第62話
その後も私は、食材さんたちとトレーニング法について、ああでもない、こうでもないと話し合っていた。
しかし、モンスターハウスを使った方法を上回る効率の妙案は、なかなか出てこない。
"レベル5000になるまで帰れま10?"
"案外、すぐ終わりそう"
"常識に捕らわれていては、レイナちゃん式トレーニングを開拓することはできないゾ"
"やっぱり、おもちくん食べてみるしか・・・"
ちらっ。
ぷるぷるぷるぷる。
おもちくんは、ガタガタと震えながらにハコベールの中に飛び込んでしまった。
「もう……。おもちくんは繊細なので、冗談でもそういうことは言わないで下さいね」
"でも、本当は……?"
「美味しそう!!」
"草"
"おもちくん調理配信マダー?"
"おもち虐からしか得られない栄養素がそこにある"
このチャンネルで、おもちくんは大人気なのだ。
一部、変な趣味の人が現れてる気がするけど……、きっと気の所為だよね!
"こんな幼女が真剣に強くなる方法考えてるのにおまいらと来たら・・・"
"幼女(レベル3000の捕食者)"
"幼女(禁止カード)"
「幼女じゃありませんって!
む~。真剣に考えて下さい、食べちゃいますよ!」
むむむ~、私がふくれっ面になっていると、
"すまんw"
"う~ん、レベル以外だと装備品を一新するとか?"
"魔法を覚えてみるとか"
"もっとスキル生やそう"
ぼちぼちとアイディアが書き込まれ始め……、
"レイナちゃんのステータスからしたら、装備のステータスなんて誤差やぞ"
"なんならレイナちゃんオーラで装備品を守ってるまである"
"クラゲの消化液からも守りきってたしな・・・"
"服すら溶かせない無能消化液さんの話はそこまでだ!!"
"↑↑通報"
……私を置き去りにコメント欄で議論が加熱していき……、
"なら……、魔法?"
"魔法(物理)"
"魔法(拳)"
"レイナちゃんが詠唱なんて覚えられる訳ないだろ、いい加減にしろ!"
"【悲報】レイナちゃんが規格外すぎて、強くなる方法が見つからない"
"やっぱりおもちくん食べるしか・・・"
なんか私が悪いみたいな結論に至ってしまった!
解せぬ。
このチャンネルは、ありがたいことに歴戦の探索者さんも大勢視聴している。
きっと書き込まれたコメントの中には、有用なアドバイスも含まれているはずで……、
「魔法、憧れはあるんですよね。
戦況を見ながら的確な指示を出す大人の魔法使い――最高に格好いいと思うんです!」
"あ、なんか変なスイッチ入った"
"分かる!"
"知的なレイナちゃん・・・悪いけど最高に似合わない"
"《鈴木 千佳》とりあえずレイナは、明日までの魔法学の宿題やろうか?"
「そ、それはノーコメントで……」
千佳の言葉に、そっと目を逸らす私。
魔法学の授業は、先生の声がお経のように心地よくて、気がついたら眠っている不思議な授業なのだ。
魔法――✕。
私は脳内のチェックリストに大きくバツ印を付け、次のコメントを拾っていく。
「他に出ていたアイディアだと、装備品を変えるとか?
でも、それは難しいと思うんですよね……」
"まあ、レイナちゃんに装備が付いて来れないからなあ"
"どんな剣も、レイナちゃんが使ったらパキパキ折れそう"
"っぱ拳よ"
「いえ、そうじゃなくて。
ほら。私の配信って、癒やしを求めて見てくださってる方が多いじゃないですか」
"???"
"癒やし・・・?"
"つ闇鍋配信→通りすがりのミノタウロスを音もなく処すレイナちゃん"
"一周回って癒やされる気がしてきた"
「私の配信って、癒やしを求めて見てくださってる方が多いじゃないですか!」
"圧!"
"はい、レイナさま。私は癒やされています・・・"
"癒やされるまで無限ループする選択肢だこれ!"
もちろん食材さんが楽しんでくれれば何でもいいけれど。
それでもやっぱり私が目指しているのは、来てくれた人が癒やされるような楽しいグルメ配信なのだ。
「癒しといえば、やっぱりメイド服だと思うんです。
今からこのスタイルを変えるのは、ちょっと抵抗があって――」
私が配信時に着ている服は、可愛らしいフリフリがたくさん付いたゴシックドレスだ。
千佳のオススメに従ったものだ。
最初は抵抗があったが、ふわふわ可愛らしい衣装で、今ではすっかり私のお気に入りになっていた。
"いや、メイド服は探索者の中でも普通に人気商品やぞ"
"Oh・・・これぞクール・ジャパン..."
"というかレイナちゃんならオーダーメイドできそう"
"レイナちゃんの装備品をオーダーメイドとか企業側のハードル高すぎぃ!"
「嫌だなあ、食材さん。
装備のオーダーメイドなんて、エリート探索者がものすごいお金を払って、ようやく手に入る超高級品じゃないですか。
私みたいな一般人に手が出るはずが――」
"一般人(世界最強)"
"一般人(登録者数270万人)"
"いっそスポンサー契約して提供してもらおう"
"オーディション開こう"
いつもの食材さんたちの悪ノリだよね?
私は、ふと最近みたダンチューバーの配信を思い出す。
雑談メインのダンチューバーさんの企画で、リスナー参加型企画として、探索で使って欲しいユニーク武器(生産職の探索者が作成した装備品)を募っていたのだ。
配信にはカオスなネタ武器が多数送られてきて、配信は大盛りあがりで……、
(あり……、かも!)
「分かりました!
オーディション……、ではないですが、オススメの装備品を募集します!
いただいた装備は、次回のトレーニング配信で実際に使ってみて――」
"《鈴木 千佳》馬鹿っ、そんなこと言ったら――"
"おい急げ、ダンジョンイーターズに装備品を売り込むチャンスだぞ!"
"なんかトンデモナイ告知キタ!!"
"ちょっと知り合いの鍛冶ギルドに声かけてくる..."
"あ、これ。レイナちゃん、たぶん無自覚に言い放ったやつ・・・"
なぜだか、コメント欄が蜂の巣をつついたような騒ぎになっていく。
"《テトラポッド株式会社》そのオーダーメイド商品、是非とも我が社で作らせてはもらえないだろうか――"
"《クリーンアース合同会社》メイド服専門で探索者を支援してはや3年。どうぞ、我が社の製品をお使いいただけないでしょうか?"
"《燃える魂・鍛冶連合》釘バット。チェーンソー。モーニングスター。えっと、他には・・・、他には・・・・・・"
"↑↑性癖詰め合わせセットやめろ"
更にはコテハン付きで、そんな勧誘? の誘いのコメントまで書き込まれ始め……、
「ど、どうしよう千佳!?」
(な、なんかえらい大事になっちゃった!?)
久々の大騒ぎに、テンパる私。
"《鈴木 千佳》とりあえずレイナは、後でお説教な"
「ごめんなさい~!?
えーっと、とりあえず連絡はマネージャーまでお願いします!」
"丸投げ草"
"前も似た光景見たなw"
"実家のような安心感"
"《鈴木 千佳》えーっと、とういうわけでレイナの新衣装オーディションを開催します"
"《鈴木 千佳》うちの子の新装備作ってやってもいいよって心優しい方がいらっしゃれば、こちらまで連絡を――もちろん、相応の料金はお支払いします"
"《鈴木 千佳》募集要項はこちらまで。それから――"
"【朗報】マネちゃん、もはやこの程度の無茶振りではピクリともしない"
そうして私は、配信を終えるのであった。
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