第14話 怪しき中二病 前編

「おおっ!やったぞっ!」


わしの操作している商人がとうとう鍛冶職人に転職したのだ。

レベルも50になっていた。


「ニーニア様おめでとうございます」


麟はそう言って笑顔でわしを称えた。


「ようやく、これでお荷物から解放されるのか」


相変わらず瑛三郎は失礼であった。


「それにしても商人から鍛冶職人って変ですよねぇ」


そう言ったのは、わしの肩の上で座ってみているリョク。


「まぁ、所詮はゲームじゃからの。何でもありじゃ」


そう、ゲームは理屈ではなく、感じるものなのじゃ。

とりあえず、いったん休憩することにしたので、街の出口で3人並んで座らせた。


「それじゃあ、僕は珈琲とお菓子を用意しますね」


麟はそう言うと、食堂の方へを消えていった。

わしは背中を椅子にもたれてくつろぎ始めた時、ほぼ正面に居た瑛三郎が目に入った。


「…」


瑛三郎は、何やらジッと画面を見続けている。


「どうしたんじゃ」


「…いや、何か前にも見たやつが、同じ画面内に居てな」


そう言うので、わしはもたれていた椅子から再び座り直すと、自分のパソコンの画面を見た。


「お主の言うてるのは、この騎士かの?」


「そう、それだ。結構前からずっと付けられている感じがするんだよなぁ」


「気のせいではないのか?」


「いや、今日ずっと付けられていたぞ」


瑛三郎は腕を組みながらそう言った。


「ふむ…」


瑛三郎があまりに気にするため、わしはその騎士にカーソルを合わせた。


「名前は…闇夜之眷属ル=シファ…か…」

「ギルド名は常闇之黒猫団ダルク=キャッツ」

「恥ずかしいくらい中二病全開の名前じゃのぅ」

「痛そうなだけで、これと言って変なやつとも思えんがの」


「だが、そいつ。一週間前から俺たちの事ずっと付けてるぞ」


「マジでか」


「あぁ」


「あの、ニーニャ様」


「リョク姉、どうしたんじゃ?」


「これ、主様マスターじゃないですかね」


「まぁ、確かに父様は昔から中二病じゃったけど、父様のは全部レベルがカンストのはずじゃぞ」

「それに、アカウント情報を表す数字も、ほれ、ゼロではないであろ?」


このゲーム、アカウント番号を誰でも見ることが出来るようになっている。

不正操作等を申告するための機能として。

実は、このゲームは父様の兄が制作したもので、そのため、0~360と36万~77万台までの番号はゲームをするかどうかを問わず特定の人物用として設定されている。

そして、一人アカウントしか持てない仕様となっている。

ちなみに、この当該キャラクターの番号は65535であった。

これはこれで怪しいが。

なんせ、このゲームで遊んでいる人は1万人も居ないはずなのだから。


「うーん…おかしいですねぇ」

「そうだと思ったんですが」


腕を組みながらリョクはそう言った。


「どうしたんですか?」


そう言って現れたのは、珈琲とお菓子を持って帰って来た麟。


「それがじゃな…」


今までの経緯を説明する。


「麟はどう思う?」と、瑛三郎がく。


「そうですね。瑛兄さんがそこまでいうなら、かなり怪しいと思いますので、通報しておきましょう」


麟はそう言うと、自分のパソコンを操作し始めた。


「はい、これで完了しました」

「あ、早速、管理者が来ましたよ」


画面の方を見ると、ゲーム管理者のキャラクターが、闇夜之眷属ル=シファの傍にやってきていた。

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