィィ! どうか、お助けを……!」
私が呼びかけるも、イーグルス佐々木はブルブルと震えるのみ。
(あれ……?)
"レイナちゃんに睨まれた鷲?"
"食材やぞ"
"【悲報】イーグルス佐々木、毒耐性スキルを持ってない"
"何しに来たんだ、この人……"
「大丈夫です! そんなに強くない毒なので、少しずつ慣らしていけば……!」
「ヒィィィィ!」
涙目で怯えている佐々木さん。
(こんなに美味しいのにな)
私は、パクリと鍋を口に運んで首を傾げるのだった。
※※※
気分はさながら打ち上げ会場。
中にはお酒を取り出した探索者もおり(どこから出したのだろう)ボス部屋には、ゆったりした空気が流れていた。
"レイナちゃん、幸せそう"
"見てるだけで癒される"
"ここだけ見れば天使なんだよなあ"
"てかゲテモノ以外も普通に食べるんやな。てっきり、普通の食べ物は受け付けないゲテモノマニアかと……"
「ちょっと!? ゲテモノマニアって何ですか!?」
納得いかない私に、
"つデュラハンを食べるレイナちゃん →URL"
"つスケルトンゾンビで出汁を取るレイナちゃん →URL"
"つマナ溜まりを綿あめだと思って食べてみるレイナちゃん →URL"
"つ毒鍋に舌鼓をうつレイナちゃん →URL"
「いやぁぁあああああ!?」
おかしい、黒歴史がどんどん拡散されている。
インターネット、怖い。あと、毒は美味しいから、仕方ない。
「へい、おかわりもありまっせ!」
「わあっ! 頂きます!!」
"剛腕さんたち、そのポジションが板に着きすぎてて草"
"※戦闘要員2、調理担当2でダンジョンイーターズは構成されています"
「俺たちなりに、どうやればギルドのためになるか考えてな……」
「そうして導き出した答えが……、これさ!」
胸を張る剛腕さんたち。
"あながち間違ってなさそうだけどwww"
"それで良いんか、探索者ァ!"
気がつけば、あれだけあった鍋は空っぽになっていた。
集まっていた探索者たちも食べ終わり、こちらの様子を伺っている。名残惜しいけれど、そろそろ出発のときだ。
"これからの公約は?"
「もちろん、世界中のダンジョンモンスターを食べ尽くすことです!!」
"レイナちゃんなら行けそう!"
"幸せそうな顔で食べるレイナちゃん(耐久版) →URL"
"《望月 雪乃》可愛い、毎日レイナちゃんにご飯作ってあげたい……"
「ほわっ!? ゆきのん先輩の料理、毎日食べたいです!」
"餌付けw"
"てぇてぇ?"
"毎日、深層にもぐらされるが宜しいか"
"《望月 雪乃》ぇ……?"
そんなことを和気藹々と話しながら。
新宿ダンジョンへのアタック――今日の配信は、お開きになった。
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