第31話
翌日の学校にて。
私――彩音レイナは、歩いていた
ちょっとばかり、聞きたいことがあったからだ。
「軍曹!」
「レイナ様!?」
(様って、なに……!?)
向けられる眼差しが、不思議とミライからのそれに近しい。
ただミライと違って、軍曹は30を超えるいかついおっさんなのである。
まったくもって可愛くない。
「軍曹! 例のファンクラブ、学外まで広まってるみたいなんですが!?」
「ふっふっふ。レイナ様。私、やりましたよ。不肖、権藤剛――このたび関東支部の副会長に就任しました!」
「冗談ですよね!?」
関東……。関東って何!?
そんな自慢げにサムズアップしないで!
まるで全国規模に、すでに例のファンクラブが広まっているみたいな恐ろしい言い方……。
そっと現実逃避。
思わず視線を逸らした先で、私は――
「あ、千佳!」
千佳を見つけて、思わず呼び止める。
「レイナ……? どったん、また呼び出し?」
「千佳の中で、私はどう思われてるの――」
「え? 学内一の問題児」
あながち間違っていないのが大変遺憾なのである。
「おお、鈴木も良いところに。ちょっと例の件で相談が――」
「テーマソングの件やな。楽しみやなあ」
「……ちょ~っと、話を聞かせてもらいましょうか!!?」
不穏な声が聞こえてきて。
私は、軍曹と千佳の後を追いかけるのであった。
※※※
数分後。
私は、職員室で燃え尽きていた。
「千佳ぁ。なんで、そんな――」
黒幕は身近なところに居た。
ファンクラブ会長――その名は鈴木千佳。
敵は、身近な場所にいたのである!
「ごめんて! こんなに大規模な組織に育つと思ってなかったんや」
「よし! マネージャー権限で、すぐに解散させよ?」
「何人会員がいると思っとるんや!? そんなことしたら、暴動が起きるで――」
「いや、本当に何人居るんですかね…………」
引きつった笑みを浮かべる私。
千佳は「頃合いを見て公式からも許可を出す予定や」と言った。
諦め半分といったところだろうか。
(変な人がリーダーになったら、暴走する可能性がある)
(それなら最初から身内で手綱を握ったほうが良い、かあ――)
千佳は、やけにスラスラと理由を話す。
まるで何度も練習していたかのような、実に鮮やかな弁明である。
「……で、本音は?」
「こんな楽しそうなこと、噛まなきゃ損やな!」
「デスヨネ!」
つやつやした顔の千佳。
(楽しんでた!)
(絶対に、楽しんでただけだよね!?)
はぁと私はため息をつく。
実際、千佳に任せておけば大丈夫だとは思うけど……。
「それじゃあ、テーマソング聞いてみるで!」
「はい! 会合の奴らイチオシのテーマソングで、素晴らしい仕上がりになってます!」
「おぉぉおおおおお! レイナのにっこりスマイルが、これ以上なく盛り込まれとるな!!」
「てことは全没ですね!!」
大丈夫かなぁ……。
実際のところ今回の炎上騒動で、ファンクラブが果たした役割は大きい。
千佳が打ち出した方針は静観。ダンジョンイーグルスには、然るべき制裁が下る――だから他所様に迷惑かけることはしないで欲しいというお願い。
深層封鎖の件で暴徒化しそうな者も一定数居たらしいが、それにより思いとどまる者は多かったらしい。
(ほえぇ……)
なんとも現実味のない話である。
ぽけーっと口を開けている私を見て、千佳が、
「レイナ、どうしてもファンクラブが嫌っていうなら他の方針も考えてみるけど――」
「ううん、大丈夫。食材さんたちを悲しませるようなことはしないよ」
「よしっ!」
(……あれ?)
(なんかうまく乗せられた気がする!?)
数日後。
非公認ファンクラブは、めでたく公認のものとなった。
※※※
《SIDE:千佳》
研究所、兼、自宅にて。
「うへぇ……」
少女――鈴木千佳は、かかってきた面倒な電話に顔をしかめる。
相手は
いつも飄々としている掴みどころがない人間だ。
正直、胡散臭い。今は利害関係が一致しているため協力関係にあるが、決して心を許せる相手ではない――千佳は、そう考えていた。
「何の用や? 今日はもう閉店や」
「そう邪険にしないでよ。僕とキミの仲じゃないか」
「……切るで」
「わわ、待ってよ!」
本気で電源を落とそうとする千佳に、五十嵐が慌てて声を出す。
「ウチは忙しいんや。要件は手短に頼むで」
「なら単刀直入に――そろそろギルドを立ち上げる決意はついたかい?」
「……切るで?」
その件なら、何度も断っただろうに。
「あの子を、そんな面倒事に関わらせるつもりはない。最初から言ってるやろ」
「よく言うよ。裏であんなえぐい仕掛けしておいて」
「……なんのことや?」
偶々レイナが潜った先に、イーグルスの面々が居ただけだ。
その人たちが、偶々、レイナの配信で暴露した。
ただ、それだけのことだ。
「まあ良いけどね。ダンジョン界には、新たな風が必要だ。我が国は、このままダンジョン後進国のまま甘んじている訳にはいかない――そのためにも、まずは
「それには同意やな。そうやな……、まずは面倒な電話かけてくる胡散臭い人間とかやな」
「おまえなあ……」
苦笑する声。
「何度も言うが、ウチはあの子を面倒事の矢面に立たせるつもりはないで」
「君は……、あの子に意志を聞いたのかい?」
「それは――」
頼み込めば、それどころか話題にするだけでも。
きっとレイナは、無邪気な笑顔で引き受けてくれると思う。
レイナは良い子だから――だからこそ、重荷になるようなことはしたくないと千佳は願う。
「まあ、僕としては今回の騒動を利用させてもらうけどね」
飄々と言うは五十嵐。
彼は、ダンジョン庁に蔓延る悪しき風潮――特定のギルドと癒着し、言いなりになっている現状――を。
千佳は、レイナを敵視している邪魔なギルドを。
この機に、一気に叩き潰すつもりなのだ。
共通の敵を前に、今は利害関係が一致しているけれど――
「どうぞご自由に。だけど、もしあの子を利用しようとするなら――」
「怖っ。日本一の探索者に喧嘩は売らないって……」
こわい、こわい、と男は飄々とした口調で繰り返す。
やっぱり信用ならない相手だ。
「新体制には君も協力して欲しいな。この国を一端のダンジョン大国に――君たちのように優れた人間が、我が国には必要なんだよ」
そう言い残し。
五十嵐は、電話を切るのだった。
――はあ、レイナのな~んも考えてないすっとぼけた顔が恋しい。
千佳は大きくため息をつく。
あれは癒やしだ。
見ているだけでモリモリとHPが回復する良いものだ。
……その笑顔を失わすことのないように。
今日も、やるべきことをやるのだ。
(仮にギルドを立ち上げるとして……、何が必要になるんやろ?)
そうして千佳は、調べ物に没頭するのであった。
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