第11話 アレが無い…だとっ! ※下ネタあり

「散る桜、残る桜も、散る桜」


わしは中庭の見える窓で両肘をつき両の掌に顎を乗せ、中庭でせっせと桜の花びらをかき集めている麟を見ながらそう言った。


「何だ、お前にしてはえらい風流な事を言うじゃないか」


わしの横で右肩を窓側の壁にもたれながら、作業をしている麟を同じように眺めながら言う。


「【お前にしては】は余分じゃ」

「まぁ、伝説級の偉人の言葉らしいから、わしが考えたものではない」


「ほぅ。お前が伝説級とまで言うということは、相当だな」


「そうじゃの。父様の時代より更に昔の人物らしいしの」

「そんな事より、お主は手伝わんのか?」


「中庭は麟の管轄だからな。それに俺は俺でやることはやっている」

「お前が今、肘を付けている個所も俺が今朝掃除した所だぞ」


窓を見れば曇りもないし、塵も見当たらない。

通路も見渡したが、綺麗なものである。


「よくもまぁ、こんな広い城を掃除するもんじゃ」


「いや、流石に全部は出来ん」

「毎日使う所は毎日掃除するが、それ以外の箇所は何日か置きだ」


「成程の」


「ところで、お前。自分の部屋はちゃんと掃除してるんだろうな」


ギクリ。


「もしかして…あれから掃除してない、なんてことは無いだろうな?」


「ば、馬鹿にするでない。1回は掃除したわい」

「なんじゃ、その【駄目だこいつ】みたいな顔をしおって」

「そこまで言うならお主の部屋を見せてみい」

「ちゃんとしておるかどうか確かめてやる」


「ニーニャ様、ニーニャ様。それ絶対死亡フラグ的なやつですよ」


リョクはわしの耳元でそう囁く。


「心配するでない。もとより彼奴あやつが掃除をしておるのは分かっておる」

「わしの目的は外にあるのじゃ」


瑛三郎に聞こえないようにリョクに囁いた。


「というわけで、お主の部屋をまず見せてもらおうか」


瑛三郎は頭を掻きながら何かを疑うかのようにわしを見ていたが。


「…まぁ、良いだろう」


そういうことで、瑛三郎の部屋まで行くことになった。


「わぁ、凄い綺麗ですねぇ…」


リョクは部屋を見回しながら素直な感想を言う。


「ニーニャ様の部屋とはえらい違いですね」


「どうだ、これで満足したか」


その言葉はリョク姉にではなく、当然わしに向けた言葉であった。

だが、わしはその言葉を無視して一直線にベッドへと向かう。

そして、一気に敷布団を剥がした。

男子たるもの、エ■本の一冊や二冊はこういう所に隠しておるものじゃ。

だが、目的の物は無かった。


「な…なんじゃとっ!」


「何やってるんですか?ニーニャ様」


リョクは不思議そうにわしに訊いて来る。


「ほれ、リョク姉も言っておったじゃろ」


「あぁ!エ■本ですね」


「ああ、じゃが無いんじゃ」


「いえいえ、まだ分かりませんよぉ」


わしはリョク姉の言う箇所を隅々に探す。

箪笥の裏から机の引き出し等々。

しかし、結局何も見つからなかった。


「おかしいですねぇ。主様マスターはたいていそういったところに隠していたんですが」

「まぁ、直ぐに私が御主人様マスターにちくって、主様マスターが泣く泣く捨てる羽目になってたんですけどね」


リョク姉はあっけらかんという。


「気は済んだか?」


壁にもたれている瑛三郎が言う。


「ぐぬぬぬぬ…」


「気が済んだなら、さっさと出るぞ」


そう言って、瑛三郎は先に部屋の外に出ようとする。

不本意ながら、わしらもそれに従った。

そして、わしの部屋の前まで来たところで。


「じゃあ、次はお前の部屋を見せてもらうぞ」


瑛三郎はそう言うと、わしの許可も得ないまま扉を開けた。


「こ…これはっ!」

「…これ本当にあの時の部屋か?」


そう、わしの部屋は趣味の品は出したまま、ぷてちの袋もそのまま、というベッド以外がそれらで埋め尽くされていた。

瑛三郎は左手で顔を覆い、それはもう酷い落ち込みようであった。


「今から掃除をする」


そう言うと、それはもう見事なまでの手際の良さにより、次々と綺麗になっていった。


「いやぁ、流石ですねぇ」


と、リョク姉は褒めた上で。


「ニーニャ様は、ああいう男子と結婚しないと駄目ですね」


と、口元を隠しているが明らかに目元が若気にやけていた。


「馬鹿を言うでない。瑛三郎にはもっと器量の良い女性の方が似合うわい」

「それにリョク姉も、わしの年齢は知っておろう」


「年齢は関係ないと思いますけどねぇ」と、リョク姉は瑛三郎の方を見ながら言った。


そうこう言っているうちに掃除が終わり、部屋の外には大量のごみ袋。


「うわぁ、凄いですねぇ」と、中庭の掃除が終わったのだろう麟はそう言って現れた。


「麟、庭の掃除で腹が減っているだろうがすまん。今から昼食の用意をする」


「いえ、大丈夫ですよ。僕も手伝います」


そう言って、二人は食堂の方へと向かい、いつもより1時間程遅れて昼食となったのであった。

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