5章

第46話

「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」


"こんレイナ~"

"こんレイナ~!"

"はじまた!!"

"知らない天井だ"

"今日は雑談配信だっけ?"


 今日は、私――彩音レイナの配信日。

 配信を開始するや否や、凄まじい勢いでコメントが流れていった。



 ――チャンネル登録者数は、ついには200万の大台を突破した。

 どうやらこの間のアタックがバズりにバズり、海外のリスナーさんが大勢チャンネル登録してくれた様子。

 こうした日常の配信では、さすがに同時接続数は落ちるものの、それでも数万人の視聴者さんが配信に来てくれている。



(未だに現実味がないんだよね……)

(全部、授業中に見ていた夢だったって方が納得できるもん)


 だから、これが当たり前の光景だとは思わない。

 あくまで自分らしく。それでいて、来てくれた視聴者さんに楽しんでもらうことが大切。


 そんな訳で今日は――――


「実は今日は――マネージャーの千佳のラボに集まってのオフコラボ配信です!」

「というわけでマネージャー改めて千佳や。お邪魔するで~」


"ガタッ"

"えぇぇええ!?"

"うぉぉおおおお! マネちゃんコラボ!?"

"サプライズすぎるw"


 そう、今日の配信は千佳とのオフコラボ。

 大々的には宣伝していないが、面白がってくれる視聴者さんも多いと思ったのだ。


"千佳ちゃんの神業が見れると聞いて!"

"ハイスペックマネちゃん!"

"作業現場見てみたい!"

"ブランド千佳の、今後の展開が気になります!!"


「ち、千佳!? なんか質問がいっぱい来てる!」

「うちはまだ学生やからな~。ギルド運営で手一杯やし、そっち方面は当分考えらんな~」


 そうサラッと質問をいなしていく千佳。

 その姿には、すでにベテランの配信者のような貫禄があった。



"何するの?"

"部屋にいるのは2人だけ。そうなったら始まるのは――"

"わかった、ブルーマスカットの試食会!"

"なんでや!"

"マネちゃん逃げてw"


「無茶言わんといてな……。うちのレベルじゃ即死するて」


 悪ノリする食材さんたちであったが、千佳は真顔で首を横に振る。

 何度か誘ったのだが、千佳は頑として首を縦に振ってくれないのである。



"なんか常識人で安心する"

"ダンジョンイーターズの常識枠?"

"↑↑↑あの発明品があって、常識枠名乗るのは無理ある"

"【悲報】ダンジョンイーターズ、常識人が存在しない"


「ブルーマスカット、美味しいのに」

「レイナも、ガッカリした顔せんといてな……」



 そんなやり取りを経て、私は、今日のコラボ内容を発表する。


「そんな訳で、今日は……、ゲーム配信です!」


"なんで!?"

"レイナちゃんがゲーム配信?"

"さすがに解釈不一致"

"そんな器用なこと出来るの?"

"配信、物理破壊して枠閉じてたのに……"


「さり気なく、人の黒歴史を掘り返すのやめてもらえませんかね!?」


 食材さんたちは、私のことを何だと思っているのだろう。


 ふと、配信を切り忘れた日のことを思い出す。

 あのときはテンパってスマホを粉々に吹き飛ばしてしまい、千佳には爆笑されたっけ。



「じゃーん! 今日やるゲームはこれです!」

「このゲームは、うちのイチオシでな!」

「ルールはまったく知らないんですが、キャラがとても可愛いんですよ!」

 

 ――私が開いたのは、シャンタマというオンラインゲームだ。

 可愛らしいキャラクターが特徴的な、世界中で大人気の麻雀ゲームである。



 千佳が遊んでいたところを見て、興味を持ってしまったのだ。


 興味を持つまた私に、千佳は千佳でノリノリで。

 いわく、探索の手頃な待ち時間でできて、暇つぶしに最適だとか。

 いわく、探索者にとって一番重要な運を鍛えるのに最適だとか。

 そんな熱い布教を受けて、今日のコラボ配信の題材として選んでみたのである。



"なんでそのチョイスww?"

"料理ゲームかと思ったら、まさかのw"

"↑↑レイナちゃんが料理できるわけないだろ!!"


"キャラは可愛いでんだよなあ"

"うっ、昔の古傷がうずく・・・"

"ルール知らずに始めるには、ちょっと重くない……?"


「ルールはたぶん大丈夫です! 私のバックには千佳が付いてますから!」

「し、信頼が重い……!」


 私がキラキラした目で千佳を見ると、千佳はうっと目を逸らす。



「えーっと、このゲームの基本的なルールはな――」


"初心者には、どうあがいてもハードル高いよなあ"

"マネちゃんの腕の見せ所"

"うんうんうなずいてるレイナちゃん可愛い"

"でもよく分かってなさそう()"


 千佳いわく、これからやるゲームは、手札を集めて役を作るポーカーのようなゲームらしい。

 1枚ずつ捨てて要らないものを捨てて、1枚ずつ手札を集めてゴールを目指すもの。

 14

 そうして役が完成したら、アガリになり次の試合へ。


 ――そうして次は……、と"役"の説明に入る千佳であったが……、


"よく分からないと早々に悟って眠そうなレイナちゃん可愛い・・・"

"解釈一致"

"そらそうよ"

"マネちゃん、やっぱり頭良い・・・"



「このゲームは、4つの3枚組と、1つの2枚組のセットを作ればアガリで――」

「ほえー…………」


 ぽけーっと口を開ける私を見て、千佳が一言。


「同じカードを3枚ずつ集める。あるいは2枚ずつ集める。そうしたらゴールや!」

「分かった!」


"レイナちゃんでも分かるまーじゃん講座!"

"【悲報】レイナちゃん、四暗刻か七対子しかアンロックされないw"

"まあ、習うより慣れろだよね"


「ルールはやりながら説明するとして……、さっそく打ってみるで!」

「よく分からないので、食材の皆さんはアドバイスバンバンお願いします! あ、対戦の残り2枠は、食材さんから募集しますね!」


"喰われる!"

"指示厨は自重しろよ?"

"流れ早すぎて読めんw"

"経験者、以外と多くて草"


 そんな感じの軽いノリで。

 私は、千佳とシャンタマで対戦を始めるのだった。




 そうしてはじまった1局目。

 参加者は――見知らぬ食材さんと……、


「ゆ、ゆきのん先輩だ!?」


"《望月雪乃》やった、入れた!"

"ゆきのんだ!?"

"当たり前のように待機してて草"

"ゆきのんは、レイナちゃんのガチファンなので・・・・"

"あの高倍率の早押しをくぐり抜けて!?"


"というかマネちゃんシャン聖で草"

"上から2つ目だっけ?"

"その上は、もうプロ並みの人しかおりゃん"

"ガチすぎる・・・"


「ほえー、千佳すごいんだ」


 コメント欄が盛り上がっていた。

 心なしか千佳がドヤっと胸を張った気がする。

 始めたばかりの私にその凄さは分からないけど、千佳が褒められているのを見て私まで嬉しくなった。



「えーっと、捨てるものを選ぶんだっけ」


 私は、持っていたスマートフォンに向き直る。


 私は、千佳の教えを思い出しながら要らない手札――牌というらしい――を捨てていく。

 シャンタマというゲームは、1枚牌を持ってきて、要らない牌を捨てるという動作を繰り返すものらしい。



「食材さん! 何切れば良いんですか!?」


"とりあえず字牌整理しよう"

"う~ん、この形なら三色見たいからキューワン切り?"

"ドラは使いたいからパーピントイツは残したいね"


「に、日本語で!」


 食材さんの中には、このゲームのガチ勢の方々がいるみたい。

 しかし初心者の私には、彼らの言葉がさっぱり分からないのである!



(う~ん。千佳の操るキャラクター、可愛いなあ――)

(ええっと、同じカードを3枚ずつ集めれば良いんだよね!)


 私は、千佳のアドバイスを思い出しながら要らなそうな牌を捨てていく。

 3枚集めれば良いということは、1枚しかないものはきっと要らないんだと思う。



 最初は、あたふたと私に打ち方を教えようとしていたコメント欄だったが、


"ふぁっ!?"

"なんやこれ、なんやこれ・・・"

"引いてくるもの全部アンコになっていって草"

"【悲報】レイナちゃん、ゲームでも常識を知らない"


(あれ…………?)

(何やらコメントの様子が…………)


 だんだん、その様子が変わっていく。


「あ、なんか出ました!」


 気がつけば、画面には立直リーチという謎の文字が。

 派手なエフェクトとともに、金色にキラキラ輝いている。


"四暗刻6巡でテンパってて草"

"いっちゃえ!"

"俺たちは何を見せられてるんだ・・・"



「千佳? このボタン、押して良い?」

「へ?(めちゃくちゃ速いな……) 立直は、基本して損はないと思うで」

「じゃあ!」


 ちなみに千佳は、私の画面を見てはいない。

 とりあえず初戦だからということで千佳と対戦しているが、次試合からは千佳をアドバイサーにして視聴者さんと対戦する予定だったりする。



「悪く思わんでな、レイナ。うちもリーチや!」


 続いて順番が回ってきた千佳が、威勢よくそんなことを言い出したが、



「あ、何か出ました!」

「へ?」

「ロンって出てます。えーっと、押します!」



"四暗刻・単騎草"

"レイナちゃん最強すぎるw"

"一発で出てくるの、マネちゃんも持ってる"

"なるほど、レイナちゃんにはあの説明だけで大丈夫だったんやなって・・・"


「さ、さすがはレイナや。ビギナーズラック恐るべし――って、ぇええええええ!?」


 部屋の中に、千佳の断末魔の悲鳴が響き渡った。



 ――食材さんによれば、私が上がった役はダブル役満と呼ばれる最強クラスの役らしい。 

 千佳は、一撃で持ち点を失い、あっさりと敗北。

 1局目は、そのまま終了となった。



"理不尽すぎるw"

"《望月雪乃》あのー、座ってたら一瞬で試合が終わったんですけど……"

"レイナちゃんともっと遊びたかったゆきのんはご不満"

"ゆきのんは可愛いなあ"


「ゆきのん先輩! 今度、ダンジョン潜りましょう!」


"《望月雪乃》や、やった!"

"《望月雪乃》行きます、行きます! 絶対行きます!!"

"ゆきのんの反応が食い気味なのよw"

”てぇてぇ”

"てぇてぇ"

"行き先は深層だがよろしいか?"

"《望月雪乃》ぇ・・・?"


「レイナ~! もう1局や、もう1局! リベンジや!」

「へ? 千佳は、どうしたの……?」

「勝ち逃げは許さへんで! うちは今まで勉強してきた牌効率で、どんな理不尽にも打ち勝つんや……!」



"燃え上がるマネちゃん!"

"さすがのレイナちゃんでも、あれほどのバカづきはもう・・・"

"ルールを覚えてない初心者に、ガチで挑みかかるシャン星がいるらしい"

"《望月雪乃》わ、私、レイナちゃんのアドバイスに回りますね!"


「ゆきのん先輩! めちゃくちゃ頼りになります……!」



 そうして始まった二局目。


「ミライちゃんだ!? ミライちゃんもこのゲームやってたの!?」


" 《神田ミライ》レイナ様のために、馳せ参じたッス!"

"身内率高すぎい!"

"見てて楽しいからヨシ"


「レイナ、今回ばかりはうちが勝つで!」

「よく分からないけど受けて立つ!」


 何やら燃え上がる千佳をよそに、私は配られた手札──配牌というらしい──に目を向ける。


「このキラキラしてるのは何ですか?」


"なんやこれw"

"豪運すぎて草"

"《望月雪乃》そのキラキラはドラと言って、えーっと……"


「ほえー……」


"《望月雪乃》いっぱい集めると最強!"

"雑w"

"レイナチャンでも分かる麻雀講座!"


「分かりました! いっぱい集めます!!」


 ゆきのんのアドバイスに頷く私。



" 《神田ミライ》ならあたいはこうッス!"

"《神田ミライ》レイナ様、受け取って下さいッス!"

"そ・れ・はw"

"カン!?"

"アシスト(普通ならアシストにならない)"

"ちゃんと乗ってて草"

"これがレイナちゃんや!"


 何やらミライちゃんが技を使い、私の牌が輝き出した。


「ふわっ!? ミライちゃん凄い!」


"麻雀ってチーム戦だったのか…(困惑)"

"上級者でもレイナちゃんアシストするのは無理や"

"全部、自分で持ってくるからな!"



 コメント欄の空気は、概ね普段の配信と似た空気。

 不慣れなことをしてるけど、リスナーさんも楽しんでくれてると良いなあ。


「えーっと、なかなか3つ集まらないですね……」


"全部有効牌持ってきて草"

"でもレイナちゃんは四暗刻しか見てないゾ"

"なんやこれ、なんやこれ…"

"レベル上がると運も育つんか?"

"↑↑マジレスそれはない もしそうなら、探索者がギャンブル出禁になる。単にレイナちゃん様がヤバいだけ"


「3つて……、あんな交通事故みたいな役満、何回も当たってたまるかいな!」


 私がポツリと呟けば、千佳からはそんなリアクションが飛んでくる。

 そうして何回か不要な牌を捨て、牌を引いてきたところで──


「あ、また何か光りました!」


"張った!"

"チートイ一直線!"

"草"

"ほんとにドラ全部集めてきたな……"

"有限実行w"


 私は、迷わずリーチのボタンを押す。


「悪いなレイナ、おっかけリーチや! 今度こそうちが──」

「あ、ロンです!」

「ぎゃぁぁああああああ!?」


"また一発でマネちゃん振ったぁぁぁぁ!"

"いっそ芸術的w"

"裏ドラも全部乗って草"

"ドラ9ww"

"また一撃で試合終わった〜!?"


「そ、そんな爆運続いてたまるかいな! 次、次や!」



 すっかりやる気満々の千佳。

 私は、そろそろ千佳との雑談配信(マシュ○ロを開けていきたい)と思っていたのだけど──


「あ、またロンみたいです!」

「ぎゃぁああああ!?」


「また光りました!」

「ぎゃぁああああ!?」


"全部役満で草"

"全部マネちゃんのリーチ牌なの芸術点高い"

"新手の差し込みだった可能性が微レ存?"



 そうして何局か打ち。

 私の手元には、ピカピカ輝く3枚の真っ白い牌が並んでいた。

 私は、その牌を眺めながら──


「この真っ白いの、お豆腐みたいで美味しそうですね──」 


"は?"

"は?"

"は?"

"平常運転!"



「今度こそリーチや!」

「あ、それロン!」

「ぎゃぁぁあああああ!?」


 断末魔とともに沈んでいく千佳。



「ゆきのん先輩、ミライちゃん! ちょっとダンジョンまでお鍋、食べに行きましょう!」


"《望月雪乃》へ?"

"《神田ミライ》もちろん行くッス!"

"ダンジョン(レストラン)"

"カニさん超逃げてw"



 一方、千佳はすっかり熱くなってしまった様子で、


「もう1局、もう1局や……!」

「えーっと……、そろそろマシュマロに──」

「うちはほんなオカルトみたいな豪運、絶対に認めへんで!」


"マネちゃん、意外と負けず嫌い"

"カオスw"

"草"


 そんなこんなで、初めてのオフコラボはのんびりとした進行を見せるのであった。




===


せっかくの配信ものなので、たまにはゲーム配信とかもありかなって。

番外編感覚でゆるゆるお楽しみいただけると幸いです

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