第43話-2

 私は即座にミライちゃんに駆け寄り、軽く飛び上がった。

 そのままミライの突き出した拳に足を合わせ、勢いよく空に飛び上がる。


(ひえっ、ミライちゃん容赦ない!)


 凄まじい勢いで、空に射出される私。



 デスクラブの狙いは、隊列が乱れたところに魔法を打ち込み探索者を倒すことだろう。

 巨体での押しつぶしに見せかけ、本命は魔法による砲撃。

 デスクラブのハサミからは、凄まじい魔力の奔流が立ち上っていた。今にも魔法が射出されようとしているのだ。


(させないよ!)


 私は、バウンティタイガーのオーラをまとい、



「あっはっはっは、私の糧になれ!」


 全力で、拳を叩きつける。


(弱点部位は……、ここ!)


 私が狙ったのは、右側の大きなハサミの根本の部分。

 魔法の狙いを逸らせれば御の字。

 体制を建て直す時間を稼げれば良い。

 そう思っていた私の一撃は、


 ――ものの見事に、デスクラブの右ハサミを根本から引きちぎった。


"ワロタ"

"美味しそう"

"消し飛ばなくて良かったな"

"↑↑レベル2000に全力で殴られて無事ですむわけないだろ、いい加減にしろ!"

"全員がポカンとしてて草"



(あれ? 意外と効いてる……?)


 私の役割は足止め。

 軍曹の口ぶりから推測するに、私がいくらぶん殴ったところでダメージにはならないと思っていたけれど……、



 私は天井にしがみつき、デスクラブを注意深く観察した。 

 部位破壊――体の一部を破壊され、スタン状態に陥っているように見える。

 それにしても……、


「本当に美味しそうですね」


"草"

"※ダンジョン最深部での感想です"

"捕食者に目をつけられたらもう終わりよ"

"捕食者からは逃げられない"


「私の捕食者って二つ名、どんどん広まってるんですが何でですか!?」


"鏡見て"

"その前に敵を見てw"

"なんでこの状況でコメ欄凝視できるの、この子……"


 心配症のリスナーさんに怒られ、私は巨大カニに向き直る。

 どうやらスタンが回復したデスクラブは、またしても魔法を準備しているようだった。


(ハサミを壊して魔法を妨害しながら、地面に叩き落とす!)

(できれば傷つけずに倒したかったけど、さすがにそんなこと言ってられないよね)


 私はそう判断。

 天井を勢い良く蹴り、弾丸のような速度でデスクラブに突撃する。

 狙いは、魔力の溜まったハサミだ。


「えいっ!」


 全力で殴り飛ばし、私はハサミを吹き飛ばす。

 更にはその巨体を足場に、私は再び空高く飛び上がった。


 それから繰り返されるのは、似たようなやり取り。

 カニさんも途中からは足を巧みに操り、私を捕らえようとしたり、体当たりしようとしてきたがサッと回避。

 カウンターで、足を引きちぎっていく。


「あっはっはっはっは!」


"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"



 魔法の危険が無くなったころ、私は軍曹にこう尋ねる。


「軍曹、撃ち落として良いですか?」

「…………あ、ああ」

「では、ここからは作戦通りです! カニ鍋のため、みなさん頑張りましょう!!」


"軍曹、困惑してて草"

"おまいら口空いてるぞ"

"俺たちはいったい何を見せられてるんだ……"

"料理やぞ"

"捕食シーンやぞ"



 私は軍曹の答えを聞くや否や、デスクラブに渾身の踵落としを叩き込む。


 まともに喰らったデスクラブは、凄まじい勢いで地面に吹き飛ばされ。

 ――激しい轟音とともに地面に激突し、ピクリとも動かなくなった。



(敵は、最前線のフロアボス)

(何をしてくるか分からないし、ここからが本番だよね……!)


 第2形態、第3形態があってもおかしくない。

 カニのすぐそばに着地した私は、警戒態勢を続けたまま、


「では皆さん、イレギュラーはありましたが、ここからは作戦通り。えっと前衛後衛で分かれて、私は右ハサミ担当で! えっと、えっと……!?」


 私は、そこで困って言葉を止める。

 肝心のハサミは、すでに宙を舞い、湖に沈もうとしていたからだ。

 


 ピクリとも動かぬカニ。

 おもむろに歩み寄るは軍曹。

 そうして、しばらく何かを観察していたかと思うと、


「――なるほど、もう死んでるな」


 ぽつりと一言。


"ぽかーん( ゜Д゜)"

"ぽかーん( ゜Д゜)"

"ソロ狩りしやがったww"

"貴重な食料が湖に沈んでいく~!?"


 驚異的な速度で流れていくコメント欄。



「あ~!? メインディッシュ~~!?」


 続けて、私の悲鳴が響き渡るのだった。

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