第49話
千佳とのオフコラボの翌々日。
「今日も食卓から癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは!」
私は、新宿ダンジョンで配信を開始する。
"こんレイナ~!"
"待ってた!"
"今日はダンジョン配信?"
「はい! そして、なんと今日は――案件配信です!
案件を下さったのは、いつもお世話になってるエリクシアさんです!」
"なんと!"
"案件おめでとう~!"
"むしろ今まで案件じゃなかったのかw"
エリクシアさんは、私が愛用しているダンジョン料理器具のメーカーだ。
加熱機にデュラハンの腕を放り込み、爆破してしまったのも今や懐かしい思い出。
千佳いわく、私の配信のおかげで売上が爆発的に伸びたとかで、とても感謝されたそうだ。
(私としては、ありがたく使わせて頂いてるだけなんだけどね!)
それでも私の配信を通じて、商品の良さが伝わったなら嬉しい限り。
「今日紹介する器具は、なんと千佳が技術提供してます。
その名も、空間拡張技術を搭載した次世代型の運搬具――ラクラク・ハコベールです!」
"命名センスひっでぇww"
"まさかレイナちゃんが案件もらう日が来るなんて・・・"
"空間拡張技術 #とは"
"え? サラッと言ってるけど、めちゃくちゃすごない!?"
「えっと。スキルの効果を解析して再現したものらしくて――簡単に言うと、こんなに小さいリュックだけど、いっぱい物が入ります!」
"《鈴木千佳》ふっふっふ、ついに長年の研究が日の目を見る日が来たんやで!"
"《鈴木千佳》期待しといてな!"
"マネちゃんだ!"
"神出鬼没なマネちゃん!"
"本来こっちだけで食っていける人材"
「実演しますね。…………えいっ!」
ドガッ!
ブモゥゥゥッ!(ミノタウロスの断末魔)
遠目に見えた牛型モンスターへ拳を打ち込み、私は一撃でモンスターを仕留めていく。
"いや草"
"ノーコメントで処される牛さん可愛そう"
"う~ん! これは捕食者の貫禄w"
(うん、鮮度もバッチリ!)
「はい! こんなに大きかったミノタウロスが――ほら、こんなに簡単に入るんです!」
私は、巨大なミノタウロスをリュックに詰め込んでいく。
空間拡張技術を施したリュックの中は、見た目より遥かに広い。
見た目としては、ミノタウロスが小さくなりながらリュックに吸い込まれていく感じだろうか。
「はい、この通り!
あれだけ大きかったミノタウロスが、すっぽり入っちゃいました。しかも、まだまだ余裕があるんです!」
"ふぁっ!?"
"思ったよりとんでもなくて草"
"やっぱりマネちゃん、ダンジョンイーターズの準リーダーなんやなって"
"↑↑ダンジョンイーターズを非常識集団みたいに呼ぶのやめれw"
ちなみに空間拡張技術で広げられたリュックの中は、ひんやり冷たく保存にも適しているらしい。
これまでの私が休憩所までモンスターを運ぶしかなかったのを思えば、大きすぎる進歩である。
「――という訳で、今日の配信はラクラク・ハコベールの実演を兼ねて。
アンカ闇鍋をやろうと思います。具材は、その辺で狩ってきます!」
"草"
"うぉおおお!"
"あの禁断のアンカ闇鍋を!?"
"レイナちゃんがそれやるのは絶対ヤバイw"
アンカ闇鍋――それはユーチューバーの間で流行っていた企画の1つだ。
簡単に言えば、リスナーさんに具材を決めてもらって鍋を作るというもの。
ただし配信を見ているリスナーさんは、だいたいが悪ふざけに走るため碌な事にならないというのが定説である。
今回、私がやるのは、それを更にアレンジした企画。
すなわち決めてもらった具材を、その場で狩って、ラクラク・ハコベールに詰め込んでいくというもの。
もちろん最後は、通常の闇鍋配信と同様、ちゃんと責任を持って食べる予定だ。
「今日は助っ人として、料理のスペシャリスト・剛腕さんと試食係の未来ちゃんも呼んでます!」
「どうも。最近、料理人としての活動が板についてきた元・剛腕の不死殺し――ちなみに本名は
「はい! 今日も元気いっぱい、試食担当のミライッス!」
"今明かされる剛腕ニキの真名!"
"コックの衣装身につけてて草"
"しかも無駄に似合ってるのヤメれw"
"ミライちゃんは味見係なのねw"
それから私は、アンカ闇鍋のルールを説明していく。
食材は全部で7つ。
私がコメントを書き込み、その直後に書き込まれたコメントをアンカとして採用するという方式だ。
そこに書き込まれたモンスターを狩り、鍋の具材にする。
アンカは絶対――千佳いわく、それは鉄の掟なのだそうだ。
「食材のみなさん、信じてますからね!」
私は、アンカタイムを宣言し、コメントが大量に書き込まれるのを待ち……、
「えいっ!」
"ピュアリー・ラビット"
"ブルー・マスカット!"
"マナ溜まり"
"剛腕ニキ"
"《彩音レイナ》はい!"
"オムレツ"
"ゴールデン・ターキー!"
"オークキング"
"スケルトン!"
"おにぎり"
"マネちゃん!"
(食材さん!?)
(なんか半分ぐらい食べられなそうな物が並んでるような!?)
「オムレツ……、卵? う~ん……、ゴールデン・ターキーの卵で良いかな?」
"自ら難易度を上げていく配信者の鏡"
"書き込みカオスで草"
まあでも、結果オーライ。
1つめの具材は、割とまともな具材になった気がする。
"いきなり無茶振りきたぁw"
"さすがに企画が無謀すぎるww"
"へ? ゴールデン・ターキーって、下層にいる?"
"こっちの気配察知して神速で逃げる奴だよな。あれ、狩れるの……?"
そんなコメント欄を尻目に、私は下層に移動する。
狙いはゴールデン・ターキーの卵だ。
ゴールデン・ターキーは、ずんぐりと太った鳥型のモンスターだ。
長い首とクチバシが特徴で、名前の通り羽毛が金ピカに光っている。
全身が可食部位で、中でも筋肉の発達した足が非常に美味しい。
「ゴールデン・ターキーは、逃げ足が早いんですよね。
だから私も――少しだけ本気で追いかけます!」
"いや草"
”ゴリ押しw”
"この速度についていくスマホ、どうなってるのw"
「捕まえましたっ!」
"ひえっw"
"捕食者からは逃げられない!"
私は、巣穴に潜り込もうとしたゴールデン・ターキーの首をむんずと掴む。
狙いは、巣穴にあるツヤツヤ輝く卵たちだ。
ギャーギャー!
甲高い悲鳴をあげながら、羽をバタつかせるゴールデン・ターキー。
「恨むなら食材さんたちを恨んでね」
そう言いながら、私は巣穴から卵をいくつか取り出す。
"ゴールデンターキーたそ、ごめんよ・・ こんな獰猛な捕食者を差し向けてしまって..."
"めちゃくちゃ高級食品だよな、こいつ"
"うん。狩るならプロが罠張って数日かけて追い込む"
"まあレイナちゃんだからな・・・(遠い目)"
(配信時間考えると全部集めるのは厳しいかもって思ってたけど、思ったよりサクサク!)
(これなら大丈夫かも!)
「さて、次のアンカ行きますね!」
その後、私は、食材さんにアンカを募りながら具材を集めていく。
「つみれ! 分かりました、中層にある湖で、いくつか魚を集めてミンチにします!」
"躊躇なくキラー・ピラニアの群れに飛び込むレイナちゃん!"
"無茶振りが無茶振りにならないの草"
"殴ってミンチにするのヤメテw"
"モザイク、モザイク!"
「シャドウバブル・フィン! フグだ……、美味しいですよね!」
"注)知られている限り、現存するダンジョンで一番毒性が高いフグです"
"良い子は真似しないで下さい"
"なんで食べたことあるんだ・・・(困惑)"
"てかまず深層の湖に素潜りしないでw"
「パンドラ・ボックス! なるほど、良いですね~!」
"良いですね~! じゃないんだよなぁw"
"レストラン選ぶ感覚でS級モンスター狩るのヤメテ"
"トラウマぶち壊し配信"
"パンドラ・ボックスは、あの舌が美味しいらしい(レイナちゃん談)"
「ドラゴンゾンビ! …………あれ、食材さん!?」
"あっ(察し)"
"あっ・・・"
"それは駄目なのねw"
"ゲテモノ枠きたw"
「う~、せっかく良い感じで来てたのに!!」
ドラゴンゾンビ――私がバズるキッカケになった懐かしい名前だ。
どう頑張っても美味しくはないし……、
"あなた、どうやっても食えないのよね"
"消します!"
"あっはっは( ゚∀゚)/"
"あっはっは( ゚∀゚)/"
「あのー、その世界線の私は、そろそろ忘れて下さると……」
バコッ ドカッ
雑談しながら、ドラゴンゾンビを狩っていく。
"流れ作業草"
"ここ下層なんだけどな・・・(困惑)"
そんな勢いで、アンカ闇鍋は順調に進んでいく。
千佳お墨付きのラクラク・ハコベールは、見事に狩った具材をすべて吸い込んでいった。
そんなこんなでラスト1つ。
「えーっと…、ダンシング・ジェリーフィッシュ……、なんですかこれ?」
アンカで決まったのは、見覚えのないモンスターの名前。
"これはアカン"
"流石に再アンカ?"
"悪ノリでも、それはアカン"
「えっと……? 解説希望です!!」
"巨大なクラゲモンスター。新種だから全容は不明"
"深層第九地区のフロアボス。バチバチの最前線やね"
"さすがにソロで挑むものじゃないね。素直に再アンカしよ?"
「……クラゲって、美味しいんですかね?」
"食欲優先したw"
"おいバカやめろw"
"まともに食えそうな名前だから、ちょっと嬉しそう!"
"たぶんコリコリしてて美味しい"
アンカは絶対らしいし、取りに行ってみようか。
決して、断じて、巨大クラゲ――なんて珍しい食品に釣られた訳ではない。
「……さすがにヤバそうなら逃げるので、それは許して下さいね?」
"まじで行くの!?"
"ウッソでしょw"
"とんでもないの書き込んだ奴はうんと反省してどうぞ"
"安全第一で!"
私は、心配そうなコメントをよそに、深層を潜っていく。
第9地区は未知の地だが、前の地区と同じ要領で十分進むことができた。
"なになに、レイナちゃんはどこに向かっての?(英語)"
"《英検1級はクソゲー》第9地区、フロアボス食べに行くらしい(英語)"
"そんな散歩感覚で最前線に突き進むやつが居るわけないだろ、いい加減にしろ!(英語)"
"《英検1級はクソゲー》・・・(´;ω;`)"
「着きました! ……行きます!」
私は、そう宣言。
ボス部屋の扉を開け放つのだった。
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