第51話 瑛三郎の技 後編 ※前話同様以下略
「では参ります」
「承知いたしました」
バフ掛けが終わった
両者の短い会話が完了した瞬間、互いに向かって突進し間合いを詰めた。
50m程離れたところで観客として見ているわし等にも、二人の拳のぶつかり合う音が聞こえて来る。
「おぉ、瑛三郎君。中々にやるな」
「まぁ、腐っても魔王討伐した人ですしねぇ」
「リョク姉は厳しいのぅ。じゃが、
「え?皆さん、あれが見えてるんですか?」
観客の中で唯一、二人の動きを追えていないキャリーは言う。
まぁ、彼女は冒険者としては戦闘職でないのじゃから仕方ない。
「まぁの。見た目は互角じゃが、ティラミスはまだまだ本気を出しておらんから、実際には瑛三郎が攻めあぐねてる感じじゃの」
「という事は…」
「まぁ、彼自身も言っていたが、今の瑛三郎君ではティラミスに勝つのは無理だな」
わしの代わりに父様が答え、同時にこう続けた。
「お?何かしようとしてるな」
アレを出すつもりじゃな。
瑛三郎は一旦後ろに引いた後、力を溜めるため足を広げて膝を曲げ中腰になった。
ティラミスも後ろに後退し、特に邪魔をするわけでもなく終わるのを待っている。
「
力を溜め終わった瑛三郎は、めっちゃ恥ずかしい技の名称を言うと、ティラミスに向かって間合いを詰めた。
「
そして、更にわざわざ言う必要のない恥ずかしい技の名称を瑛三郎は発した。
「おおっ!!!」
その技の名前に、中二病患者の父様はたいそう喜んだ。
そんな事はともかく、瑛三郎は無数の炎を纏った拳をティラミスに繰り出した。
しかし。
「くっ!……」
瑛三郎は、まだ攻撃の最中で別に反撃を受けたわけでもないというのに、苦悶の表情を浮かべておった。
理由は、ティラミスが涼しい顔で全て手のひらで受けておるからじゃ。
「ふむ…全部で336回じゃったな」
「えっ?335回ですよ、ニーニャ様」
「リョクの言うとおりだな。335回だ、我が娘よ」
そんな会話にキャリーは、きょろきょろとわし等と瑛三郎達を何度も見る。
ともかく、これで勝負はついたのじゃった。
何故かじゃと?
二つの技の名称をよく見てみるが良い。
『
二つの技を合わせれば、理論的には400回拳を繰り出すことが出来る。
つまりじゃ。
瑛三郎が独自に開発した『
------
「あ、気付かれました」
ティラミスのその言葉から程なく、彼女の『ふともも枕』を受けていた瑛三郎は目覚めた。
「………、………ん?」
瑛三郎は目覚めの一言は、それじゃった。
無理もない、目の前に一際大きなマシュマロが二つがあったのじゃから。
そして、慌てて起き上がったもんじゃから、瑛三郎の額とティラミスのおっぱいが触れ合ってしまう。
「おわっ!…す、すみません」
起き上がってすぐに、瑛三郎はそれはもう見事なまでのお辞儀をしたのじゃった。
「って………あれ?…体が何とも無い………」
両手を見つめながら瑛三郎は不思議そうに言う。
「ティラミスが治したんじゃ」
「ニーニャ様の言うとおりですよぉ。えっへん」
わしは、そう言って瑛三郎の腰をポンポンと叩き、何故かリョク姉は我が事のように大してありもしない胸を張った。
「え!?そうなのか?……いや、だが、あれを治せる魔法は存在しないはずだが………」
「
戸惑う瑛三郎の肩を左手でポンと叩き、もう一方の手の親指を立て
「僕も驚きましたが、確かにティラミスさんが治されてましたよ」
ちなみに、何で瑛三郎が驚いているかと言うとじゃな。
あの未完成の技を使った後は、酷い筋肉痛に襲われて3日間は戦闘力がガタ落ちして、その後も7日間は引き続き戦闘力が50%の状態が続くからじゃ。
------
居間にて。
「いやぁ、良い物を見せてもらったよ。瑛三郎君」
父様は乾杯でもするかのようにティーカップを高らかに掲げて言うた。
「いえ……まだ未完成な技ですので」
「それはともかく、先程はありがとうございました」
瑛三郎はそう言うと、真向いの父様の横に陣取っているティラミスに礼をするために立ち上がろうとしたが、わしはシャツの裾を引っ張って止めた。
なお、止めたのは居間に戻るまでの道中でも、礼を何度もしていたからじゃ。
「あう………お気に…なさらず………」
こんな感じで、ティラミスは既に人見知りモードに戻っておった。
「ところで、先程の技…『
瑛三郎は、わしに促された座り直した後、ティラミスに訊いた。
「あぅ…えっと…それは違います」
「あの技は…
「ちなみに、技の名前は
最後の付け足した台詞に、父様は胸を張って
「まぁ、そういう事だ」
「俺もよくは分からんが、ティラミスの放つエナジー…人で言うと『気』だな…それで体内の新陳代謝を極限まで早めて体を元の状態に戻しているらしい」
父様の追加の説明に瑛三郎と麟、キャリーの3人は首を縦に振って納得の表情を浮かべた。
「あれほどの技ともなれば気の量も相当になると思いますので、人が行使するには1回が限度と考えて良いのでしょうか」
麟は小さく手を挙げて訊いた。
「そうだな。麟君の言うとおり、人だと1回が限度だろうね」
その問いに父様は端的に答えた。
「だが、回復職であれば覚えておいても損はないかも知れないぞ」
「その1回が生死を分けるかも知れないからな」
「『後は頼みます…世界を…世界を…救ってください………ガクッ』」
なんちゃって演技をしてテーブルに伏した父様は、すぐさま起き上がり大笑いをした。
そんな温暖湿潤気候のように穏やかな雰囲気が、その直後、ツンドラ気候のように凍り付くことになる。
ポン。
父様の背後に、突如として現れた母様が肩を叩いたからじゃ。
「お父さん………とても楽しそうですね」
「そんなに、私といるより娘の方が良いの?」
そう言う母様は、それはもう巨大などす黒いオーラを、その身に纏っておった。
「え!?いやっ!そんなわけないじゃないか」
「そもそも、今日は娘に会いに来たわけじゃなくてだな………」
「お話は帰ってから聞きます」
「はい………」
こうして父様は、母様と付き添いで来ていたリリに挟まれながら
「いやぁ、相変わらず凄いオーラでしたねぇ」
母様のオーラに気圧されたリョク姉は、いち早くキャリーの胸の中に逃げ込んでおったが、居なくなったと分かると再びひょっこりと姿を現した。
「母様は、自分以外の女が父様に近づくと嫉妬の嵐が吹き荒れるからのぅ」
「困ったもんじゃ」
「娘のお前でもカウントされるのか」
「じゃの」
恐らく、今日の夜は色々な意味で激しい夜になるじゃろう。
「それにしても凄いオーラだったな」
「全く身動き一つ取れなかった」
「ですね……麻痺にかかったかのように全く動けませんでした」
「え?そうなんですか?私は何ともなかったですが………」
瑛三郎と麟の会話に、キャリーは不思議そうな顔をした。
「それは、キャリー殿が戦闘職じゃないからじゃの」
「ちなみに、わしも身動きが出来んかった」
こうして、再び何事も無い日常へと戻ったのであった。
なお、ティラミスの技の『
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