第12話 鈍感

5月も中頃に差し掛かると、ぽかぽか陽気を超えて少し暑さも感じるようになった。


「のぅ。麟は何をしておるんじゃ?」


何時ものように、中庭の窓で肘を持たれながらわしは言った。


「あぁ。中庭の開いているところに野菜とか植える、って言ってたな」

「俺も手伝おうとしたが、自分の趣味だからって断られてしまった」


「ほぅ」


「とりあえず、比較的育てやすい薩摩芋と葱を育てるって言ってたな」


「ほぅ。それは楽しみじゃな」


「とりあえず、食いたいなら収穫するときくらいは手伝えよ」


「分かっておる」


そう言って、窓にもたれていた姿勢を止め立ち上がると居間へと向かった。


「それはそうと、そろそろぷてちを追加購入せねばな」


そう言ってパソコンの電源を入れ立ち上げる。

瑛三郎は壁にもたれてながら、わしのすることを眺めて居った。

他にすることは無いんかのぅ。


「ん?父様からメールが着て居る。なになに…」


メールの内容は、端的に言ってメガカオス・オンラインRebootを再開したのに何故自分に言ってくれなかったのか、という苦情であった。


「なんで言ってくれないも何も、父様の持っているキャラはもうレベルがカンストしておるではないか」


そういうわけで、始めたばかりなのでレベルが低すぎて父様の期待にはお応え出来ません、と回答を送っておいた。


「さて、ボッタクルゾンでぷてちを買うぞ」


そう言って、31日分のぷてちをカートに投入し決済を済ませた。


「ふぅ。あとは届くのを待つだけじゃな」


そう言うと、パソコンの電源を切って、テレビを見るためにソファに座った。

瑛三郎も、近くのソファに座る。

本当に、こやつは何もすることは無いのか。


「俺は今朝しないといけないことは、もうやってしまっているからな」


なんじゃこやつ、わしの思考を読んだとでもいうのか!?


「なんか驚いてるようだが、お前の考えてることは大体分かる」

「もうお前らと連んでから4年目だしな」


「そう言えばそうじゃったの」

「お主もいい年なんじゃから、そろそろ将来の事を考えたらどうじゃ」


「…まぁ、それは考えている」


「ほぅ」


「だが、お前が普通に独り立ち出来るようになるまでは、それも叶わんだろう」


「ふむ…ん?まて、それじゃあ、まるで一人では何も出来んみたいではないか」


「いや、そのとおりだろ」


「わしは1万年以上生きておるんじゃぞ?お主のようなひよっこと一緒にするでない」


「なら、料理は作れるのか?」


「お湯を入れたら簡単にできるではないか」


「それは料理を作っているとは言わん」


確かに。

じゃが、わしは一人で部屋の掃除…最近は瑛三郎がやっておるの。

あれ?わしはもしかして一人では何も出来んのではないのか?


「ようやく理解したような顔をしているが、そういう事だ」

「俺をそんなに追い出したければ…」


「誰もそんな事言うとらんわ!」

「あ…いや、元々父様の紹介で成り行きで今に至っておるからの」

「魔王も討伐し終わったんじゃから、もうお主の好きにして良いというかの…」


「…ま、今の生活は俺も意外と気に入っている」

「だから、気にしなくていいし、本当にやりたいことが出来れば言う」


「そ、そうか…ならええんじゃ」


「あれ?お二人ともどうかしたんですか?」


畑仕事が終わったのか、タオルで汗を拭きながら麟が居間に戻って来た。


「いや、何でもない」


「うむ、世間話をしておっただけじゃ」


「そうなんですか?」


首をかしげながら不思議そうにしているが、それも一瞬。


「済みませんが、僕ちょっとお風呂に入ってきますね」


そう言うと、風呂場の方に消えていった。

そして、再び麟が戻ってくるまで居間は微妙な空気が流れたのであった。


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