第19話 伊豆でない踊り子

キャリーが城に住み始めてから、既に2週間が経過しており、今は6月も中旬に差し掛かろうとしていた。


「キャリーさん、それはいいですよぉ…」


と言う麟をよそに、住人たち全員の洗濯物をするキャリーであった。


「お主は気にならんのか?瑛三郎よ」


「気にならないわけではないが、本人がやりたそうにしているからな」

「無理に拒む必要もない」

「まぁ、麟の場合は、色々と思う所があるだろうから無理もない」


「そう思うなら、助け舟を出してやればよかろう」


瑛三郎は、ふっ、と笑うだけで助け舟を出そうとはしなかった。

流石に鈍い瑛三郎でも、2週間もあれば気付いたようである。

それは、それとして、わしは麟達の下へと歩き出した。


「あ、ニーニア様」

「僕の分は自分でするって言っているのですが、キャリーさんが聞いてくれないんですよ」

「どうか、説得して下さい。お願いします」


そう言う麟を素通りして、キャリーの傍まで行く。


「あ、ニーニアさん。もうすぐお洗濯物が終わります」

「干し終わりましたら参りますね」


「うむ。では、待っておる」


それだけ言って、わしは麟の手を取って居間へと歩みを進めた。


「どうして説得してくれないんですかぁ…」


「まぁ、良いではないか。本人もやりたがっておるのだし」

「それとも、お主がキャリーの下着を洗いたいのかの?」


若気た顔をしながらそう言った。


「そ、そんなわけないですよ。僕はただ、自分の下着は自分で洗いたいだけで…」


「ふむ」

「じゃがの。お主が思っているほど、キャリーは全く気にしておらんと思うぞ」

「キャリーには弟も居るらしくての。昔は彼女がよく洗濯しておったらしい」

「つまりじゃ」

「お主の事を男として見て居らん、というわけじゃ」

「じゃから、安心せい」


「いえ、それはそれでもやっとします…」


わしと麟が居間に戻ってから15分ほどして、キャリーも居間へとやってきた。


「お待たせしました」


「おぉ。待っておったぞ」

「お主の席はここじゃ」


そう言って、ソファ…ではなく、彼女のノートパソコンが置かれているテーブルの席を指差した。

これから、何をするのかと言えば、当然ゲームである。

そう、例のメガカオスオンラインRebootである。


「私は何を目指したらいいのでしょう」


「そうじゃのう。わしは鍛冶職人で、瑛三郎は聖騎士、麟は司祭で、父様は魔導師、母様は暗殺者」

「それなりに揃っておるからのぅ。何でも良いんじゃなかろうか」


「踊り子なんて良いんじゃないですかねぇ」

「正にうってつけですよぉ」


そう言って会話に入って来たのは、キャリーの巨大ロケット砲を堪能しているリョク姉。

リョク姉の性癖は置いておくとして。


「うむ。それは良いな」

「キャリー殿、どうかの?」


「そうですね…皆さんの能力値を上げるスキルを持っているようですし、皆さんのお役に立てそうで良いですね」


キャリーは、踊り子のスキルや、その先にある舞闘家の情報も見ながら、そう言った。


「じゃあ、それで決まりじゃの」


そう言うわけで、夕方まで延々とキャリーの踊り子のレベルを上げていったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る