4章
第35話
「レイナ、正座!」
「ハイッ!」
コラボ配信の翌日。
もとい終わった直後に、千佳から鬼電があった。
呼び出された先で待っていたのは、千佳からのお説教。
「何かやるときは、ウチに相談してってあれほど!」
「ごめん。でもミライちゃんに聞かれて、つい――」
「ミライちゃんにも、後でお説教やな……」
なぜだろう。
返事だけは元気なミライの姿が、容易に想像できた。
「まあ、そこはレイナの良いところではあるんやけどな。ウチにも心の準備ってもんが――」
そう言う千佳からは、哀愁が漂っていた。
返す言葉もない。
「はあ。ウチがギルド作るかどうか、どれだけ悩んだことか……」
「え?」
「何でもない。そうやな、もしギルド作るなら――」
それから千佳は、いくつか決めるべきことを提示してきた。
まるでこの状況すら予想していたかのように、やけに準備が良い。
さすがは千佳である。
「まず決めるべきはギルド名やな。ギルドの顔とも呼べる重要なものや。それから――」
ギルドは、公約を掲げる必要があるらしい。
同じ
ギルドが目指すべき最終的な姿を共有するため、重要な部分らしい。
「はいはい! ギルド名はダンジョンイーターズ。公約は……、世界中のダンジョンモンスターを食べ尽くすこと!」
「レイナ。とりあえず、その響きは不吉だから止めとこな?」
それから千佳は、説明を続けていく。
「へ? メンバーって、5人も必要なの?」
「5人"しか"や……。レイナが配信でポロっとしてから、応募が止まらんくてな――」
なんせ私は、基本ソロで潜っていた探索者。
当然、心当たりなどあるはずもなく。
(身内で細々とやっていこうと思っていたのに……)
「えっと。私とミライちゃんと千佳と……、剛腕さんたちでちょうど5人!」
「サラッとウチを入れるんやな――」
「駄目?」
「そりゃあ、許されるなら入りたいで? でも――」
「じゃあ決まり! 千佳がいない生活なんて想像もできないしね……」
マネージャーが優秀すぎて、すっかり駄目人間にされている私である。
「世界有数のギルドに育つのが確実なギルドへの入団を、そんな気楽に決めちゃって――」
「へ?」
「レイナはもっと自分の価値を認識するべき、って話やな」
出されたマスカットゼリーをぺろりと食べる私を見て、千佳はハアとため息を付いた。
「メンバーは、まあ保留やな。基本的にはウチが見繕って、ギルマスの判断に任せるで」
「ほえー、ギルマスさんは大変そうだねえ」
「あんたのことや!!」
「えぇええ!?」
「何で驚くんや……」
そんなやり取りを経て。
私は、千佳の家を後にするのだった。
※※※
《SIDE:千佳》
研究所、兼、自宅にて。
レイナが帰った後の自宅は、どこか寂しい。
(――千佳がいない生活なんて想像もできない、かあ)
無邪気にレイナが言い放った言葉。
その言葉を思い出して、千佳が思わずニマニマしていると――
プルルルルル
不快な電話が鳴った。
電話の主は、ダンジョン庁の
幸せな気持ちをぶち壊されて、千佳は思わず舌打ちする。
「……なんや。切るで?」
「いやいやいやいや! そんな大それたことしでかすなら、ちゃんと相談してもらわないと!」
責めるような響き。
「なんでウチが、あんたに相談せないかんねん」
「いや、こっちだって準備ってものが――」
準備って何だ、準備って。
ギルド立ち上げるぐらいで、なぜダンジョン庁の人間が出てくるのか。
「ちなみにウチも、今日の配信で初めて知ったで」
「は?」
「あれ、マジであの子の思いつきやで」
「……え? 君の仕込みじゃないの?」
「あんたはウチを何だと思っとるんや……」
軍曹にすら「最高の告知だった!」と笑顔で言われてしまったことを思い出し、苦い顔になる千佳。
レイナの行動を予測することは、何人たりとも不可能。
あの子の突拍子のなさを舐めるなと言いたい。
「あんたはレイナを操って、良いように使おう思ってるのかもしれんけどな――」
千佳は、重々しく口を開く。
返答は沈黙。
「レイナはな。あんたが手綱を握れるような相手やあらへんで」
「人聞きの悪いこと言わないでよ。ただ僕は、困ってる将来有望な探索者に手を貸そうとしてるだけで――」
「ウチすら、あの子が何しでかすか分からん。でも、それが見てて楽しいんや」
千佳の言葉は、偽りようのない本音。
レイナに振り回される日々は楽しい。
その行動を縛ることなど、不可能だし、許されないのだ。
「未成年だけでギルドを結成するためには、後見人が必要だよね。それはどうするの?」
「少なくともあんたを頼ることだけは絶対あらへん」
千佳は、チクリと棘を指す。
ファンクラブ会員の中で、頼れる人を探すもよし。
最悪、困ったら軍曹の出番だ。
怪しい役人の出る幕ではないのである。
「そんなこと言わないで、よく考えてよ。僕、こう見えてダンジョン庁でも顔が利くよ?」
「ウチらは別に権力が欲しい訳やない。もし、レイナが喜ぶとしたら――あんたに深層料理、用意できる?」
「は?」
「あの子、食べ物以外興味あらへんからな。ちなみにギルドの公約は『世界中のダンジョンモンスターを食べ尽くす』や」
「…………は?」
「入団条件の1つ目は、毒耐性カンストさせること。よろしく?」
「――ま、また日を改めて考えさせてもらおう」
スゴスゴ撤退していく五十嵐。
(ふう。成敗成敗)
いつも飄々としている五十嵐。
その珍しく慌てる声を聞き、溜飲が下がった気持ちの千佳。
(明日はゆっくり休むで)
(いくらレイナでも、これ以上の爆弾は当分持ち込まへんやろ――)
人、それをフラグと呼ぶ。
――爆弾少女ことレイナが、着々と次なる爆弾を持ち込もうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます