第25話 パソコンがやってきた

涼しいクーラーの効いた居間にいる時に、それは鳴った。

ガチャリと電話の受話器を取ると、相手はボッタクルゾンのゆん姉であった。


「あ、ニーニャさんですか?」


「おぉ!ゆん姉。という事は、出荷の準備が出来たという事かや?」


「ですです。なので、何時取りに来られますか?」


キャリーさんが城に来てからというもの、荷物は直接街まで取りに行くことになってしまった。

他の配達員は、未だに魔王城に近づくのを怖がって配達してくれないからだ。


「そうじゃのう…午後の3時にそちらに行こうと思っておるが、大丈夫かや?」


「はい、大丈夫ですよ。24時間いつでもお待ちしておりますー」


「ははは、それじゃあ、宜しく頼む」


「はいはーい、待ってまーす」


ガチャリと受話器を置くと、傍で飛んでいたリョク姉が口を開く。


「パソコン取りに行くんですかぁ?」


「うむ。お昼ご飯を食べたら行くぞ」

「皆の者も、聞いておったの?」


「あぁ」「はい」「はい、聞いてました」と、3者はそれぞれ返答する。

こうして、午後に街へ向かう事になった。

ん?引きこもりはどうなったか、じゃと?

これくらいの移動は許してくれ。


そして、今は、その道中。


「そう言えば、先日、この辺りで山賊に襲われたんですよね?」


そう言って、麟が口を開いた。


「そうじゃの。まあ、全員、瑛三郎が捕まえてギルドに引き渡したわい」


「私、結構な期間配達してましたが、山賊ってやっぱりいるんですね」


キャリーは、そう言って、そのために馬車でなく足の速い大兎に引かせていると言った。

いつでも逃げられるようにという事で。


「てっきり、月兎族だから大兎を使役していると思っていたわい」


「まぁ、それもあるんですけど、基本的に荷車を引くのは得意ではなので、最初は凄く酔いました」


そう言って、彼女は苦笑いをした。

確かに、もの凄く揺れそうじゃ。


「私だったら平気ですよぉ」


と、わしの頭上で飛んでいるリョク姉が言う。

そりゃあ、飛んでいるのだから酔いはせんじゃろ。

というか、どうやって荷馬車に乗っているわし等について来ておるんじゃ?


「それは、企業秘密、というやつですよぉ」


人差し指を口元にあてながら、リョク姉は言った。


「そろそろ着くぞ」


という、瑛三郎の言葉に、わしらは前方に視線を合わせる。

視線の先には、小さく門番の姿も見えていた。


そして、ボッタクルゾンに到着。


「ゆん姉ぇ、居るかや?」


「あ、ニーニャさん。こんにちは」


そう言って、棚で整理をしていたゆん姉が近づいてきた。


凛凛リンリン、倉庫に置いている荷台を持って来て」


「はーい」


そう言うと、彼女はトトトと軽快な足取りで、奥にある倉庫に駆けていった。


「ささ、こちらにどうぞ」


ゆん姉に促されて、わしらは休憩スペースの椅子へと腰かけた。

元々、配達専門のお店であるため、店内にはわし等しか居らんかった。

だが、裏にある巨大な倉庫では、恐らく戦場と化しておるに違いない。

わしは、ゆん姉が持ってきたレモネードをストローですすりながら、そう思った。


「お待たせしましたー」


そう言って、凛凛が荷台を引いて現れる。


「おぉ、サンキューじゃ、凛凛」


わしは、傍に来た凛凛の頭を撫でてやる。


「えへへへ」


と、照れながら喜ぶ凛凛の姿に、一同は癒されたのだった。

その後、少しばかりおしゃべりをしてから、瑛三郎は引き継いだ荷台を馬車まで移動させて、パソコン3台を積み込んだ。


「今日は、もう帰られるんですか?」


「んにゃ、折角来たからギルドにも顔を出して、街を散策して夕飯を食ったら帰ろうかと思うておる」


「そうなんですね。良い傾向です」

「ニーニャさん、出不精でみんな心配してますからね」


「遥か年下の人達に心配される1万歳越えの女…」


「うるさいわい」


わしと瑛三郎のやり取りに、皆が苦笑した。

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