第33話

「ほえ? ギルドの立ち上げ!?」


 ミライからの思わぬ問いかけに、私は目を白黒させる。


 ――私が、ギルドを立ち上げてしまうという発想。

 考えたこともなかった話である。



(ん……?)

(もしかして名案なんじゃ!)


 私が頭を悩ませていたのは、ミライが、どのギルドに入るかだ。

 ダンジョンイーグルスを辞めた後も、つつがなく探索者を続けてもらうためだ。

 少しでも良いギルドに入れればと考えて、少々根を詰めてトレーニングをしていた訳だけど……、



(万が一、行き先が見つからなかった場合)

(私がギルドを作って、ミライを迎え入れれば良いのでは!)


「ミライちゃん、名案だよ!」

「な、何がッスか!?」

「決めた! 私、ギルド作る!」


"!?"

"ガタッ!"

"ノリと勢いだけでとんでもない情報が出てきた!?"

"すぐにウチの本部に連絡だ!! 急げ!"


 何やらコメント欄が騒然としている。


"新規メンバーは募集してますか!?"

"↑↑気が早いw"

"生半可なことじゃAIに追い返されそう"



「もし良いギルドが見つからなかったら、一緒にギルド組もう?」


 私がミライにそう声をかけると、


「感激ッス! あたいは、絶対にレイナ様のギルドに入りたいッス!」

「え? まだ生まれてもない弱小ギルドなのに。良いの?」

「むしろ、その流れで捨てられたら泣いちゃうッスよ……」


 ミライが、捨てられた子犬のような目で私を見た。

 可愛い。


「ギルドって、どうやって作るんだろう?」

「気合いッスね!」

「ミライちゃん、世の中には気合じゃどうにもならないこともあるんだよ?」


 たとえば確定申告の書類年に一度の悪魔とか。


"おまいうw"

"鑑見てどうぞ"

"《鈴木 千佳》……ぇ?"

"《鈴木 千佳》いきなり、とんでもない爆弾ぶっこまないで~!?"

"《鈴木 千佳》レイナ! とりあえず後でうちに集合!"

"呼び出しw"

"マネちゃん苦労人すぎる・・・"


「ど、どうしましょう!? ただのコラボ配信のつもりが、突如として業界を揺るがしかねない爆弾を叩き込まれて驚きを隠しきれません!」


 場を盛り上げるためか、ゆきのんはそんなことを言う。

 実に演技派なのである。



"なになに。何が起きてるの!?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》レイナちゃん、ギルド立ち上げるらしいよ(英語)"

"レイナちゃんがそんな面倒なことするはずがないだろ、いい加減にしろ!(英語)"


"いや、待て。何やら食材ニキたちの様子が…………(英語)"

"まさか、マジなのか!?(英語)"

"アカン。これ、日本の勢力図が変わる――はよギルマスに伝えないと(英語)"

"《英検1級はクソゲー》なんでわいの言葉より、読めないコメントのが信憑性高いんや(´;ω;`)"



 盛り上げるコメント欄を余所に、私はミライとわいわい盛り上がる。


「私、ギルドを立ち上げたらみんなと一緒に美味しいものを食べるんだ!」

「それなら毒耐性は必須ッスね!」

「それと深層料理にもリベンジしたい! ギルド単位ならライセンスもらえるかな?」

「気合いでもらうッス! あたいも深層潜ってみたいッス!」

「なら深層にソロで潜れることも条件? それと、それと――」


 語り合うは美味しい夢。

 ノリは、文化祭前日のテンションに等しい。



「どうしましょう!? ギルドの募集要項が人間やめてて誰も入れる気がしません!?」

「「大丈夫(ッスよ)!」

「その心は?」

「「気合い!」」


"ツッコミ役不在の恐怖"

"違うぞ。ツッコミ役を置き去りにしてるんだぞ"

"剛腕ニキ~! 出番だぞ~!!"


"《不死殺し》レイナちゃんは可愛いなあ(遠い目)"

"だめだ、魂が抜けてやがるw"

"「この拳は、アンデットすら貫く!」って一時期は鷲でトップ争いしてたはずの剛腕ニキが――"

"《不死殺し》人の黒歴史ほじくり返すのはやめて頂けませんかね?"




「……っと、無駄話してる場合じゃなかった。ゆきのん先生、続きをお願いします!」

「お願いしますッス!」

「………………え? この流れで、続きやるの!?」


"ここまで慌てるゆきのんを見れるのは、この配信だけ!"

"ゆきのん、シャイニースターズだとどちらかというと振り回す側なのにw"

"この暴走師弟を止めれるのは、ゆきのんしかいない!"


「無茶言わないで下さい!? 剛腕さん、カムバック~!」


"《不死殺し》うちの子をお願いします"

"《鈴木 千佳》うちの子のこともお願いします"

"保護者たちの胃はもうボロボロ"


 ゆきのんは、一瞬遠い目になったが、



「分かりました。やってやりますよ!!」


 不意に気合いを入れ直し、私たちを先導して歩き始めるのだった。



(はえー。探索者としての心得かあ)

(私が教えるのは、やっぱり無理だなあ――)


 ゆきのんの教え方は、やっぱり上手い。


「あそこに罠が見えるね。……どうする?」

「はいッス! さっさと回れ右。次の道を探すッス!」

「うんうん、安全第一だよね。80点!」


"レイナちゃん直伝のチート性能と、ゆきのん直伝の知識が合わさり最強に見える"

"罠は回避するものだと覚えたミライちゃん!"

"鷲は今まで何してたの・・・"

"《不死殺し》我々イーグルスは、有能な新人を荷物持ち兼雑用係としてこき使っておりました。大変、大変、申し訳ございません・・・"



「じゃあ、レイナちゃんは?」

「はい! 私なら、とりあえず踏んでみます!」

「なんで!?」

「だってまだ見ぬ美味しい食材が取れるかもしれないじゃないですか!」

「う~ん、0点!」


"なんでや!"

"ミライちゃんが、お手本示したのにw"

"オチ担当みたいになってる・・・"



「あ。そういえば、罠は正面突破した方が、レベルは上がりやすいみたいですね」


 ふと私は、思い出したことを口に出す。


"草"

"ファッ!?"

"レイナちゃん式トレーニング来たw"


"なになに? レイナちゃん何て言ってたの?(英語)"

"《英検1級はクソゲー》罠は全部踏み抜いた方が経験値効率が良いらしい(英語)"

"レイナちゃんが経験値に興味持つわけないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"


 まあ、確固たる証拠はない。

 あくまで千佳の家でレベルを測ったときの経験則である。


"《鈴木 千佳》えー。うちの子が何か言ってますが、レベルが2000超えるまでは真似しないで下さい"

"教育の敗北"

"レイナちゃんは可愛いなあ"


 その後も相変わらず、私は0点を連発し。

 一方のミライは、すくすくと探索者としての常識力も伸ばしていく。



 数時間ほどの配信。

 久々のコラボは、コメントの盛り上がり的に大成功と言えるだろう。

 最後は打ち上げでブルー・マスカットを食べ(※ゆきのんは持ち込んだマスカットジュース)て、今日の配信はお開きとなった。

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