第18話 縁その3

例の件があってから、麟が色々とおかしい。

料理を作っては焦げさせたり、洗濯をさせても洗剤と間違えて砂糖を入れたり、中庭の畑の水やりを忘れたり、ズボンのチャックを閉め忘れていたり等々。


「なぁ、ニーニャ」


「何じゃ、瑛三郎」


「一度、病院に連れて行った方がいいんじゃないのか?」


「無駄じゃ。医者では治せない病気じゃからの」


「そう言えば、あの日、俺を引っ張っておきながら言った言葉が【察してやれ】だったが、それと関係があるのか?」


「まぁ、そうじゃの」


かく、問題はあるが、問題は無いという事で良いんだな?」


「大丈夫じゃ。それに」


「それに?」


「わしには策がある」


そう言って、わしはドヤ顔で右手の親指を立てて瑛三郎に見せた。


「不安しかないんだが…まぁ、任せる」

「そう言えば、あの淫乱妖精は何処に行った?」


「ふっふっふ。その策というやつでな」

「今、わしの寝室で極秘任務中じゃ」


「いや、本当に不安しかないのだが、大丈夫なんだろうな…」


瑛三郎の言葉を無視して、わしはソファに座りテレビの電源を入れて、番組を見始めた。

それから、30分ほど経過した後、リョクがわしらの下へとやってきた。


「ニーニャ様、お待たせしました」

「準備はばっちりですよぉ」


リョク姉はそう言って、右手の掌を口元に当て若気た顔をした。

腕を組んで苦虫を嚙んだような顔をしている瑛三郎は、恐らく【また碌でもない事をしている】とでも思っているのだろう。

だが、わし等に文句をいう事もなく、テレビの方に目を向ける。

それから、10分程経ったであろうか、わしのスマホに通知が届いた。


「ん?トゥビップから通知か…メッセージが届いております…」


開けてみると、その相手はキャリー・キラーラビット氏であった。


「なになに…大変なことになりました」

「私が麟さんとxxxな関係になっているという噂がSNS上で広がっています」

「私は、もう引退した身ですし、こういった噂話も慣れていますが、麟さんは一般の方ですし、まだお若いのに…一体どうしたらいいでしょう…じゃと」


わしは、リョク姉の方に視線を向けると、見事なまでのドヤ顔と共に右の親指を立てて見せて来た。


「リョク姉…まさか…」


「やだなぁ。私じゃないですよ」

「私はポプ神に依頼しただけです」


--- ???「わしがやりました」 ---


「で、どうするつもりだ?」


呆れた顔をしながら瑛三郎が尋ねてくる。


「どうするも何も、今時SNSで騒ぎになってしまえば、もう止めることは出来ん」

「こうなっては仕方あるまい」


わしは一呼吸おいて、次のように言った。


「噂どおり、キャリーと麟がくっつけばええんじゃ!」


そう言うわけで、早速、キャリーに返信をした。

キャリーの返信【ちょっと待ってください。私はもう36で、彼は16歳ですよ?いくら何でも、こんなおばさんと…】というのは完全に受け流して【とりあえず、城までよろしゅう】と返信し返したのだった。

それから3時間程して、今は城の外。


「ニーニア様、どうして僕達はここに居るんでしょう?」


「気にするでない。そのうち分かる」


「瑛兄さん…」


「あー…その…なんだ…ニーニャの言うとおり、そのうち本当に分かる」


麟はリョクに視線を向けるが、リョクは右の掌を口元に当てて若気た顔をしているだけだった。

そうこうしているうちに、街の方角から土煙が見えて来た。


「?あれは…キャリーさんの大兎?ですかね」


「そうだな…」


その土煙は次第に大きくなり、そしてやがて、わしらの前でそれは止まった。

その兎車から降りて来たのは、当然ながら彼女である。


「キャリーさん。どうしたんですか?」


事情を全く説明していないため、配達の予定などなく現れた彼女に麟は驚きを隠せない。


「ごめんなさい!」

「SNS上での件、私の方で何とかしますので…」


そう言いかけたところで、わしは謝っている最中の彼女の肩をポンポンと叩く。


「いや、まだ麟には言うてなくての」

「まぁ、話は城の中でしよう」


そう言って、城の居間へと案内し、全員が集まったところで、これまでの経緯を麟に説明した。


「そういうわけでじゃな」

「どうじゃろう。キャリー殿、人の噂も七十五日というし、この城で噂が収まるまで待ってみてはどうじゃ?」


「成程、それが目当てだったのか」


わしの隣に居る瑛三郎は、わしにだけ聞こえるように小声で言った。


「ですねぇ」


いや、聞いてた者がもう一人いた。


「いえ、そんな…私はもう引退しましたので、田舎に戻ろうかと思っています」


しまった!それは全く予想外であった。

リョク姉の方を見ると、リョク姉も予想外だったようで、あわわわと両の掌を口に当てながらわしの方を向いた。


--- ???「御免、俺っちも予想外だったわ」 ---


「今日は、麟さんに直接謝りたくて寄らせていただきました」


「いえ、キャリーさんは何も悪くないですよ」

「それにしても、僕達しか知りえない事が何故SNSに流れたんでしょうか」


ギクリ。

不味い、このままでは気付かれてしまう。


「と・に・か・く!」

「キャリー殿は当分ここに居るがよい」

「で、麟が、きちんと責任取ってお世話をするんじゃ」

「これは1万年以上生きて来た、わしが決めたことじゃ」

「嫌とは言わせんぞ」


というわけで、最後はただの力業で、彼女を城に住まわせることに成功したのであった。


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