第47話

 千佳とのゲーム配信を終え、


「――それでは、ま◯ゅまろ読んでいきます!」


 私は、つぶやいたーに届いていた質問を読み上げていく。



『ダンジョンでもっとも印象残ってる食事のランキングは?』


「えーっと、そうですねえ――」


 ダンジョンで食べた料理は、どれも甲乙つけがたい程に美味しかった。

 だけども、印象に残ってるって意味なら……、



「はいはい! 3位は、ブルーマスカットです! 理由は――、死にかけたからです!」


"いきなり草"

"理由がヘビーすぎるw"

"むしろそれで3位なのか・・・(困惑)"


「レイナ、ダンジョンに落ちてるもの拾っちゃいけないって学校でも習ったやん……」

「だって……、ツヤツヤして美味しそうだったし――」


 じとーっ私を見てくる千佳から目を逸らし、


「それに……、落ちてたんじゃなくて、木から取ったからセーフ!」

「ア・ウ・トや!! 運良く探索者が通りがからなかったら、お陀仏だったんやで!」


 千佳は、今日も今日とて過保護だった。


"マネちゃんの胃は今日もボロボロ"

"ブルーマスカットそんなに美味しいのか・・・"

"↑↑食べるなよ、絶対食べるなよ!?"



「2位は――、 デュラハンのビリビリ草包み?」


"食べ物 #とは"

"たしかに印象には残ってるw"

"これがレイナちゃん、なんだよなあ"

"【悲報】グルメランキング、ゲテモノしかない"


 う~んと首を傾げて考え込む私に、コメント欄は散々な反応。


「レイナは、何を思って鎧を食べようと思ったんや?」

「そこにフロアボスが居たから!」


"即答草"

"すごい良い笑みで言い切った!"

"まあ食欲は三大欲求やしな()"

"マネちゃん、さっきからずっと困惑してるw"



「そして1番印象に残ってる食事1位は――カニ鍋です!」


"知ってた!"

"自他ともに認めるナンバーワンや"

"歴史に残るダンジョンアタックをカニ鍋扱いww"

"みんなして毒鍋バクバク食っててクッソ笑ったわアレ"


「本当に、本当にほっぺたが落ちそうなぐらい美味しくて!

 う~ん、今思い出してもよだれが……。剛腕さんたちの料理も最高だったんです!」


 あの時の衝撃は、未だに忘れられない。

 一口、スープを運んでは脳に衝撃が走り、気がついたら皿が空っぽになっていたのだ。


(カニ鍋……、恐ろしい子!)

(また食べに行きたいなあ――)


"いつものポンコツ食レポ草"

"こいつ、いっつもほっぺた落っことしてるなw"

"レイナちゃんに食レポ求めるとか初心者か?"


「そういえば千佳は、何か衝撃的だったダンジョン料理はある?」

「レイナの配信は、すべて衝撃的なんやけど――レイナが挙げてないやつならアレやな。風船ボンバーの踊り食い」


"???"

"ナニソレ?"

"無名時代のやつ?"

"なんかやべーの出てきたw"


 風船ボンバーを食べたのは、私がバズる前のことである。

 それは文字通り体内に爆弾を埋め込んだ風船型のモンスターであり、倒すと最後に自爆する面倒な相手だった。


「倒すと爆発するなら、生きたまま食べてみる――皆さんでも、そうしますよね!?」


"同意を求めないでw"

"相変わらずクレイジーで草"

"この子、本当になんで埋もれてたの?(定期)"


 ……ちなみにモンスターを丸齧りしたシーンは、癒しとは程遠い。 

 そう思って、自主没にしたのは私である。



"なになに? 今は何の時間?(英語)"

"印象残ってる食事ランキング発表中だってさ(英語)"

"《英検1級はクソゲー》3位 ブルーマスカット。2位 デュラハン 1位 カニ鍋。

 番外編としてマネちゃんは、風船ボンバーの踊り食いを選出(英語)"


"食事のランキングでデュラハンなんて上がってくる訳ないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"




『あの後もサインの練習はしてるの?』


「はい、してます!! 実はですね――」


 私は、ワクワクソワソワと色紙を取り出そうとする。


「待った、レイナ! まさか……、アレを取り出す気なんか?」

「止めないで、千佳!」

「アカンで、レイナ。あんなもん配信に載せたら、視聴者の精神が崩壊して、日本中が大混乱に陥ってまう!?」


"マネちゃんww"

"(注)サインの話です"

"自信満々のドヤ顔レイナちゃん、いつ見ても可愛い"

"つURL→自慢のサインを呪術の触媒にされてしまったレイナちゃん"

"↑↑の動画、後で見直したら、マインちゃんの呪術とんでもない威力で笑う"


"マインちゃん?"

"こないだのアタックに参加してた海外の女の子"

"あー、あのおっさん&幼女ペアね"

"レイナちゃんのサインは、正真正銘、特級呪物だった?"



「む~! 黙って聞いてれば、人のサインを、前衛芸術だの、呪物だの好き勝手!

 でも、それも今日までです!」

「前フリとしては百点満点やな……」


「ジャ~ン!!」


 私は、かけ声とともにスマホにサインをスマホに映し出す。


「どうですか!? どうですか!?」


 半日かけてアレンジにアレンジを加えた自信作である。

 そわそわと感想を求める私に、



"なんやこれw"

"更に禍々しさを増してて草"

"余裕で邪神とか召喚できそう"


「レイナ、そのサイン……。本気で呪術使いに売れるんちゃうか?」

「千佳は商売っ気出さないで!?」


 呪術コーナーで自分のサインを見つけたら、流石に泣いちゃう。

 大真面目な顔でとんでもないことを言い出す千佳に、私はぷくーっとふくれっ面になるのであった。


"《マイン》新作、助かる(英語)"

"《マイン》新たな術式、開発できるかも(英語)"

"ふぁっ!?(英語)"

"やべえ人おって草(英語)"

"本物やんけ! マインちゃんも食材だったの!?(英語)"



「ほえっ? 何があったんですか!?」


 にわかに加速した海外リスナーさんたちのコメント。


"《英検1級はクソゲー》マインちゃん降臨。ちなみにマインちゃんは、ちょうど昨日付けで、探索者ランクが第4位に上がったらしい"

"そんな有名探索者が、こんな時間にやってる雑談配信見てる訳ないだろ。いい加減にしろ!"

"《英検1級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"

"条件反射で嘘つき呼ばわりされる英検ニキ不憫すぎる・・・"



「英検さん、その……。マインちゃんさんは何と?」


"《英検1級はクソゲー》えっと、新たな術式が開発できるかもって(´;ω;`)"

"あっ(察し)"

"聞かなくて良いことまで聞いちゃうのは、日本人のさがよなぁ"


「…………えーっと、次の質問行きますね!」


"無かったことにしたw"



『レイナちゃんとマネちゃんの馴れ初めを聞かせて下さい!』


「千佳との出会いかあ――」


 私は、その日のことを思い出しながら口を開くのだった。

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